第13話 槍術の授業

 今回のループでは、最初から剣術ではなく、槍術を取ることにした。領立学園では、日本で言う体育の代わりに、剣術、槍術、弓術、体術の授業がある。これらは護身術としての意味合いも大きい。この世界、やっぱり治安は良くないからね。


 一番人気は剣術。男はみんな、剣を持って戦うことに憧れるものだ。棒が落ちていれば拾って振り回す。それが男児クオリティ。次にポピュラーなのは体術だ。こちらは主に女性が、不埒な輩に対抗するために習う。農村部で狩りをする者は弓術。そして一番人気のないのは槍術。


 槍術が不人気なのは、競技人口の少なさもあると思う。だがしかし、この領立学園においては、槍術教師のクソさ、もとい人望のなさが、最も大きな要因と言えるだろう。


「お前たちに槍を教わる資格はない」


 最初の授業で、いきなりブチかましてくる。入学したばかりの純朴な中等部の一年生は、何を言われているのか理解出来ていない。しかし、彼に一年以上師事する者は、「また始まったよ」という顔をしている。


 槍術教諭、ジュスタン・ジョリオ。彼はジョリオ騎士爵家の四男で、長兄に代替わりした際、平民となった。王都の貴族学園に通っていたことがある、ということだけが彼のプライドなのだが、裏を返せばそれ以外は全てコンプレックスなわけで、この領立学園で平民の子弟を相手に威張り散らす、困ったおじさんだ。だって貴族学園でそれ相応の成績を修めていれば、今頃王宮かどこかで騎士職に就いたり、昇進して自ら騎士爵を得たりしている頃だもの。ところが今彼は、辛うじて教職に就いてはいるものの、平たく言えば平民の歩兵だ。そういう言い方をすると、ちょっと可哀想になってきた。


 しかし気の毒がってもいられない。理由も告げず、急に黙りこくった彼に、新入生は困惑し、年長者はしれっと棒立ちしている。ここで何を言っても、何をやっても無駄なのだ。前ループ、僕は彼をおだてたり突っかかってみたり、色々試してみたけれど、全て徒労に終わった。


 正直この授業を取るかどうか、迷ったのだ。なんせ前回取得したスキルは、ポイントさえあれば再取得出来るみたいだし、僕個人としては、わざわざここに来る必要はない。だけど、来月三年生が向かう野外実習で、予想より大きな魔物が出現する。そこで大怪我を負うのが、槍術クラスのカミーユ先輩だ。なお、いち早く逃亡してクビになるのがジョリオ先生である。


「何か言いたいことはあるか。分からぬか。ならば、自分たちに足らない資格が何なのか、よく考えるんだな」


 そう言って、彼は訓練場を出て行った。明らかに職務放棄だ。だが、こちらとしては、その方が都合がいい。


「みんな、びっくりしたよね。さあ、槍術の型から練習しよう」


 カミーユ先輩が、明るい声で下級生を促す。彼らはおずおずと訓練用の槍を手に持って、先輩に倣って突きを繰り出した。




 槍術のスキルは、前回どうやって取得したのか、僕もよく覚えていない。ただ授業に出席して、基本の型を繰り返しなぞるうちに、いつの間にか身についた。初等部からずっと剣術の授業を取っていたのに、剣術スキルは取得できなくて、逆に槍術は数日で取れてしまった。何故かは分からない。ステータスが影響しているのかも知れない。それが彼の言う資格ってことなんだろうか。


 レベルとステータスのシステムが働くこの世界において、スキルの取得以外に、僕は型をなぞり続ける必要性を感じない。一度槍術スキルを取ってしまえば、後は実戦でレベルとスキルレベルを上げるだけだ。そりゃあ毎日訓練を続ければ、綺麗な素振りが出来るかも知れないけど、いくら型が綺麗でも、スキルレベルが低ければ強力な技は繰り出せない。でもこの世界の人たちは、ステータス画面の出し方も、スキルレベルの上げ方も知らないわけだから、仕方ないのかな。


 ともかく、ジョリオ先生のパワハラモラハラに耐える暇があれば、ダンジョンに出かけて、ピルバグの一匹でも倒した方が有効だ。そうだ。今度槍術クラスのみんなで、ダンジョンに行ってみるのもいいかも知れないな。今度カミーユ先輩とみんなに、声を掛けてみよう。

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