第47話 婚約発表

「というわけで、我ら婚約するに至った」


「あっあのっ、師しょ…いや、ウ、ウルリカの婚約者、アレクシです…」


 その日の晩餐。僕らは一緒に子爵邸に戻り、婚約を宣言した。


「まあっ、素敵!」


「ウルリカ、アレクシ君、おめでとう!」


 お花畑のカバネルカップルは盛大に祝ってくれるが、


「ううむ、そう来たか」


「相手がウルリカでは反対出来んな」


 子爵準男爵のカバネル兄弟は渋い顔だ。仕方ないよね。師匠も僕も、どっちも出て行かれたくない人材だ。反対するわけには行かない。


「そういうわけで、今後縁談は不要じゃ」


「今後もカバネル家とクララック領の為に精進しますので、その」


「まあいい。今は「婚約」だ。いつか気が変わることもあるだろう」


「アレクシ君、君はまだ若い。今後「世間」を知ってからでも遅くなかろう」


 不穏な兄弟。しかし、


「まあ、伯父上、父上。ラブラブなお二人に、そんな物言いはありませんわ!」


「そうですよ。アレクシ君がどれだけウルリカに甲斐甲斐しく尽くしていることか」


「うえっ」


 いきなり背後から撃たれた。いや、援護射撃なんだけど。しかし、


「「な、なんだってーーーッ!!!」」


「あの掃き溜めが、人の住める状況に?!」


「カバネル家史上未だかつて誰も全貌を見たことがないという魔窟が?!」


 兄弟だけじゃなく、その場の使用人さんたちもガクブルしている。てか、カバネル家史上って。


「それにしても、歳の差カップルなんてロマンですわよね♡ 一体どんな馴れ初めが?」


「乙女の歳のことは言うでない」


 ズビシ。ほろ酔いで恋バナをせがむカロルさんの喉に、師匠の手刀が容赦なく炸裂する。


「ンゴッ!」


「ははは。ウルリカに年齢の話題は禁物だよ、アレクシ君」


「はぁ…」


 それにしても、確かカバネル家は、クララック領に封地ほうちされた貴族ではなかったはず。言い方は悪いが、土着の豪族が王国に取り込まれて、子爵位を賜った家系だ。そのカバネル家の歴史をもってして、あの工房はずっと腐海だったということは…


「お主、余計なことを考えるでない」


 ズビシ。


「オゴッ!」


 僕の喉にも、鋭い手刀が刺さった。




 というわけで、いつまでも客分としてカバネルさん家にお世話になるわけには行かない。彼らには許可を取って、師匠の工房の隣に家を建てることにした。子爵家からは、お祝いに建築の手配をくれると言われたけど、僕には魔道具がある。


城砦シタデル


 ロックウォールLv10、城砦シタデル。ボス戦に活躍する、戦闘中不壊の最強の砦。つまり、スキルを解除するまで壊れない。名前はいかついけど、サイズや内装は自在に変更出来る。こういう時、DEXきようさ上げてて良かったなって思うんだ。全て石造りだけど、キッチンから浴室、作り付けの収納まで、細かく作り込める。


 敷地はランドスケイプでならし、ついでに街道までの私道も整備。地味だ地味だと言われる土属性だけど、こと土木作業には無類の有能さを発揮する。


 翌日、堅牢だが城砦と呼ぶには小ぶりな一軒家と、王都よりも立派で滑らかな石畳を見て、カバネル兄弟は顎を外していた。


「もう。お祝いに邸宅を建てて恩を売ろうとしたんでしょうけど、アレクシさんはそんなタマではありませんわ」


「ほほ。わしのダーリンは有能じゃの」


「だ、ダーリン…」


 実年齢は何歳いくつか分からないが、外見はまるで美少女。僕はこれ見よがしに腕に抱きつく師匠に、カチコチになった。いや、前世ある程度経験があったからって、エルフは駄目だろう。反則級の可愛さだ。ちっぱいだけど。


「お主、今良からぬことを考えたであろう」


 ズビシ。


「あうっ!」


 後日、クララック領都に石畳を敷いてくれと要望があったのは、また別のお話。

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