第6話 どういうことだよミミックさん
ドゴォォォンっ! と。
地響きを伴う低く大きな音を立て、ドラゴンの首が地面に落ちた。
いや……俺が落としたんだ。
「……ぉぉぉ」
手が、体が激しく震えていた。
昂揚とか恐怖とか、その全てが混ざり合った感情で。
ぜんっぜん制御できない。
俺、ドラゴンの手が迫ってきて、本当に死んだかと思ったんだが???
……実際に相討ちになってたりしないよな? 俺、いま生きてるんだよな?
震える手で、俺は自分のスキルボードを開く。
そして現在保有する未使用のスキルポイントを確認した。
★
未使用スキルポイント:7,825
使用済みスキルポイント:156
★
「──っ!?」
呼吸が止まる。
数字が読めなくなったのかと思った。
目を擦る。
しかし書いてある数字の桁は変わらない。
7でも70でも700でもない。
──7,825ポイント。
「……はっ、ウハハハハハッ!?」
笑っちゃうね、こんな桁のスキルポイント見たことがねぇ!
いやだって、こんなことあるかっ?
ただでさえ普通は未使用スキルポイントの数より使用済みスキルポイントの方が多いはずだろっ?
それが、こんなたった一瞬で桁が違うって……
「ドラゴン、凄すぎだろ……! ふはっ、はははっ……はぁ……」
さすがに笑い疲れる。
笑いすぎで横隔膜が吊るかと思った。
さて、それにしたってこのドラゴンこれからどうしよう?
この素材を剥ぎ取れば相当な額で売れるんじゃないか?
「……あっ、そうだよ! こういう時のためにマジッククロスがあるんじゃん!」
俺は後ろポケットに詰めこんでいた、包み込んだ物をなんでも収納できるそのマジッククロスを取り出そうとして、しかし。
〔ギギギィィィィィッ!!!〕
「うわっ、やばいっ!」
完全に忘れてたけど、俺リザードマンにも追われてたんだった!
逃げるかっ?
いやでもしかし、このドラゴンの死体を置いていくのは……あまりにもったいなさ過ぎる!
「そうだ、魔剣で体の1部分だけでも切り取れば!」
俺はドラゴンの2本生えている頭の角に向かって魔剣を振った。
パリンッ!
「えっ……!?」
魔剣の黒い刀身が割れた。
「嘘だろ……ここで限界が来るのかよッ!?」
まだたった5回しか振るってない。
使用回数制限が5回なのかっ?
どんだけ厳しいんだ!
いやまあ、ドラゴンの首を落とせる時点で破格の性能なのは分かるけども!
「ぜったい今のタイミングじゃ無いでしょぉぉぉっ!!!」
唯一の武器を失った俺にできるのは、逃げることのみ。
〔ギギギィィィィィッ!!!〕
絶対に掴まるわけにはいかない。
リザードマンは強い。
普通にミノタウロスレベルと言ってもいい。
そんな相手に素手で勝てるハズがない!
俺はドラゴンが居たエリアの先の通路へと飛び込んだ。
「ミミック……ミミックはどこだっ!?」
もはや助かる手立てはミミックによる移動スキルを使うことのみ。
俺は走った。
いったい今日だけでどれくらいの距離を走ってるだろう?
もう足は千切れんばかりに痛い。
でも止まったら待っているのは死。
ホントに今日は良く死に追われる日だな!
ジグザグとダンジョンを進む。
リザードマンたちの脚は速く、直線じゃなかなか撒けない。
とにかく曲がりまくって、リザードマンたちの視界から俺を消すように努めた。
そしてしばらくして、
「あっ!!!」
見つけた、宝箱!
俺がいる通路の横道に行き止まりがあり、その奥に宝箱は鎮座していた。
俺は駆け寄ってテイムをかける。
〔ベガァ〕
宝箱はだらしなく口を開けると舌を出す。
よっしゃ!
テイム成功、ミミックだ!
「すまんなミミック、さっそくだけどスキルボードを見せてくれ!」
〔ベガァ?〕
俺はミミックに手を付けて──
ああそうか、血がないとダメだった!
俺はギュッと目を瞑って自分の親指の皮を噛み切った。
「イッ……!!!」
痛たい。
なんでだろうね、自分で自分のことを傷つけるとモンスターにやられた時よりもすごく痛い気がする。
さっきの方がよっぽど酷いケガをしていたのに不思議な話だ。
それはさておき、
「スキルボードは……!?」
俺は血の滲む親指をミミックに当て、その内容を覗き込む。
★
├擬態Lv2 - 擬態Lv3 ...
└×フィックス
★
「はっ?」
思わず間抜けた声が出た。
いや、え?
どうして【移動】スキルが無いんだ……?
ついでに【マーキング】も無い。
代わりにあるのは【
「待て待て、ヤバいって頭パニックになるって!」
俺、ミミックに会えば移動ができて、とりあえず逃げ延びることくらいはできるだろうって思ってたんだけどっ?
つまりそれができないってことかっ!?
〔ギギギギギギィッ!〕
すぐ後ろの通路から、リザードマンたちの低く割れた声が迫って来ていた。
ダメだ、時間がない。
このままじゃ……!
〔ベガ、ベガベガァ~〕
そんな慌てる俺に対して、ミミックはのんびりとした声を上げた。
長い舌を出して俺の頭をポンポンと叩いてくる。
それはまるで『オレを信じろ』と言っているみたいな、そんな頼もしいスキンシップだった。
「……信じる。信じるぞミミック!」
〔ベガァ〕
俺はスキルボードにスキルポイントを注ぎ込んだ。
★
エラー
スキル:フィックスの習得条件を満たしていません。
★
「はっ?」
見たことないエラーがスキルボード上に表示する。
フィックスの習得条件?
なんだよ、それ?
★
擬態Lv5
├[+擬態モードを選択してください]
└×フィックス
★
「ぎ、擬態モードだぁ???」
聞いたこともないワードだ。
しかし、確かによく見れば【フィックス】のスキルの前には×印がついている。
……もしかして、この擬態モードとやらを選択すればフィックスの習得が可能になるのだろうか?
〔ギギィ──ッ!!!〕
「ひぃっ!?」
すぐ後ろだ、すぐ後ろで声がした!
リザードマンたちが俺のことを見つけやがった!
俺は[+擬態モードを選択してください]ボタンを慌ててタッチする。
★
1.武器・装備
2.地上生物
3.ダンジョン生物
4.その他(自由入力)
★
「武器っ、武器武器武器ぶきぃっ!」
★
1~20件を表示/全129件
1.アサシンソード
2.アックス
3.アトミックブレード
...(中略)
20.刀
[次へ >]
★
「なっ──」
100件以上から選べるだとっ!?
やばい多いやばいっ!
時間が足りん!
とにかく今は片手剣とかじゃなくて、この圧倒的な数的不利な状況を覆せるような、そんなめちゃくちゃ強い武器じゃないと……!
〔ギギッ!!!〕
もうわずか数メートル後ろからリザードマンの声。
ああ、もうダメだ。
これ以上は、間に合わない。
俺はとっさに目についた【ソレ】を選択し、【擬態】のレベルをマックスまで上げた。
「頼んだミミック、ソレに擬態してアイツらを──」
〔ベガァ!!!〕
バシン、ミミックの舌が俺を弾き飛ばす。
壁際に尻もちを着いてしまう。
そんな俺の横を抜け、迫りくるリザードマンたちの元へと飛んでいったのは、
──ギュィィィイイインッッッ!!!
鋼色の巨大ドリル。
そのドリルは通路いっぱいにデカくなり、高速回転をしながら、辺りの壁一帯を巻き込んで掘削しながら猛スピードで突き進む。
〔ギッ…ギギィィィ──ッ!?!?!?〕
リザードマンたちの断末魔が上がる。
しかしそれよりも壁を削り進むドリルの音が強い。
ガガガッと道路工事のコンクリート固めるヤツみたいな超爆音を立てて、リザードマンたちの悲鳴もろとも全てを粉々にした。
後に残るのは血と肉片と塵。
〔ベガァ……〕
ドリルから、ミミックの困ったような声が聞こえてきた。
ドリルの下の方から長いミミックの舌が出て来て、後ろの俺の方にピコピコと振っている。
……もしかして、後ろに戻りたいのか?
そのドリル、どうやら回転力を推進力に替えていたらしく、バック方向には進めないらしい。
「ミミック、元に戻っていいよ」
〔ベガァ!〕
ミミックは嬉しそうに返事をする。
そしてシュルシュルという衣擦れのような音と共にその体を縮めていって、普通のミミックの姿へと戻った。
ぴょんぴょんっ、と。
ミミックが舌を使って上手に飛び跳ねて俺の元まで戻ってくる。
「よ、よくやってくれたな、ありがとう」
〔ベガァ!〕
「ちょ、ちょっとスキルボードを確認させてくれ?」
〔ベガァ?〕
★
擬態Lv10(MAX)●
├擬態モード:巨大ドリル
└フィックス
★
やっぱり、デカいドリルは強いんだね?
ああ、男のロマンを信じてよかった。
しみじみと思った。
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