第48話 ポーション作り

 さて、酒造や婚約なんかでバタバタしていたが、もちろん錬金術の方も充実している。


「正確には、これは錬金術じゃないんじゃが」


 今日は師匠、もといウルリカと一緒に、薬草をゴリゴリしている。僕としては、こういうのを錬金術だと思っていたが、冷静に考えたらこれは薬学。そりゃそうだ。


 この国の魔法省は、魔法陣を研究する魔法課、軍属魔導士を育成する魔導課、魔道具を作成する魔道具課、そしてかつて錬金術課だった付与術課に分かれているが、前三つに属さないものは全て錬金術という範疇で括られている。これは人間族共通の考え方だ。


 だけど森人エルフにとっては、全て同じものであって、同時に別個のもの。自らを含む自然界の魔素の活用、それは植物から抽出した魔素を利用して製薬することも含む。ポーション作りは薬学であり、同時に魔術でもあり、身近な生活の知恵でもある。


 破砕、加水、煮沸、濾過。習得が難しい製薬も、鑑定があれば楽々だ。どのくらい挽いて、どのくらい水を加え、どのくらい加熱して、どんな割合で調合すればいいか。最初から高品質のポーションを作り出す僕に、ウルリカも舌を巻いていた。


「お主、本当に人の子かえ」


 とても17年ぽっちしか生きていない人間族の出来ることじゃないと。うん、僕自身もループ何周目か覚えてないから、分からないんだけどね。そして前世もあるし、チートもあるし。


 この辺りで採れる薬草で、製薬については一通り勉強した。今度は何を教えてもらおうか。だけどその前に。


「師…ウルリカ。このポーションにエンチャント掛けたら、どうなるのかな」


 ウルリカはニヤリと嗤った。


「お。そこに気付いたかえ」




 ポーションには、普通に付与できた。何てことはない、火属性は火炎属性付加、火炎耐性、攻撃力増加、POWちからの上昇。水属性は水(氷)属性付加、もしくは耐性、魔力増加、INTちりょくの上昇といった具合。効果はエーテルの素材によってまちまち。普通に武器防具に付与するのと同じ結果となった。しかし効果はポーションと同じく一時的なもの。それなら、装備品に掛けた方がお得だ。


 ならば素材にエンチャントしてからポーションにしてみたら?やはりちゃんと出来た。そして、エンチャントを掛けた素材で作ったポーションに、更にエンチャントを加えることも。だけど消耗品ゆえに、やはり一時的であることには変わらない。効果時間が伸びたり、複数の効果が同時付与出来たりしたくらいか。当然、付与エーテルの相性問題は健在で、相性が良くないもの同士は効果を打ち消しあったり、半減したりする。


「まあ、何でもやってみるのがよかろ。好奇心が学びを育てるでな」


 彼女もこの研究を長く続けている。少なくとも、カバネル一族がこの地でまつりごとを執り仕切る、数百年以上は。僕が試してみたことくらい、全て想定内なのだろう。材料、特にダンジョンで拾ったエーテル素材は山のようにあるのだ。手当たり次第にエンチャントしてみよう。




 ところで、ポーションには素材の段階で一度、そして完成品にもう一度、エンチャント出来た。ということは、エーテルの元になる素材にエンチャントを掛けてからエーテルにすると、どうなるのだろう。


 まずは序盤お世話になった、最も在庫の多いトンボの羽から。




・ドラゴンフライの羽


→ 風属性、重量0.1




 するとこれが、




・ドラゴンフライの羽+1


→ 風属性、重量0.1




「+1って何だよ、+1って…」


 そうだ。2周目で鑑定スキルを取った時、奮発して買ったお高いブーツに「+1」って表示が見えた気がする。やっぱ同じものでも性能が違うとそうなるよな、って思ったものだ。じゃあ、この羽でエンチャントを掛ければ、もっと性能の良い秋津シリーズが作れるんじゃないだろうか。


 そして何か付与を付ける素体を探そうとして、ふと気が付いた。


 このドラゴンフライの羽+1にもう一度エンチャントを掛けたら、どうなる?




・ドラゴンフライの羽+2


→ 風属性、重量0.1




 出来た。1が2になっただけ、だけど。てか、プラスってどこまで上がるの?試してみなければ。


 結論から言うと、羽は+10までエンチャント出来た。そして+10という表示の代わりに、+Maxと表示された。


 ドロップ品は、同じものを10回まで重ねて付与できた。異なるものは1回だけ。そして、その場合+は付かない。例えば土属性のピルバグの殻を付加すると、こうなる。




・ドラゴンフライの羽


→ 風属性、重量0.1、守備力微増




 同じものを付加する時、例えば+1に+1で作ったエーテルを付加すると、+3になる。あくまで使用した羽の枚数によるらしい。そして+5に+5を付加すると、ちょうどトンボの羽1枚分のエーテルが吸収されず、+Maxに落ち着く。


「お、やっておるな。何か面白…」


 自分の仕事が終わったウルリカが、僕の手元を見て固まっている。視線の先には+Maxの羽。外見はトンボの羽のままだが、うっすらと風属性特有の緑色に発光している。


 そこからは、二人して延々とトンボの羽をエーテルにして付与を繰り返した。彼女は、いろんな組み合わせを試してみたことはあれど、同じのを10回とか無かったらしい。


「普通こんな、同じ素材が揃っておることなどあり得んのじゃ!」


 そうなのかな。モンスターハウスで荒稼ぎする冒険者なんて、これまでにも居なくはないと思うんだけど。アレか。拾っても稼ぎにならないアイテムは放っておくとかかな。拾うの、地味に面倒だもんな。


 そうして作った、+Maxの羽100枚。大体普通の素材に付与を付けようとすると、少ないもので1枚、装備品で10〜100枚ほどとピンキリだ。良いものだともっとする。とりあえず、僕の手持ちの中で一番強そうな、ダマスカスナイフに。これはマロールの上級ダンジョンのボスドロップだ。するとエーテルは思ったよりも多く浸透して行き、限界まで付与するために、結果180枚もの+Max羽を必要とした。




・秋津のナイフ+Max


→ 攻撃力248、重量-100、飛翔フライ




「「…」」


 とんでもないアーティファクトが出来てしまった。通常の秋津のナイフだと、10個装備のセットボーナスで付く飛翔スキルが、単体で。攻撃力は、元のナイフ+198。羽を全部で1,980枚使ったからか。そして重量-100も地味に凄い。他の装備品の重量ペナルティをことごとく相殺した上、-の数値だけ飛翔能力をアシストするらしい。


 前回、あれだけ大興奮で作った秋津シリーズが、一気に霞んで見える。もうこんなん知っちゃったら、作るしかないじゃん。僕らは次の秋津Maxを作るため、再びトンボの羽と格闘を始めた。

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