第8話 初級ダンジョン(2)
ダンジョンから帰って自室に戻ると、ちょっと冷静になった。改めて、事前に買ったマップとメモ帳を確認してみる。どうもあのトンボは、地下二階に出るヤツじゃない。四階のモンスターだ。誰かがトレインして来たのか、それともイレギュラー湧きか。原因はともかく、二階層も跨いだら駄目だろう。仕様に関しては、大いに文句を言いたい。
あと、咄嗟に撃ったストーンバレットだけど、あれは正解だったみたいだ。トンボ(正式名称はドラゴンフライらしいけど、ドラゴンフライはトンボだからトンボだ)は風属性の魔物で、土属性に弱い。一定以上の土属性ダメージでクリティカル。何だ、土属性の僕からしたら、美味しいモンスターだったんじゃないか。
翌日、僕は頭の装備を買いに、改めて防具屋に出かけた。
「お前ェ、ソロでドラゴンフライなんて危ねェモン相手しちゃダメじゃねェか!」
親父さんには拳骨を喰らった。地味にトンボに齧られたより痛い。そして中古の皮の帽子を手渡された。これは、僕が冒険者稼業に本腰を入れて、中層に挑むようになったら、プレゼントしてくれるつもりだったらしい。それにしても、ソロでドラゴンフライはやっぱりマズい相手だったんだ。
「あっこの怖さはそんなモンじゃねぇ。アイツら、モタモタしてたらどんどん湧いて来やがる。数で押されたら、力のあるヤツらでもヤられちまう」
ヒィ。トンボがウジャウジャとか無理だ。
親父さんには、ソロで無理しないように口酸っぱく説教された。そして、メイスだけでは対処できない相手と遭遇した場合を考えて、武器屋の親父さんにも相談するようにと。
皮の帽子は、少し年季が入っているが、ちゃんと手入れされている。彼が若い頃に使っていたヤツだそうだ。新品を買うと、安いものでも15,000ゴールドする。代金を払おうとすると、「これくらい格好付けさせろ」と固辞された。有り難く使わせていただこう。
次に武器屋に足を運ぶと、やはり武器屋の親父さんからも拳骨をもらった。そして、軽い短槍を提案された。
「みんな剣や弓を持ちたがるが、あんなモンは手練れじゃねェと役に立たねェ」
槍は突いて良し切って良し、リーチも長いので牽制も効く。穂先がダメになれば挿げ替えればいい。こんなにも実用性とコスパに優れているのに、何故か不人気なのだと。分かる。僕もビジュアル重視なら、剣を選ぶだろう。どうも槍を推すのは親父さんの個人的な趣味もあると思うけど、彼の言うことは一理ある。彼の提案に乗り、僕は短槍を購入することに決めた。値札には50,000ゴールドと書いてあったが、30,000ゴールドにしてくれた。防具屋の親父さんが帽子をやったのだから、俺も負けていられないとのことだ。素直に甘えておこう。
また魔法スキルについては、魔道具屋で指揮棒のような短杖を買った方がいいとのこと。今回はたまたまストーンバレットが当たったから良いものの、発動までの時間と指向性が段違いらしい。そして、パーティーを組んで後衛専門を目指すのでなければ、やはり物理主体で行った方がいいだろう、ということだ。
いや、指向性はともかく、発動に時間など掛からなかった。そういえば、「ストーンバレット」って叫んだだけで、詠唱もしなかったな。もしかしてこれが詠唱破棄?それとも無詠唱?ちょっとワクワクするが、どうも普通じゃないっぽい。詳しいことは、来週カバネル先生に聞いてみよう。杖はそれからでもいいだろう。
後は、ギルドに立ち寄って昨日のピルバグの甲殻とトンボの羽を買い取ってもらう。100個余りの甲殻に、窓口のお兄さんの笑顔が引き攣っていたが、無事軍資金へと変わった。微々たるものだが、これも冒険者としての貴重な収入だ。今はまだ大赤字だけど、いずれ僕は成り上がるのだ。
初級ダンジョンも二度目。昨日よりも余裕を持っていざ出陣。
改めて地下二階は、やはり一階と比べて人が多かった。湧きポイントを順番に回ろうにも、交戦しているパーティーに何度も遭遇する。
二階はデカいヤスデ、コオロギ、カマドウマなんかがいる。ひたすらキモい。だけど、毒もなければ致命的な攻撃力もない。ピルバグより素早いのが困りものだが、槍が良い仕事をした。近付かれる前に刺して、危なげなく倒して行く。今、授業では剣術を取っているが、槍術のクラスに変えてもらってもいいかも知れない。槍術は不人気で、いつでも定員割れしているから、大丈夫なはずだ。
「パパパパ〜ン♪」
間もなく耳の奥でファンファーレが鳴り響き、僕は脇道に逸れて、ステータスを確認した。
名前 アレクシ・アペール
種族 ヒューマン
称号 アペール商会令息
レベル 5
HP 80
MP 120
POW 8
INT 12
AGI 8
DEX 12
属性 土
スキル
+
+ランドスケイプLv1
E 短槍
E 革鎧
E 革の帽子
E 革のブーツ
E マント
ステータスポイント 残り 10
スキルポイント 残り 10
ステータス自体は前回と同じ、ポイントが10ずつ加算されただけ。スキルは10ポイントではレベルが上げられないから、ステイ。ステータスポイントはどれに振り分けようかな。
あ、別の小ウィンドウがポップしている。
===
これでチュートリアルクリアです。インベントリ機能が開放されました
===
「インベントリ?!」
ヤバい、声に出ちゃった。だって、インベントリなんて超アツいじゃないか。空間魔法っていうの?出し入れは、ステータス画面のタップで行うようだ。戦闘なんかで使うものは、あらかじめインベントリから出しておいた方がいいだろう。
それにしても、こんなの開放しちゃったら、密輸とかし放題じゃないか?僕が悪人なら
だけど、レベル5でインベントリが開放されるんだったら、昨日もうちょっと粘ってれば良かったよ。なんなら先週、素直にこっちのダンジョンに来ておけばよかった。まあ、たらればの話をしても仕方がない。ここは前向きに行こう。
改めて、ステータスポイントの振り分けだ。二階の敵は、現在の
虫系モンスターの落とす小銭と、羽や触角などのドロップ品をちまちまと集めつつ、僕はこつこつと湧きポイントを回って行った。周回速度と快適さは一階に劣るが、利益効率と経験値効率はやはり二階の方が秀でているようだ。時折反撃を喰らってかすり傷を負ったが、お昼を挟んで夕方近くまで歩き回り、レベルが6に上がったところでお開き。今日は、消耗品などの支出があって赤字ではあったが、槍への投資分は回収出来た。まずまずの出来だ。
僕は一旦実家へ戻り、装備品などを整理してインベントリに収納し、学園の寮に戻った。ようやく冒険者生活が始まった感が半端ない。今回のループは、めちゃくちゃ楽しめそうだ。
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