第7話 人気の初級ダンジョン(1)

 さて、週末は再びダンジョンだ。僕は防具屋に出かけて修理したブーツを受け取り、消耗品を買い込んで、人気の初級ダンジョンを目指す。マップは先週ギルドで買った。今週は絶対に討伐部位を持ち帰る。よし。


 初級ダンジョンへは、専用の馬車が運行されていた。こないだの不人気ダンジョンとは反対側の門を出て、数キロの道のり。歩いてもいいんだけど、楽出来るところは楽させてもらおう。


 ダンジョンの入り口には、行列が出来ていた。ほとんどが3〜4人のパーティーのようだ。中には立派な武器防具を装備したやり手っぽい冒険者もいて、革鎧とメイスの僕は、ちょっと浮いてる気がしなくもない。しかし、僕は実用重視だ。プロが選んでくれたのだから、間違いない。入り口のギルド職員に冒険者証を提示して、いざ出陣。




 事前に購入したマップにある通り、このダンジョンは石造りの回廊になっていた。周りの冒険者たちは、まっすぐに地下二階への階段へと向かって行く。僕の向かうのは、一階の弱いモンスターの湧きポイントだ。ここで、ダンゴムシのようなピルバグを狙う。


 回廊のどこから虫なんか、と思っていたが、マップに示された湧きポイントには、ちゃんと石組みに綻びがあった。壁の割れ目から、黒板消しくらいのダンゴムシ。デカっ。そして思ったより素早い。僕は慌ててメイスで彼らを叩き潰した。


 幸い、ここはダンジョン、彼らはモンスターだ。本物の虫のように、潰れて体液を撒き散らすこともなく、メイスの一撃で難なく撃退。そして瞬時に、コインとドロップ品に変わる。このガチャガチャのカプセルみたいな甲殻が、見た目より丈夫で、いろんな素材に使えるんだそうだ。戦果は、1体で100ゴールド。甲殻は1個20ゴールド。なお、この国のゴールドという通貨は、日本円の感覚とそう変わらない。なんだろう。モンスター一匹で120円って言うとショボい感じがするが、決まった場所で大きめの虫を叩き潰せば、一匹120円。そんなに悪いバイトでもない。


 僕は湧きポイントを順番に巡り、ピルバグを叩いて回った。時折、ふわふわと漂うカゲロウのような虫や、隅っこに巣食う大きな蜘蛛などを見かけたが、彼らはこちらから手を出さなければ敵対しない。さすが迷宮の最浅層、誰が作ったのか知らないが、本当に初心者が入っても何とかなるように出来ている。


 何度か交戦するうち、僕はピルバグに冷静に対処出来るようになった。慣れてくれば、モグラ叩きのような感覚で簡単に倒せる。一度舐めプなめたプレイして、太ももまで這い上がられた時は焦った。振り払って叩き潰したが、ズボンが少し破れていた。さすがに迷宮でモンスターをやっているだけあって、安全な益虫というわけではなさそうだ。だけどピルバグでの被害は、それだけ。


 午前中、湧きポイントをくまなく回り、ピルバグを100匹ほど倒して、釣果は約12,000ゴールド。装備を用意して消耗品も揃えて、支出も勘案すると決して割の良い仕事ではないけれど、今回はまずまずの戦果だったのではないだろうか。しかしこんだけ回って、レベルが1しか上がらないのはどうなんだ。まあ確かに、こんなに安全なヌルゲーならば、致し方ない部分もあるだろうけども。


 そろそろお昼だ。一旦外に出て休憩しよう。その前に、地下二階に降りて、一度様子を見るみるのもいいかも知れない。なんせ午前中は、ズボンが破れたくらいでノーダメージなのだから。




 地下一階とは違い、地下二階には人の気配があった。階段を降りた途端、20メートルほど先の湧きポイントで、3人パーティーが交戦中だ。ところがいきなり彼らの頭上を超えて、一匹のデカいトンボがこっちに飛来してきた。速い!そしてトンボのどアップ怖い!


「ヒエッ」


 僕は咄嗟にメイスを振り回した。しかし、重い鈍器は素早いトンボに当たる素振りも見えない。背後に回られ、首筋に止まられ、頭をガジリと噛まれる。


「ぎゃあ!」


 手で追い払おうとして手も噛まれ、メイスを差し向けようとして飛び去られ。再びこっちに向かおうとしていたトンボに、咄嗟に指を差し向け、


「ストーンバレット!」


 ヤケクソに叫ぶと、ちゃんと小石が2つほど飛んで行った。そのうち1つがカツンと当たり、どういう仕組みなのか、トンボは落下して消えた。


 怖い。無理だ。鳥肌が凄い。


 その後、前方で交戦していたパーティーが戦闘を終え、こちらにやって来た。普通は出来るだけ交戦中のパーティーに近づかないのがマナーなのだそうだけど、今回は取りこぼしが僕に向かって来たので、不問にしてくれるそうだ。


「それより、そんな装備で降りて来ちゃダメだよ」


 頭に防具を付けず、無防備な格好な僕に、親切に指摘してくれる。僕よりも年下に見える、若いパーティーの子たちだ。学園では見なかった顔だから、他領から流れて来た冒険者か。僕は恥ずかしくなって、小さくお礼を言って、こそこそと逃げ帰った。




 ダンジョンから出ると、入り口のギルド職員に心配された。後頭部から結構な流血があったみたいだ。僕は齧られた頭皮と手にポーションを掛け、もうこのまま帰ることにした。ちなみにトンボは一匹300ゴールド。落ちた素材は羽、100ゴールド。錬金素材になるらしい。錬金術ってのにちょっと惹かれるけど、今日はSAN値が削られてそれどころではない。


 あと、トンボでレベルがもう1つ上がって、今日はレベル4になった。お疲れ様でした。




名前 アレクシ・アペール

種族 ヒューマン

称号 アペール商会令息

レベル 4


HP 80

MP 120

POW 8

INT 12

AGI 8

DEX 12


属性 土


スキル

+石礫ストーンバレットLv2

+ランドスケイプLv1


E メイス

E 革鎧

E 革のブーツ

E マント


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 0




 カバネル先生の研究室で見付けた5つの魔導書。「ロックウォール」「石礫ストーンバレット」「ランドスケイプ」「ゴーレム作成」「鋭敏キーン」の中から、僕が習得したのはストーンバレットとランドスケイプ。5つのうち2つしか取得できなかった。かつ、一番楽しみにしていた「ゴーレム作成」については、「今は取得できません」って弾かれた。


 あと、下の方に「自動ポイント分配・オン」という表示があったので、タップしてオフにしておいた。危ない危ない。これまでは、1レベルアップごとにステータスポイント10ポイントを自動で割り振りされていたけど、次からは自分で伸ばすパラメータを決められるみたいだ。


 また、スキルポイントについても、1レベルアップごとに10獲得できるらしい。そして、1つ習得するごとに10消費、そしてレベル2に上げるためには20消費するようだ。するとレベル3に上げるためには、30必要なのか、それとも倍の40必要なのか。いずれにせよ、ポイントの無駄遣いは出来ない。


 とにかく、一旦仕切り直しだ。明日は武器屋と防具屋に出かけ、もう一度装備を整えてから出直そう。

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