第5話 ダンジョン最強格
俺は隠しエリアからコッソリと身を出して(隠し扉を切り刻んだ時点で意味がないとは知りつつだ)、辺りをうかがった。
……うん、大丈夫。壁の色が青黒くて俺の見慣れたダンジョンとはちょっと違うけど、それ以外は普通っぽいな? 特に変わった場所もないし。
「しかし、なるほどね……ここは行き止まりの通路のちょっと手前なのか」
絶妙に冒険者たちが気にかけないであろう場所に俺が出てきた部屋はあった。
さすが世界でも発見数の少ない隠しエリアだ。
見つからないことに納得してしまう。
「じゃあさっそく探索といこうかね」
俺のプランはこうだ。
1.他の冒険者とミミックの両方を探す
↓
2.道中で魔剣を使ってモンスターを倒す(スキルポイントを稼ぐ)
↓
3.冒険者を見つけた場合は連携を取ってセーフゾーンを目指す
↓
4.冒険者が見つからなかった場合は1で探し当てたミミックに移動スキルを覚えさせて別の階層へ
できれば他の冒険者と一緒に行動できれば心強い。
異階層が消えるまでモンスターが出ない階層……つまりセーフゾーンまで逃げて、協力し合いながらサバイバルができるからな。
だけどこの広いダンジョンで他のパーティーとすれ違うというのはなかなかに難しいだろう。
「まあ、だとすると4.のミミックスキルでの移動で運任せに上の階層を目指していくしかなくなるわけか……」
俺は魔剣を、なるべく振りたくはないがそれでもいつでも振るえるように携えつつ、慎重に歩みを進めていく。
ここが地下何階層だかは知らないが、確実に言えることは地下5階層よりは下だということ。
理由は簡単。まるで見覚えのない壁の色をしてるから。
だてにこれまで地下1~5階層のダンジョンを飽きるほど歩き回ったりしてはいない。
「どうせなら地下10階層よりも少し下とかであってほしいもんだな。今なら魔剣も持ってるし……」
どうせならリザードマンやミノタウロス、オーガが相手だと嬉しい。
ヤツらは強いから倒した時に得られるスキルポイントも破格だろう。
普段なら絶対に相手にはしないが。
だって殺されちゃうだろうし。
それはさっきのことで分かりきっている。
異階層から上がって来たらしい亜種っぽいミノタウロスを相手にチビりそうになったばかりだからな。
いや本当によく生き残れたもんだよ、俺……。
しみじみ。
「……んっ?」
ドスンドスンと俺の歩いている通路の先から低い音が響いてくる。
どうにも、何かの足音らしい。
音の大きさからして人間じゃないことは確かだ。
……よしよしモンスターか。
音の反響具合からこの先は広めの空間があるみたいだな。
現れるのはオークか、はたまたミノタウロスか。
今ならこの魔剣のひと振りで誰が相手でも倒せるぜ!
ワクワクとしながら俺は通路から顔を覗かせて……
そこにいたのはドラゴンだった。
??????
え?
ドラゴン?
ひょいっと俺は体を引っ込める。
壁に背中を預けて、バクバクと暴れる心臓を押さえる。
……いま、俺の目にはドラゴンが見えたか? ああ見えたとも。ホントにそれはドラゴンだったか? パッと見はそう見えた。
もう1回、壁に隠れてそっと覗いてみるか?
否、無理、死。
だってなんかもう視線がこっちに向いてる気さえするんだもん。
「……ふぅー……落ち着け落ち着け……」
クールになれ一条奏多。
冷静に状況を分析するんだ。
まずは……そうだ、ドラゴンについて知ってることを思い出してみようじゃないか。
ドラゴンは確かダンジョン内で最強の生物の一角だ。
多くのダンジョンの【最下層】付近に巣を作っていると言われていて、その強さはSS級。ダンジョンの王とも呼ばれており、個体によっては他のモンスターを
日本での発見例はまだたったの2件のみ。
討伐例にいたっては1件しかない。
生で見たことがある冒険者なんてS級冒険者の中にも滅多に居ないだろう。
……で?
それを俺が目撃した?
いやいや、いやいやいや。
まさかそんなわけないだろう?
……そうだよな。冷静に考えてあり得ない。あれは目の錯覚か何かだ。
俺はそう思い込むことにした。
よし、でもここを進むのは止めておこう。
来た道を引き返すことにする。
音を立てないようにそろりと。
ここで勇猛果敢な冒険者なら嬉々として魔剣を振りかざしドラゴン(仮)に向かっていくのだろうが俺はそんなに勇猛でも果敢でもない。
「一番大事なのはやっぱり命だからな」
俺にとってダンジョン攻略で成功することは大きな目標だけど、そのために全てを捧げようとだなんて思わない。
地上には俺を待っているひとりの家族が、姉がいるんだから。
……よし、だいぶ歩いた。さっきのドラゴン(仮)からは充分に離れたな?
「さて、それじゃあミミックか冒険者を探さなきゃだけど……でも冒険者はいないだろうなぁ」
さっきのドラゴン(仮)が本当にドラゴンだった場合、おそらくここはダンジョンの最下層付近だ。
つまり、冒険者たちにとってはほぼ確実に未踏の地。
「ミミックを探して、移動スキルを覚えさせるしかないか」
そうして俺がまた1歩足を踏み出した時だった。
ゾロゾロゾロ。
十数メートル先の目の前の曲がり角から大量のリザードマンが現れた。
それも、何十体もだ。
「えっ」
〔ギィッ!〕
リザードマンたちは俺を視界にとらえるなり、ダッと駆けてきた。
「おっ、おいおいおい! マジかぁっ!?」
俺もまた走り出す。
なんたる不運!
せっかくドラゴンから離れたというのにっ!
「──っ!」
前方にまた曲がり角が見える。
よし、あそこを曲がれば……
ゾロゾロゾロ。
「うっそだろっ!?」
その曲がり角からもまた大量のリザードマンが現れた。
その全てが俺だけを見て、俺に襲い掛かってくる。
挟撃だ。
逃げ場なんてどこにもない。
「うっ──おぉぉぉっ!!!」
腹を括り、俺は前方のリザードマンたちに突撃して魔剣を振るう。
チュチュチュインっ!
お馴染みの甲高い音とともに、剣を振るった正面にいたリザードマンたちが全て──6体ほど切り刻まれた。
「どうだっ! 死にたくなきゃとっとと退いて、」
〔ギギギギギガァァァァァァッ!!〕
「ッ!?」
リザードマンたちの士気は折れない。
変わらず俺に襲い掛かってきた。
……くそっ! 逃げるしかないかっ!
魔剣の弱いところだ。
いつ限界がきて壊れるか分からないゆえに、こういった大量のモンスターを相手にする場合に使い辛い!
俺は走る。
しかし、それ以降もあちこちの曲がり角からリザードマンが飛び出してきて、一向に逃げ切ることができない。
「やばいっ、このままじゃさっきのドラゴン(仮)のところに戻って──」
そこで、ハッとした。
なんで、リザードマンがこんなにも大量に俺1人を狙って来る?
そんなメリットがどこにある?
いいや、ない。
……俺さっき、自分で思い返してたじゃないか。ドラゴンは『個体によっては他のモンスターを
「ああちくしょうっ、そういうことかよっ!」
指示を出してるんだ、ドラゴンが。
あの時俺が壁に隠れていたのを、ドラゴンは見通してたんだ。
もしかしたら下賤な人間が自分の敷地に足を踏み入れたことにでも怒ったのかもな。だから自分の下僕であるリザードマンに俺を狩れ、逃げ道を失くせと命令している。
……なら、俺はどうすべきだ?
魔剣の耐久性を信じて大量のリザードマンたちを倒しながら逆走、そして地下5階層へと移動できるミミックの元まで逃げ切るか?
あるいは……
「運任せにして、その結果に後悔しないかって言ったら……しちまうよなぁっ!」
俺は腹を括った。
そして先ほどは引き返したその地点を、駆け抜ける。
〔グォ…?〕
「おっ邪魔しまぁぁぁっすッ!!!」
俺はとうとうドラゴンの領域を侵した。
無防備にも寝転んでいやがったドラゴンに向かい、俺は全力で走る。
ドラゴンが鋭い睨みを利かせてくる。
威圧。
それはこの場の重力を操っているんじゃないかと思う程の迫力だ。
聞いたことがある、確か強力なモンスターの中には戦わずして心の弱い冒険者の戦意を挫く絶対的な"圧"を出せると。
……でも俺には効かないね。
だってもう肚を決めた時に覚悟も決まっているから。
〔グガァァァッ!〕
威圧で俺が止まると思ったのだろうドラゴンは
つまり、俺の方が一手先んじた。
なにせ俺はすでに魔剣を振り上げて、ドラゴンの喉元まで迫っている。
ドラゴンがその図体に似合わぬ機敏な動きで、俺の体を鷲掴みにしようとした。
しかしその前に。
俺は魔剣を思い切り振るった。
チュチュチュッ──
──チュチュチュインッ!!!
体を真横に1回転させながら、ドラゴンの喉に向けて2連撃。
寸分違わず同じ個所に叩き込む。
硬いドラゴンの鱗は、そこにだけは生えていなかった。
3つの深い切れ込みが露わになり、一瞬遅れてそこから大量の鮮血が舞う。
そして、ドラゴンの首が落ちた。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
続きのお話、「第6話 どういうことだよミミックさん」は明日の朝7時に更新します。
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