2周目

第12話 2周目の始まり

 朝、目覚めると、そこは学園の寮。10月1日、今日から僕は、高等部二年に上がるのだった。




 僕はため息をついた。忘れてたけど、知ってた。だって今回で二度目だ。ループ自体は何度目か分からないが、これがループだと自覚して巻き戻ったのは二度目だから、2周目とカウントしよう。


 身支度を整え、食堂で朝食を摂る。今日は入学式だ。中等部の新入生たちがそわそわと門をくぐり、進級した僕たちは決められた持ち場で、彼らを講堂へ誘導する。僕は受付を済ませた彼らの胸元にリボンを付ける係だった。


「入学おめでとう。B組は中程の…」


 僕は知っている。彼は転ぶ。


「緊張しているね。余所よそ見をしないようにね」


 ガッシャン。


 一声掛けたものの、やはり彼は人を避け損ない、椅子にぶつかって転んだ。まあ前回みたいに、僕も一緒に転ぶよりはマシだろう。プランB、失敗。ドンマイ。次のループでの対処法は、また考えよう。




 早速僕は、覚えていることをノートにまとめた。今年からは剣術じゃなく槍術のクラスを取り、農業研究会に入会。そして何より、身だしなみを整えなければならない。これまでの僕は、恋愛ごとはひとまず後回しにして、外見にさほど気を配らなかった。しかし、冒険者もビジネスマンだという認識を新たに、今ループからは雰囲気イケメンを目指す。この辺は、日本でのリーマン経験が重宝する。以前ネットで、「オシャレをする男は少ない分、だからこそオシャレが効く」って言葉を目にしたことがある。特別なことじゃなくていい。ヘアセット、スキンケア、眉を整える、靴と小物にお金を掛ける。生まれ持った顔貌かおかたちは致し方ないとして、これだけで印象は大きく変わるものだ。


 他に、男の魅力といえば、能力ちからカネだ。これは、冒険者稼業で十分に補える。もう稼ぎの悪いダンジョンで足踏みしたりしない。長期休暇は、例の飛行モンスターの巣まで、遠征に出かけてもいいかも知れない。


 一方、残念だったのはステータス。レベルやスキル、インベントリ機能やその中身は、リセットされてしまうようだ。これが引き継がれるなら、最強だったんだけど。




名前 アレクシ・アペール

種族 ヒューマン

称号 アペール商会令息

レベル 1


HP 20

MP 30

POW 2

INT 3

AGI 2

DEX 3


属性 土


スキル

なし


石礫ストーンバレット

(ランドスケイプ)

(ロックウォール)

(槍術)

(身体強化)


E 学生服


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 10




 しかし、取得したことのあるスキルは、灰色表示で残っていた。試しに石礫ストーンバレットをタップすると、「取得しますか? Yes / No」というコマンドが表示された。僕は迷わずYesを選択、そして無事、石礫ストーンバレットを覚えた。


 レベル1の状態に戻り、明らかに、体の動きにキレがない。前回のループでは、レベルが上がった後も筋肉が付きにくく、細身ではあったが、高等部二年の頃は、こんなに頼りない体をしていたのか。


 しかし、前回で猛烈にレベル上げをした経験から思うに、このステータスの数字はあまりあてにならない。もちろん、レベルが上がれば上がるほど、難しいスキルも息をするように繰り出せるし、身体能力だって驚くほど上がる。だけど、例えばレベルが1から2に上がると、各数値の合計は単純に2倍に、1から10だと10倍になるが、だからといって、人間を辞めちゃったような超人的な能力が身に付く訳ではない。ただ少し「勘が良くなる」というか、「スタミナが付く」、「集中力が増す」といった感じだろうか。もしかしたら、ドラゴンのブレスにでも灼かれれば、高レベルだと軽い火傷で済むとか、あるかも知れないけど。


 とにかく、今回は効率良くサクサク行こう。とりあえず、やることがたくさんある。卒業後の進路のことは、それからだ。

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