第4話 ビターな初陣
神経を研ぎ澄ませながら歩くこと小一時間。僕は一向にモンスターと遭遇することはなかった。スライム、どこ。ネズミ、いない。最初のうちこそ、出口に近い場所を慎重に行きつ戻りつしていたが、いい加減に飽きて、多少奥まで進んだ時だった。
キキキキキ!!
足元の横穴から、小型犬くらいの大きさの獣が三匹、ドドドッと走り出た。
「は?んがッ!」
飛び出して来た獣は、いきなり僕の脚に噛みついた。僕は慌ててメイスで追い払おうとしたが、獣は怯みもせず、強力なアゴで喰らい付き、ブーツの上から皮膚を喰い千切ろうとする。
「いだいいだいいだいッ!!この、このッ!!」
僕は涙目になって、奴らの頭を叩く。最初は躊躇していたものの、痛みでそれどころではない。メイスから、頭蓋骨を割り砕く
震える手で小銭をかき集め、尻尾は置いておく。討伐証明の部位になるらしいが、売っても二束三文、ギルドに持っていくのが面倒なほどだ。とりあえず、一旦迷宮の外に出て休もう。
先ほどまでは興奮していたせいか、外に出ると急に傷口が痛み出した。そういえば、魔物の不潔な牙で噛まれて、化膿したりしていないだろうか。草むらに座り込んで足元を確認すると、買ったばかりの革のブーツに穴が空き、血で汚れている。僕は慌てて水筒の水で洗い流し、ポーションを掛けた。落ちていた小銭は900ゴールド、そしてポーションは1瓶5,000ゴールド。革のブーツは25,000ゴールド。まだ履けるが、大赤字もいいところだ。これが僕のビターな初陣だった。
しばらく洞窟の入り口で呆然としていたが、帰りの乗合馬車まではまだ3時間もある。領都まで歩いて帰れない距離でもないが、このまま帰るのも癪に触る。どうせブーツも今回でおじゃんだ。もう一回くらい戦闘してから帰ってもいいだろう。さっきの二の舞は御免だが、今度は最初から思い切り殴ろう。
僕は再度洞窟に侵入した。すると、先ほどネズミの湧いた横穴から、またネズミが湧き出した。何だ、ここは固定の湧きポイントなのか。今度は二匹。マントで防ぎながら一匹ずつ殴り、何とか無傷で勝利を収めた。すると、耳の奥に直接「パパパパ〜ン♪」とファンファーレが鳴った。どうやらレベルが上がったらしい。
てか、鳴るの?ファンファーレ。胸熱。
そういえば、せっかく異世界に転生したのに、俺はまだあのワードを試していなかったじゃないか。
「ステータス、オープン」
———しかし何も起こらなかった。良かった、今、俺一人で。誰かに見られてたら、ドン引きされたところだ。
それにしても、今まで冒険者になるなんて考えたこともなかったから、戦闘で経験を積んだら脳内でファンファーレが鳴るとか聞いたこともなかった。みんな鳴るんだろうか。そして普通にC級冒険者とかB級冒険者とか耳にするけど、みんな強さはどうやって確認してるんだろう。
「ステータス」「オープン」「ウィンドウオープン」「ウィンドウ」「コマンド」
いくつか言葉を試してみたが、一向に何かが起こる気配はない。畜生、モブやNPCにはそんな機能は備わってないってことか。
『ステータスオープンなんて飾りです、偉い人にはそれが分からんのですよ』
誰もいないのをいいことに、つい日本語で独り言ちてしまう。すると目の前に、ピコンと緑色のウィンドウが現れた。『ステータスオープン』って日本語か!
名前 アレクシ・アペール
種族 ヒューマン
称号 アペール商会令息
レベル 2
HP 40
MP 60
POW 4
INT 6
AGI 4
DEX 6
属性 土
スキル
なし
E メイス
E 革鎧
E 革のブーツ(損壊)
E マント
ステータスポイント 残り 0
スキルポイント 残り 20
そうだった。僕は土属性で、冒険者なんてからっきし向いてないって兄に馬鹿にされたんだった。そういう彼も風属性で、大概微妙なんだけども。だけど土属性なら土属性で、何か使い道があるだろう。3年で農業は難しいかも知れないが、ほら、何かこう…。
いずれにせよ、ステータスが日本語でしか出せないのなら、この世界でこの画面を見られる人間は、ほぼ存在しないのではないか。これはアドバンテージかもしれない。そもそも、勢いでダンジョンに乗り込んで来てしまったけど、僕は冒険者についてほとんど何も知らないことを思い知った。明日は仕切り直しだ。一度冒険者ギルドに行ってみよう。
結局、この日の釣果はネズミ五匹で1,500ゴールド。一方初期投資は、総額約10万ゴールド。そして支出は、ポーションとブーツ、足代にその他消耗品を合わせて、約4万ゴールド。しかし問題ない。これまで貯めたお小遣いは、まだまだある。
僕の戦いは、これからだ!
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