第51話
「そうそう、片足取ったらチャンスだね。片逆エビ固めから移行できるから、片足さえ取れればいいよ」
教えてくれたのはSTFだった。うつ伏せの相手の片足を曲げて自分の両足で挟み込み、背後からフェイスロックをかける技だ。タックルでテイクダウンしてかけられる技を持っておくといいって教わった。
STFは莉子さんも試合で使うみたいで、いろんなコツを教えてもらった。タックルで片足を取ってまずはハーフボストンクラブに入り、そこから足を両足で挟んでSTFに移行する。まずはこの形を繰り返しやって身体に叩きこんでいく。
莉子さんと交互にかけてかけられてを繰り返していった。やられて身体で覚えるのが一番早いというのが莉子さんの持論なのだけど、
「あぁっ!」
「あ、ごめん締め過ぎた!?」
顔が歪むかと思った。そんなにごつく見えない身体のどこにこんな力があるのかって不思議なくらいだ。この技はちゃんと練習すれば私もギブアップ取れるようになるかな。
美月先輩が言うには防御は合格点を取れれば満点でなくてもよい、らしい。
守りに徹したら試合時間を逃げ切ることはできるかもしれないけど、それでは勝てない。ノーダメージで勝つより、決定打を受けないよう相手の得意分野は徹底的にブロックしながら、その他の技は割り切って受ける。その見極めも大事だそうだ。
そして後はいかに攻めるか。
「投げ技を警戒されたくらいで何もできないんじゃダメ。攻撃の種類が増えれば相手は守り切れなくなる。結果的にジャーマンにも入りやすくなるはずよ」
ということで、まずは関節技強化が始まったのだ。
「あと、3カウント以外でも試合を決められる方がいい。関節技だと相手の体力削り切らなくても勝てるからね」
その言葉の意味は今痛感している。練習が始まったばかりでも莉子さんにSTFをかけられると、これダメなやつだって感じる。今までジャーマンで試合を決めることが多かったから、プロレスとしてはちょっとあっけなくて寂しい気もするけど。
練習が終わった帰り道でも莉子さんにフェイスロックを極められた感覚が頬に残っていた。
「ねぇ、私顔腫れてない?」
「うーん、大丈夫、かな。ここちょっと赤くなってるけど」
「痛っ」
咲来に指で突き刺される。莉子さんに何度もフェイスロックをかけられた場所だ。やっぱり赤くなってるのか。痣にならないといいけど。
「大島さんの技って強烈だよね」
「ほんとに。顔の形変えられるかと思った」
咲来も徐々に技のバリエーションを増やしているらしい。最近は投げ技もやっているのを遠目に見て羨ましいなと思った。
美月先輩の咲来の交流試合へのコメントは端的で、
「いい感じね。関節技はまだ練習不足だしそんなもんでしょう。そこはさらに磨きをかけつつ違う技もやっていこうか」
だった。咲来は飲み込みが早くそつなくこなす。学校での練習でスパーリングしても前とは違う動きをしてくるから面白い。私も負けてられない。
次の交流試合は年明けだ。それまでにもっといろんな関節技を習得して、誰が相手でも負けないように強くなってやる。
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