第3話 隠しエリア

よっしゃ探索するぞと意気込んでみたはいいものの。


……うす暗いんだよなぁ。


普通、ダンジョンには光源がある。

誰が設置したのか、はたまた自然の産物なのかは分からないが、光る鉱物がダンジョンの通路に沿って天井や壁にズラっとならんでいるのだ。

それがこの部屋にはない。

しかも、


「光源も食料も水も剣も何もかも全部地下5階層に置いてきちまったよぅ……」


逃げるのに必死だったんだもの。

それは仕方ないとはいえ……


「この状態で探索とか何の縛りプレイだよぉ……誰か助けて……」


早くも泣き言が出てしまう

いや、でもしょうがなくね?

俺、大怪我して独りっきりで手ぶらなんだよ?

ああ、心細くて死にそう。


〔ミィ~〕


「ああそうだ、ミミックたんが居たわ。ありがてぇ……」


俺はミミックの頭(宝箱の上蓋部分。これからはもうずっと頭って言って通す)をナデる。

ミミックにも励ましてもらったし、気合いれるか。


「よし、ここが生きるか死ぬかの瀬戸際だぞ……!」


自分に言い聞かせる。

俺はミミックの真後ろにある壁に手を着くと、それに沿って歩き始めた。

こうしていれば、部屋の全容は次第に分かるはずだ。


……途中でモンスターに襲われない限りはな。


心臓はバクバクといっている。

数メートル先の見えないその空間で、いつ何者かに襲い掛かられるか分からない。

その恐怖が俺の足をすくませようとする。


……いや、大丈夫。さっきまで騒いでたのに何の反応もなかったし! このエリアにはミミック以外モンスターは絶対いない! きっと、たぶん、恐らくは。


「……よし」


慎重に歩く。部屋の壁に沿って。

慎重に、慎重に。

10メートルほど進むとこのエリアの角らしき場所に突き当たる。

そこにも宝箱があった。


「テイム」


反応はない。

ただの宝箱のようだ。

いったん放置。


続けて壁沿いに進む。

突き当りからは左にしか行けない。

左に進む。

慎重に、慎重に。

20メートルほど進むと、このエリアの角らしき場所に突き当たる。

また宝箱があった。


「テイム」


反応はない。

ただの宝箱のようだ。


「ミミックじゃない宝箱2連続とか……これまでに無いな」


薄々異常事態に気付きつつもいったん放置。

まずはこの部屋の全容を明らかにしなくては。


続けて壁沿いに進む。

突き当りからは左にしか行けない。

左に進む。

慎重に、慎重に。

また、10メートルほど進むと、壁に長方形の切り込みがありそこから光が漏れている。


「切り込み? いやちがう、これ隠し扉だ……!」


そして、向こう側から光が漏れているということは、つまりこちらが扉の内側なのだろう。つまり、隠しエリアだ。


「待て待て、隠しエリアって確か、見つけるのがめちゃくちゃ難しい……んだよな?」


確かダンジョンが現れてからの20年で見つかった隠しエリアの数は日本においては約80個くらいなのだとか。

ちなみにこの日本に存在するダンジョンは14個。

明らかになっている階層は全て合計で1200階層くらい。


その中でまだたった80個程度しか見つかっていない隠しエリアに……今、俺がいるだと?


「……おいおい、マジかよ、いや、落ち着け……?」


バクバクと心臓が高鳴った。

さっきみたく恐怖によるものじゃない。

言わば宝くじに高額当選した時のような、そんな感情だ(もちろん当たったことはないので想像だが!)。


呼吸を整えて、俺は部屋を壁沿いに進む。

そして全容が明らかになった。

途中から薄々分かってはいたが、どうやらここは20メートル×20メートルの正方形のエリアらしい。

ついでにモンスターの気配はミミック以外にまるでなかった。


「さて、と。本題はここからだ」


俺は深呼吸で息を整える。

なんとこの部屋には……ミミックではない宝箱が4つもあるのだ。


「て、手がちょっと震えてるぜ……」


落ち着けない。

なにせ隠しエリアの宝箱には大抵、希少アイテムが眠っているからだ。

とはいえ、ぬか喜びもできない。

なにせ今の俺は生きるか死ぬかも分からない状況にいるのだから。


「金銭的価値よりも、今は実用性重視でお願いします、神様……!」


俺はどこにいるとも分からぬ八百万の神の内ダンジョンの神に祈りを捧げると、1つずつ宝箱を開いていく。


1つ目、これまで見たことの無いくらいに輝度きどの高い鉱物。

宝箱を開けた瞬間に部屋全体が明るく照らし出された。


2つ目、栓のされたフラスコに入ったオーロラソース色の薬。

これは知っている。

ダンジョン内で発見された薬の一覧は読み込んでいる。

これは飲めば自分の職業以外のスキルを自分のスキルボードに追加できるという破格の効能のある薬だ。


「確か……数千万円でやり取りされてたような……」


思わず生唾を飲んでしまう数字だったのを覚えている。

これ、持って帰ったらすごいことになるぞ……?


3つ目、剣。

ちょうど俺が振るのに不自由しないくらいの長さの片手剣だ。

刀身が黒くてカッコイイ。

というか、


「明らかにコレだけ別格の雰囲気があるんだが……」


とても軽くて扱いやすそうな一方で、雰囲気が重々しい。

果たして本当にコレを振るってもいいのだろうか……

そんな迷いさえ生まれてしまうほど、その剣には神秘さと禍々しさが共存していた。

とりあえず下手に触れないよう、隅に置いておこう。


そして最後4つ目の宝箱からは、麻色のデカい布。

……麻色の布だ。

ん? 

麻色の布……以外の何物でもない。

え?


「なんだこの布?」


人ひとりを包み込むくらいには大きいが、掛け布団にもできそうにもなく、風呂敷代わりに何かを包むにしても心許ない薄さの布だ。

透明マントでもなさそうだし。


「ハズレか? まあ1個くらいはそういうのもあるか……」


ちょっとガッカリしつつ、俺はその布を空になった宝箱にぞんざいにして掛けた。

その次の瞬間、布の下にあったはずの宝箱が消えた。

視覚的にではない。

存在ごとだ。


「はっ!?」


俺は慌てて布を持ち上げる。

すると布の中からさっきの消えたはずの宝箱が再び現れた。


「これ、もしかして……」


俺は試しに、1つ目の宝箱に入っていためちゃくちゃ明るく光り輝いている鉱物を布で包み込んでみる。

光が一瞬にして消えた。

布をバサバサと振ってみる。

ゴトン、と。

さっきの鉱物が地面に落ちて転がって、再びやかましいくらいに光輝き始めた。


やっぱり、そうだ。


「これ、なんでも収納して持ち運べる布なのか……?」


これまでに聞いたことのないアイテムだった。

これまた同じ収納用アイテムであり一部の冒険者しか持っておらず汎用性の高い【アイテムボックス】とはまた別のタイプになるだろう。

B級冒険者が持つにはちょうどいい希少アイテムかもしれないな。

とにかく、この宝箱のいずれにもかなり希少なアイテムが入っていることは分かった。


「あとはこれらを使ってどうやってサバイバルするか、だな……」


自問しつつ、しかし俺はもうすでにアイテムの使い道を思いついていた。

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