3周目

第28話 3周目の始まり

 始まったんだ、3周目。僕は呆然としながらも、気を取り直して起き上がった。2周目は過労で死にかけた。助かった。魔道具課は鬼門だ、ブラックなんてもんじゃない。


 だがしかし、魔道具は熱い。幸いここは北の辺境、僕は3年後の王都の最新技術を盗んで来た。魔道具、作ってみるか。


 それより今日は入学式だ。中等部の新入生たちがそわそわと門をくぐり、進級した僕たちは決められた持ち場で、彼らを講堂へ誘導する。僕は受付を済ませた彼らの胸元にリボンを付ける係だった。


「入学おめでとう。B組は中程の…」


 僕は知っている。彼は転ぶ予定の男子生徒。


「君、緊張しているね。はい、深呼吸して。周りの人に気をつけてね」


 今回は、しばらく受付に留めてタイミングをずらしてみた。彼は一瞬人とぶつかりそうになったが、ぺこぺこと頭を下げ合いつつ、無事席まで辿り着いた。


 よくやった、僕。次回からもこの作戦で行こう。




 さて、入学式は午前中で終わり、午後は自由時間。僕は早速ノートを用意し、今後の計画を立てる。


 まず、前ループまでに起こったことや知っていることをノートに書くのはやめた。理由は三つ。一つ目は、もう大体覚えているから。二つ目は、覚えていても全然役に立たない場面が多いから。三つ目は、王都で集めた情報が多すぎて、とても書ききれないからだ。


 しかし、無策で挑むわけではない。最低限押さえておくべきことは、以下の通り。


・11月までにカミーユ先輩を強化して、彼の負傷を防ぐ


・無詠唱の研究はもうやらない


・救荒作物には直接タッチしない


 とりあえず、カミーユ先輩をダンジョンに連れ出して、パワーレベリング。これが今月の喫緊の課題だ。


 問題はカバネル先生。無詠唱も救荒作物も、彼絡みだ。僕が巻き込んだんだけども。もう「塔」の魔術師のことはどうでもいい。「塔」にも大貴族にも、学園長やラクール先生にも振り回されたくない。だから無詠唱はパス。


 そして救荒作物もだ。うちは手広く商品を扱う小売業。同じ商家とはいえ、東部のナディアさん家のように、農家とパイプを持っていない。だから彼女と同じように、莫大な利益を生み出すことが出来ない。そもそもこの話は、穀物相場の変動を利用して、うまく時流に乗れば利益が出るかなと思った程度のこと。再来年、南部が不作に遭うとはいえ、飢饉が起きるほどではない。何が何でも救荒作物を広めなければ、人死にが出るって話ではないのだ。


 とはいえ、お人好しのカバネル先生が冷や飯を喰らっているのは、ちょっと見過ごせない。今の時点では全く接点のない先生だけど、何か協力してあげたい気はする。そうだ、そもそも救荒作物の研究は、母方のカバネル子爵の所領、クララック領で起きた飢饉が発端ではなかっただろうか。じゃあ、最初からクララック領と密に連携しておけば、あのナディアさんにしてやられて凹むこともなく、上手く収まったかも知れない。




 それから、前ループの反省点。一つ目は、カミーユ先輩とカバネル先生から預かっていた、大量のトンボの羽。あの後結局、分配する機会を失って、僕のインベントリに死蔵されたままだった。三人とも、無詠唱の研究やダンジョンでのレベル上げで話題になって忙しくなり、スケジュールが合わなかったのと、あの時点で大量のトンボの羽を提出して、余計目立ちたくなかったのと。前ループのことは、僕以外覚えてないから、気にしたって仕方ないんだけど、どうも負い目に感じている。今ループも彼らに協力して、少しでも罪悪感を減らしたい。


 そして二つ目。せっかく王都にいたのに、貴族学園のことを調べておかなかったこと。異世界ループものといえば、大抵が貴族の通う学園で起こると相場は決まっている。もしかしたら、舞台はこの国の貴族学園じゃないかも知れないけど、それならそれで、何かしらヒントがあったのではないか。ちょうど周りにも、僕と同い年で貴族学園を卒業した魔導士が何人もいたというのに。僕は新聞や書物からの情報収集に夢中で、彼らとの交流を怠った。


 どうしよう。もう「塔」には近付きたくない。だけど、王都にはたくさんの情報が集まり、ループの元凶の可能性が高い貴族学園もある。避けて通る訳には行かなさそうだ。しかし、この学園を卒業してから上京すると、残り1年。1年は短い。1年で、王都での情報収集は上手く行くのか。それとも、学園卒業前に王都入りする道を模索するべきか。そして、今ループも無事王都に上京したとして、平民の僕が、どうやって貴族学園と接触を図れば?さらに、よしんば貴族学園の「プレイヤー」と対面したとして、僕は何をすればいいのだろう。


 疑問は尽きない。不安はいくらでも湧いて出る。しかし、出来ることから試してみなきゃ始まらない。ループ3周目は、こんな感じでスタートした。

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