第31話 不人気ダンジョン再び(2)

 翌日、僕は再びダンジョンを訪ねた。今日の僕は昨日の僕とは違う。何が違うって、作って来たのだ。追加の魔道具を。




魔道具・光 「小」「光」


魔道具・着火 「小」「火」


魔道具・爆炎エクスプロージョンLv1 火炎ファイアスプレッド 「小複数」「火」「飛」


魔道具・治癒ヒールLv1 治癒ヒール「小」「水」「光」




 僕は、昨日狩ったスライムの魔石と、砕いた魔石粉を使って、追加で4つの魔道具を作った。DEXきようさが1日で3から23に上昇し、その恩恵をひしひしと感じ取る。火曜日に入学式、それから水木金と3日かけてやっと作った散弾銃ショットガンの魔道具。一度作って慣れたお陰もあるけど、一晩で4つ、楽々作れた。


 属性が違う魔道具は使えるか。答えはイエスだ。生活魔法の光や着火だけでなく、水属性か光属性しか使えないはずの治癒ヒールがちゃんと使えた。火炎ファイアスプレッドもダンジョン到着後に試運転、難なく発動を確認した。


 火炎は、聖句を見ての通り、散弾銃よりも1つ少ない。物理的にダメージを与えるための「打」が不要で、しかも与ダメージが「INTかしこさ/2」と、コスパも攻撃力も完全上位互換なのだ。やはり土属性は、攻撃手段としては火属性の足元にも及ばない。


 それにしても、無駄に他属性の魔法スキルの聖句まで覚えていてよかった。王都で「変態ガリ勉」とまで陰口を叩かれただけはある。さあ、今日も張り切って行こう。




 火炎を試射したら、早速せっせとスライムさらい。今日は柄杓ひしゃくを持って来た。水たまりの中の石をすくってザルに上げ、ダンジョンの外に持ち出してバールで潰す。ひたすら地道な作業だが、今の僕では魔道具をもってなお、ネズミにもコウモリにも歯が立たない。とりあえず、あと1レベル。


 昨日コウモリにやられてからも、何度か核を集めて砕いていたのが良かった。今日は5往復目でファンファーレが鳴った。これでようやくINTかしこさを上げられる。そうすれば、散弾銃も爆炎も、多少使い物になるはずだ。


 今日は趣向を変えてみる。狙うのは、あの憎きネズミだ。奴らは火に弱い。今回、そのために作って来た火炎の魔道具。前ループで鑑定した爆炎スキルの内容は、以下の通り。




爆炎エクスプロージョンLv-


MPまりょくと引き換えに広範囲に火炎を噴射するスキル

 取得条件・火属性、Lv10、INT20


Lv1 火炎ファイアスプレッド


→範囲に弱い火炎を噴射する。噴射数はINT/2、攻撃力はINT/2。MP15




 今の僕のINTかしこさは13。噴き出す火炎は7本、攻撃力は7。対してネズミのHPは10だけど、火属性が弱点で200%ダメージ。理論上、スポーン即キルが可能なはずだ。倒せなかったらどうしよう。いや、火の生活魔法で侵入すればエンカウントしないほど、火が苦手なんだ。きっと逃げてくれるに違いない。念の為、バールもベルトに引っ掛けておく。


 さあ、憎きネズミ共、勝負だ。


 結果は呆気なかった。光の魔道具で灯りを取りながら、例の湧きポイントの横穴に到着。到着と同時に火炎ファイアスプレッド、ネズミは一瞬でコインと尻尾に変わった。未だに信じられない。こんな簡単でいいの。


 調子に乗った僕は、それからしばらく奥まで進み、ネズミが出るたびに火炎で狩って行った。すると間もなくファンファーレが鳴り響き、僕はあっさりレベル5に到達。インベントリが解放された。ああ、これで帰りは大荷物を持たずに済む。さあ、どんどん狩って行こう。なんせ魔石は、足元の水たまりの中に山ほどあるのだ。僕のかまぼこ板が、火を吹くぜ。




 手元に用意していた魔石が切れたので、一旦表に出る。ネズミにエンカウントしたくなかったら、光源を光から火に変えればいいだけだ。実に楽ちん。コウモリは、こちらから攻撃しないと襲って来ないしね。


 僕はほくほくとお昼を食べた。こんな美味しいダンジョン攻略、久しぶりだ。今日はこの後いっぱい魔石を集めて帰ろう。


 何度か水場と外を往復し、片手間にネズミを狩りながら、魔石を集める。虫ダンジョンのトンボほどじゃないけど、レベルもサクサク上がる。そして集めた魔石は、片っ端からインベントリへ。帰りは手ぶらだ。なんて素晴らしい。今日の僕はご機嫌だ。


 さあ、今日はちょっと早いけど、そろそろ帰ろう。明日も学校だしね。馬車まで待たなくても、歩けばいい。なんせ今日の僕は、手ぶらだから。




 そう思いながら、手荷物をインベントリに収納していた時だった。


 魔石片 346グラム

 魔石 895個

 石 12個


 魔石の中に、ただの石が混じっていることが分かった。見た目が似ていて、選り分けに失敗したもののようだ。


 てか、勝手に分類するの?インベントリが?


 ———うん。してたね。これまで僕がソロでダンジョン攻略していて、ドロップ品やらコインやら、片っ端から収納して。後で勝手に分類されてたね。そうでした。


 要らなかったじゃん!


 インベントリ解放したら、自力で選り分け、要らなかったじゃん!




 僕は石だけを取り出し、洞窟の側の小川の岸辺に捨てた。てか、昨日捨てた石の山が、そこらへんにある。もしかしたら、この中に間違って魔石が入ってるんじゃないか。でも、こんな山のような石、手に取って収納とか。


 いや待てよ。収納と排出の範囲って、どこまでなんだろう。僕は小石の山に手を当てて、「収納」してみた。すると、山ごと小石が全てそこから消えた。そんなに入るの?一気に?


 改めてインベントリを見ると、魔石が997個になっていた。僕が捨てた石の中に、魔石が102個も混じっていたことになる。僕は再び、石だけを排出した。あまりの呆気なさにしばらく呆然としていたが、ふと思った。これ、石だけじゃなくて、水ごと行けるのか?


 僕はダンジョンに戻り、水たまりの水ごと収納してみた。すると広さ10メートルほどの水たまりが、一瞬で干上がった。


 魔石片 346グラム

 水 1.3トン

 魔石 1,237個

 石 274個


「…」


 出来ちゃった。僕はその場にそっと水と石を排出し、立ち去った。




 そういえばRPGゲームだって、「〇〇ゴールドをかくとく!〇〇をひろった!」だけだもんね。後半になるとものすごいお金が落ちているけど、勇者一行がそれらを這いつくばって拾っているとは思えない。いや拾ってるかも知れないけど、想像したくない。


 前ループ、あのトンボのモンスターハウスで、せっせと散らばったコインや羽を拾っていた僕。いやその前、隣領の水棲モンスターのダンジョンでは、もっと大変だった。水底みなそこに沈んで行くコインや素材を、何度涙を流しながら見送ったことか。風属性ダンジョンに狩り場を変えたのは、そういった理由もある。


 あの時、このインベントリの使い方に、気付いていれば。




 まあ、過去のループは過ぎ去った事だ。今更ほぞを噛んでも仕方ない。今日はこれで引き上げよう。帰りに街でちょっと材料を買って、明日からまた新作魔道具の作成。忙しくなりそうだ。

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