第59話☆新井美紀vs前田陽菜

「安田さんさっきのキャプチュード凄かったね」

「あ、うん。ありがとう」

「あんな難しい技、試合で決めちゃうなんて。生で見たの初めてだったよ」

「あんまり使う人、いないよね」


安田葵はぼそぼそと喋る。胸元まで伸ばした綺麗な髪に、透き通るような白い肌。あと、ちょっとハーフ?クオーター?っぽい顔立ちが特徴的だ。街で声かけられたりしそう。


「投げ技、好きなんだね」

「うん。前田さんは?」

「私も好きだよ。ジャーマンで決めた時がやっぱ一番気持ちいいんだー」

「そう…なんだ」


そう答えながらも今日はジャーマンスープレックスをまだ決めていない。何だか警戒されている気がして。私も有名になっちゃったのかなとか思ったり。中学の頃を知っている人から聞いたとかかもだけど。でも今は特訓中の関節技を試したい気持ちも強い。


私の二試合目は新井美紀との対戦だ。

リングに上がって向かい合うと、身長は私と同じくらいだけどスレンダーな分、長身に見える。この長い脚が厄介だ。


試合開始のゴング。すぐさま強烈なローキック。

いっ...!これ届くの!?脚長いな。咲来並みの蹴りだ。思いっ切り蹴られた。


でも二発目はさっきより軽くて何とかスウェーでかわす。間合い掴まれる前に一発目は思いっ切りいく作戦なのかな。


後の展開は安田葵の試合とほぼ同じだ。とにかく連打。蹴って蹴って蹴りまくってくる。だから私は捌いてかわしてを繰り返す。


キック一筋の新井美紀と投げ技一筋の安田葵。

2人には圧倒的な実力差があったけどその差は何だろう。何かに特化した戦闘スタイルということは共通しているのに、何が2人の命運を分けたのだろう。


新井美紀の動きの切れが落ち始めたタイミングで前に出る。ボディスラム、ブレーンバスターを立て続けに決めた。


私も咲来にキックの対処法を特訓してもらってなかったらもっと食らってただろう。そうしたら後半は足の踏ん張りが効かなくて、動きが落ちたところにハイキックが来るのかな。


立たせると今度はロープに振ってドロップキック。立ちあがろうとしているところを後ろから首根っこを押さえて飛びかかる。フェイスクラッシャーで叩きつけた。


今のが効いた。この状況ではもう試合序盤みたいなキックは打てない。それがわかると新井美紀はもう恐くない。


うつ伏せの新井美紀の左足を両足で挟み、背後からフェイスロックをかける。STFで絞り上げた。

ロープに進もうとするけど、それだけの筋力も、それまで堪えられる余力もないはずだ。

しばらくすると限界に達した新井美紀がギブアップし試合終了となった。

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