第7話 再びの地下5階層/地上への活路
ミミックのスキルボードを見て、疑問に思う。
★
擬態Lv10(MAX)●
├擬態モード:巨大ドリル
└フィックス
★
「結局、【フィックス】ってなんだったんだ?」
俺はミミックのスキルボード、フィックスの文字をタッチする。
詳細画面が現れた。
★
フィックス:必要ポイント=1
詳細:状態を擬態モードで固定する
★
「……これってもしかして、ミミックをずっと巨大ドリルにしてしまうってこと?」
〔ベガァ……〕
おいおい、危ねー!
間一髪だったな。
あの巨大ドリルのまま戻れなかったらミミックを進ませたっきり一生動かせないままだったぞっ?
「これは保留でいいや……あともう1つ気になったんだよな」
【擬態モード:巨大ドリル】の部分。これも詳細画面を表示できる。
★
擬態モード:巨大ドリル
詳細:巨大ドリルに擬態する
[─リセット─]
★
「! やっぱりあった!」
探していたのは[─リセット─]のボタンだ。
恐らく、これをタッチすることで擬態モードをリセットできるのだろう。
【フィックス】という固定スキルがあるのだから初期化するスキルもあるだろうなとは思っていたのだ。
「巨大ドリルには助けられたけど、多少狭い通路じゃないと前進できないって縛りもあるみたいだしな……」
俺は[─リセット─]ボタンをタッチする。
★
確認
リセットを行うと擬態モードが解除されます。
擬態Lv10→Lv5へと下がります。
リセットしてよろしいですか?
[─リセット─]
[─やめる─]
★
「げっ、マジかよ……」
せっかくスキルポイントを割り振ったというのに……
もったいない。
とはいえいま俺は武器ももってないし、他に選択肢はない。
★
リセットが完了しました。
★
リセットを行うと再びスキルボードが点滅、再表示される。
擬態モードは解除されていて、擬態Lv5となっていた。
再び俺は擬態モードを選択肢、ミミックにスキルポイントを割り振る。
★
擬態Lv10(MAX)●
├擬態モード:片手剣
└フィックス
★
〔ベガァ〕
スキルボードを閉じると、ミミックは勝手に擬態をしてくれた。
シュルシュルと細くなって白い刀身の片手剣の姿になる。
「おおっ、なんというか……すごく手に馴染むなぁ」
〔ベガベガァ〕
「これからよろしく頼む。せっかくだし名前を付けようかな……お前の名前はこれからベガァだ。いいか?」
〔ベガァッ!〕
ベガァも了承してくれた。
心なしか嬉しそうにも見える。
よし、今度は【移動】スキルで俺のことを逃がしてくれたミミックにも名前を付けてみようかな。
「……にしても、こんなにもミミックと仲良くできたのは初めてかもな」
これまではパーティーのヤツらがいたから、こうやってミミックと触れ合おうもんなら
「……」
パーティー、か。
3人とも無事に地上への道を進めているのだろうか?
これまで俺自身が命の危機に瀕していたということもあって、できるだけ考えないようにしていたんだけど。
でも、やっぱり頭の片隅からあの光景が離れない。
……翔大。アイツ、あの時俺のことを殺そうと……。
「……次会ったら文句を言ってやる」
そして問い詰めてやる。
なぜあの場面で俺の腹を蹴ったのか。
なぜ俺を置き去りにしたのか。
アイツは俺が「無能だから」とか言ってたが、納得できない。
「……だけどやっぱりそれは生きて帰れたらだな。この階層に他の冒険者はいないだろうし、隠しエリアに帰るか」
リザードマンたちはきっとまだ大量に控えている。
その追撃の手が伸びてくる前に、俺はその通路を抜け出してなるべく身を潜めながら元来た方向へと歩き出した。
* * *
なんとか、無事に元の隠しエリア前まで戻ってくることができた。
「……無事に?」
それはちょっと疑問だ。
なぜなら道中で3体ほどリザードマンに遭遇してしまったしな。
でもこうしてちゃんと生きて帰ってきている。
それはひとえにこのベガァのおかげだ。
「まさか剣の切っ先だけ舌に変化させて伸ばせるとはな……」
ベガァは擬態で俺の剣になってくれている。
剣としての性能は【擬態Lv10】なだけありもちろん素晴らしいもので、これが売っていたらきっと数百万円は下らないレベルの代物というくらい。
だけど良いものを持ったくらいじゃ、俺の実力だとリザードマンには敵わなかっただろうよ。
でもそこは愛しの我がミミック、ベガァの剣。
俺が剣を振るうのに合わせ、ベガァが舌で変則的な攻撃を仕掛けてくれたのだ。
おかげで何度も戦闘中の不意打ちに成功し、連戦連勝を築き上げて帰って来たというわけ。
「助かったよベガァ、ありがとう」
〔ベガァッ!〕
腰に差した剣(ベガァ)が揺れる。
喜びを表しているらしい。
可愛いヤツだ。
「さて、これからどうするか……って言っても、選択肢なんて有って無いようなもんだけどな」
ドラゴンとリザードマンだらけの最下層と異階層モンスターがあふれ出す地下5階層。
どちらも上級モンスターだらけで地獄だが、それでもマシな方がどちらかといえば……ドラゴンが出ない分、後者だろう。
よし。
この階層でサバイバルするプランは破棄。
地下5階層へ行こう。
「倒したドラゴン素材を持って帰れないのは痛いけどな……」
でも諦めた方がいいだろう。
頼りの魔剣はもう無いし、ベガァの剣で刃が立つかは分からない。
何よりリザードマンたちに囲まれては、また命の危険すらあるのだから。
俺は相変わらず薄暗いその隠しエリアへと入る。
変わらない位置にそのミミックはいた。
俺はその前に屈みこみ、頼む。
「移動させてくれ、地下5階層に」
〔ミィっ!〕
再びミミックの口がパカリと空いた。
そして俺は丸飲みにされる。
真っ暗な世界がやってくる。
その中でしばらくの浮遊感、そして唐突に上に引っ張られる感覚。
これまたさっきと同じで、唾を吐き棄てられるような音と共に、俺はミミックから吐き出されていた。
二度目になれば慣れたもんだ。
俺は着地した瞬間にベガァの剣を抜いて周囲を警戒したが、異階層のモンスターたちは付近に居ないようだった。
「ふぅ……よかった」
さすがにモンスターも行き止まりの通路に長居はしない、そう思ったのが正解だったみたいだ。
俺はそこで鎮座していたミミックにお礼を言って頭を撫でる。
移動スキルで助けてくれてありがとう、と。
ミミックはそれに対してミィミィと言って喜んでくれたみたいだ。
……よし。こっちの移動させてくれる子はミミィと名付けよう。
「ミィ~!」
そう伝えると、ミミィはなんだか嬉しそうにひと鳴きした。
※2024/03/13 一部本文を修正・追記
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