第5話 僕は馬鹿だった
僕は馬鹿だった。
翌日曜日、僕は冒険者ギルドに足を運んだ。そこでまず、冒険者のステータスのことについて聞こうと思ったら、「冒険者登録ですね」と言われ、書類を書かされた。その時、他に何か身分証があれば、最初からEランクで登録出来るらしい。僕は急いで家に帰り、学生証を持って来る羽目になった。
徒歩で往復2時間。やっとの思いで書類を埋め、簡単な説明を受け、冒険者証と小冊子を渡される。
「大抵のことはこの冊子に書いてありますのでご一読ください。またご不明な点がありましたら、何なりとお申し付けくださいね。次の方」
流れるように放逐されそうになって、僕は慌てて口を挟む。
「あのう、脳内でファンファーレって」
すると受付嬢は「はぁ?」という顔をした。僕の後ろに並んだ、次の冒険者もだ。マズい。これは訊いちゃいけないヤツだったかも知れない。「いえ、何でも…」僕はそう言うと、そそくさとカウンターを
冊子を読んで、そしてこの小ぢんまりとした施設を見回して、僕は理解した。僕は馬鹿だった。なぜ昨日、先にここに立ち寄らなかったのか。
まず昨日訪れた不人気ダンジョン。あそこは既に攻略し尽くされていて、マップも売られている。そのお値段、たったの1,000ゴールド。そしてダンジョンに出る魔物についての情報も、資料室で閲覧できる。
昨日苦戦したネズミだが、あれは不人気モンスターで、皆が避けるものなのだそうだ。ネズミは火が弱点なので、洞窟の中では光の生活魔法ではなく、火の生活魔法で灯りを取れば、遭遇することはないらしい。そしてあの洞窟では、スライムを狩るのが
なお討伐部位については、売却価格こそ数十ゴールドだが、討伐実績として冒険者証に記録され、ランク査定に影響するらしい。昨日捨てて来たネズミの尻尾、あれは実入りに対して討伐しづらいモンスターだから不人気なわけで、持ち帰っていれば相応の加点があったみたいだ。返す返すも、昨日ここに立ち寄らなかったことが悔やまれる。
いずれにせよ、ブーツが穴だらけになってしまったので、今日はもうダンジョンアタックはお休みだ。新しいブーツを買いに防具屋に足を運んだところ、親父さんに「あそこに行くなら先に言え」と叱られてしまった。ネズミを退治するなら、金属の脛当てが必須らしい。幸い、ブーツは皮を継ぎ当てて修理してくれるようだ。10,000ゴールドかかるが、新品を買うよりは安い。
親父さんからは、素直に人気の初級ダンジョンに行くように勧められた。そこは主に虫型のモンスターが出るが、浅層のモンスターは動きが緩慢で倒しやすく、ドロップアイテムも桁違いに良いとのこと。つくづく、少しのことにも先達はあらまほしきことなり。
しかし、脳内のファンファーレについてそれとなくジャブを打ってみたところ、やはり「はぁ?」という顔をされた。空耳を疑われて心配されたが、僕は「何でもない」と流しておいた。また、ギルドで水晶玉に手を置いて、力がFで知力がEでとか、そういうのもなかった。「冒険者の実力ってどうやって測るんですか」と聞いたところ、「頼めば模擬戦もやってくれるぜ」とのこと。ギルドでもらった小冊子にも、そんなことが書いてあった気がする。ステータスや画面のことなんて、誰も知らなさそうだ。
そういう意味では、昨日は誰もいないダンジョンに出かけて良かった。僕しか聞こえない脳内ファンファーレに一人興奮し、「ステータス」だの「オープン」だの、身振り手振り付けてブツブツやっていた僕は、不審者なんてもんじゃなかった。うん、あれで良かったんだ。僕はブーツを防具屋に預け、その足で学園の寮に戻った。
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