第29話 魔道具を作ろう

 入学式の日は、午前中のみ。午後は無罪放免だ。ノートを閉じると、僕は小遣い銭を握り締め、街に繰り出した。買って来たのは、小さな木の板、クズ魔石、細工道具、そして少々の接着剤。そう、魔道具の自作だ。




 前ループで見た魔道具は、前世の家電製品とほぼ同じ感覚。電池の代わりに魔石を置いて、聖銀ミスリルで回路を引き、基盤には魔法陣。その魔法陣だが、何やらそれらしい幾何学模様と細かい文字で成り立っているように見えて、実はほとんどが飾りで、中にいくつか古代文字が刻まれている。そしてその先に、例えば明かりや風という現象を起こす作動部分がある。


 魔道具が高いのは、聖銀ミスリルが高価だから。そのままでは加工し辛く、様々な金属を混ぜて合金にし、回路や基盤に利用するのだが、当然ながら純度が高いほうがマナの伝導率が高く、丈夫で、抵抗や減衰を抑えられる。


 一方で、聖銀に頼らない魔道具作りの研究も進められている。というより、元々が魔石を砕いた特殊なインクで描かれた魔法陣を、何度も繰り返し使えるように改良したのが魔道具だ。聖銀に置き換えたものを、再び魔石で再現する———しかも、一度の使用でマナが枯渇してしまわないように、魔法陣を維持するための魔石を要所要所にあしらって。その技術が、ほぼ確立に至った頃だった。僕が3年後、王都の「塔」に所属していたのは。


 なお、魔石はピンキリで売られている。魔石の入手方法は、特定の魔物を倒すか、鉱山で産出するかだけど、その鉱山というのは、元・魔素溜まりだと言われている。例の不人気ダンジョンみたいにスライムが繁殖して、やがて地殻変動で埋もれた層。まるで化石燃料だ。大きな結晶は、魔素の含有量も高く、再充填にも耐える。しかし、小さな結晶や砕けた欠片は使い捨てだ。こんなのは、子供の小遣いでも買える。


 それでも、家中を魔道具で埋め尽くし、全てを魔石で稼働させると、ランニングコストが凄まじい。前世において、ガスや電気が普及する前は、蝋燭やランプが照明器具の主流だったわけだけど、庶民の多くは日の出と共に起き、日の入りと共に眠る生活をしていた。こっちの世界では、みんな生活魔法が使えるから、光の生活魔法である程度の光源は確保出来るが、それでも明かりの魔道具で家中を煌々と照らすことができるのは、富の証。貴族や一部の富裕層にだけ許された贅沢だ。


 魔道具を普及させ、人々の生活の利便性を上げるためには、元々の魔道具の製作コストと、そして魔道具のランニングコストをいかに抑えるか。これが、「塔」のみならず、官民全ての魔道具師の永遠の研究テーマと言える。




 思考が逸れた。


 ともかく僕は、魔法陣、回路、作動部分、これらを全て安いクズ魔石で再現しようというわけだ。木の板に溝を刻んで、そこにクズ石を敷き詰め、接着剤で固定。これで上手く行けば、「塔」の魔導士たちが作っていたのと、同じ作用が起こせるはず。


 だと思っていました。




名前 アレクシ・アペール

種族 ヒューマン

称号 アペール商会令息

レベル 1


HP 20

MP 30

POW 2

INT 3

AGI 2

DEX 3


属性 土


スキル

なし


石礫ストーンバレット

(ランドスケイプ)

(ロックウォール)

(槍術)

(身体強化)


E 学生服


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 10




 僕は舐めていた。自分のレベル、特にDEXきようさの低さを。「塔」の魔導士たちも決して器用とは言えなかったが、3はひどい。これは週末、早々にダンジョンに潜らなければならない。


 だけど僕には秘策があった。そう、1周目に初めて潜った、あのダンジョン。あそこなら、クズ魔石を集めることが出来るし、誰にも会わずに経験値も稼げるし、一石二鳥じゃないか。僕は寮で一人、木の板と格闘しながら、週末を待った。

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