第30話 不人気ダンジョン再び(1)

 待ちに待った土曜日。僕はあの不人気な初級ダンジョンにやって来た。武器も防具も特に用意していない。持って来たのは、実家の倉庫で見つけたバールとザル。武器屋で売ってるメイスは、ちゃんと重心とか考えられて振りやすく作られてるんだけど、核を砕くだけなら、別にバールでも構わない。由緒正しき鈍器の代表だ。


 そしてザルは、水たまりにいるらしい、スライム未満の核を回収するため。1周目、これを手ですくうとクズ魔石、砕くと討伐になると聞いて。


 今度は間違えない。ネズミを避けるため、火の生活魔法を灯して、ダンジョンに侵入。




 鍾乳洞ダンジョンの中は、暗かった。火の生活魔法は、光よりも光量が足りない。僕は水たまりを探し、中の小石を手で掬い、ザルに上げる。どれが石で、どれがスライムの核かは分からない。とりあえず、ジャリのような小石をザルに貯めて、ダンジョンを出る。


 ダンジョンを出たところで、集めた石をより分ける。スライムの核、つまり魔石は、独特の青っぽい色をしている。いくつか大きめのものを残して、あとはバールで砕く。これを3往復ほど繰り返して、本当にこれで討伐になっているのか不安になってきた頃、脳内でファンファーレが鳴った。無事レベルアップしたらしい。


 今の僕は、まだ鑑定を持っていない。1,000種類のアイテムを精査鑑定するなんて、普通に生活してたら無理だ。冬休み、実家で倉庫整理を頑張ろう。そうすれば、もっと効率良く魔石を採取出来るだろう。いや、その頃にはもう、ここでクズ魔石なんか掬ってないか。それより、明日も来るなら柄杓ひしゃく手桶ておけも持って来よう。手で掬うよりは、断然効率が良さそうだ。


 ダンジョンの入り口付近を何度も往復し、核をより分けては砕き。地道な作業だが、だんだん慣れて来た。そうして調子が出て来た頃に、二度目のファンファーレ。


 よし。そろそろ頃合いだ。




 今日ここに来たのは、他でもない。これを試してみたかったからだ。見てくれは、かまぼこ板ほどの小さな木片。不恰好に図形が刻まれ、溝の中には細かい砂がびっしりと接着剤で固められている。一方の端にはパチンコ玉くらいの魔石が埋め込まれ、反対側にはビー玉大の窪み。


 これが僕の初めての自作魔道具、その名も「散弾銃ショットガン」だ。細かい魔石の砂で描いたのは、「小複数、石、飛、打」の古代文字。石礫ストーンバレットのレベル2、散弾銃ショットガンの聖句である。聖句からパチンコ玉までを一筆書きに繋げ、これらの回路を維持するための魔石を所々にあしらって。最後、窪みに魔石を嵌めたら、先端のパチンコ玉から散弾銃ショットガンが発射されるという仕組みだ。


 これの何が凄いって、僕はまだ石礫ストーンバレットのスキルを取っていないということ。つまり、スキルを取らなくても、魔石で魔道具が発動するなら、スキル要らなくね?ってことだ。スキルの中には取得条件に一定のステータスが必要なもの、例えばPOWちから10以上とかINTかしこさ300以上とかがあって、それは使えたり使えなかったりするかも知れないけど。要検証。


 そう。僕は今レベル3で、スキルポイントを全振りすれば、自力で散弾銃ショットガンを覚えて使うことができる。だけどこれがあれば、面倒なレベル上げも貴重なスキルポイントの消費も不要。更に言うと、世の中には既に、火の魔道具や光の魔道具がある。これらは生活魔法を魔道具にしたものだから誰にでも使えるけども、ひょっとすると自属性じゃないスキルも、魔道具で行使出来ちゃうんじゃないか。




 余談が長くなった。とにかく、ここはクズ魔石がたっぷりあるんだ。僕が狙うのはただ一つ。そう、最初に来た時には相手にしようとすら思わなかった、ジャイアントバット。


 僕はザルを置いて、再びダンジョンへ侵入する。コウモリの湧きポイントは、ちゃんと記憶している。右手にはかまぼこ板、左手には魔石を3個。さっきレベルアップした時、ステータスは全てDEXきようさに振った。頼むぞ、ちゃんと発動して、当たってくれよ。


 僕はかまぼこ板を天井に向けて構え、魔石をまとめて窪みに嵌めた。


 カカッ!


 先端から2個の石が飛び出し、コウモリに当たる。死んでない。ヤバい。慌ててポケットの中から魔石を取り出し、窪みに嵌める。コウモリにかじられ引っ掻かれ、散々な目に遭ったが、3度目で何とか撃破。死ぬかと思った。


 コウモリが墜落した場所で、コインと羽をゲット。コインは400ゴールド、羽は売ったら100ゴールド。コイツら、トンボよりちょっと強い。一撃で倒せなかった。




 改めて外に出て、反省会。どの周でも、僕の初戦は散々だ。コウモリにかじられたところをポーションで治しながら、ステータスを確認する。




名前 アレクシ・アペール

種族 ヒューマン

称号 アペール商会令息

レベル 3


HP 20

MP 30

POW 2

INT 3

AGI 2

DEX 23


属性 土


スキル

なし


石礫ストーンバレット

(ランドスケイプ)

(ロックウォール)

(槍術)

(身体強化)


E 私服

E 魔道具・散弾銃ショットガン


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 30




 レベルが2上がって得たステータスポイント20を、全てDEXきようさに振ったため、素早いコウモリにも弾は当たった。それはいい。だけど問題はINTちせいだ。


 前回散弾銃ショットガンのスキルを鑑定した結果は、確か「複数のつぶてを射出する。生成個数はINT/2、攻撃力はINT/10。MP20」だった。僕のINTは今、3。だから弾は2個しか出なかった。小数点以下が切り上げなのが優しい。そうでなければ、レベル1の石礫ストーンバレットと何ら変わらない。そして威力もINTちせい依存。ステ振り間違ったかな。いや、そもそも当たらないと話にならないし。


 うん。レベル低過ぎってことだね。今日は残り時間、大人しくスライムの核を漁ろう。


 破れて血のついた服、そしていっぱいになったずた袋とザル、バール。異様な出で立ちで帰宅した僕を、実家の家族や社員さんたちが、めちゃくちゃ心配してくれた。だけど僕が「ちょっと学校の実習で必要になって」と魔石を見せたら、こってり絞られたけど、その先は不問だった。さあ、明日は柄杓か手桶を持って再挑戦だ。僕、ドンマイ。

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