第50話☆反省
「全っ然ダメね」
交流試合の報告を聞いた美月先輩の第一声がこれだ。肩に付くくらいの長さの髪を無造作にかき上げながら先輩は言う。
「紫苑の子との試合はまぁともかく、沙耶香とは前半は上手く戦ってたけど後半は防御そっちのけでひたすら攻めましたってことでしょ」
膠着した試合展開に痺れを切らしてガンガン攻めてしまったところの話だ。沙耶香に技を決められる度に負けてられるかと火がついて、攻めの一手だった。
「で、勝つならまだしも、レフェリーストップになるくらいガチ極めされて負けたんじゃ、ノーガードでひたすら攻めてたこれまで通りの陽菜じゃん」
以前よりは成長したという気持ちは空気が抜けた風船のように急速に萎み、指摘された通りで何も言えない。
「ま、勝ってたら調子付いてただろうから、負けて反省する機会できてよかったんじゃん逆に」
「はい…」
私のしゅんとした声に先輩が続ける。
「ごめんって。ちょっと言い方悪かった。練習と試合じゃ違うもんね。試合の緊張感の中で一見地味な防御をコツコツ続けるってことが如何に難しいか。そこまで教えてあげられなくてごめん」
相手の攻撃を警戒する、仕掛けてきたところで回避し技に持ち込ませない。試合が膠着状態に陥った時、私はそれを続けられなかった。状況を打開するために攻撃に転じた結果、負けた。
防御に徹していたら、もしかしたらあのまま時間切れになって引き分けだったかもしれない。でも公式戦では引き分けはない。倒さなきゃいけないのだ。
「とは言っても、前半はできてたんでしょ。ひとまずは上出来よ。その感覚を忘れないようにすることと、あとは数をこなしていくしかないわね」
「はい」
「じゃあ早速次の練習に移ろうか」
先輩は立ち上がると莉子さんを呼んだ。既に練習着に着替えていて、サンドバッグを蹴って息を弾ませている。
「莉子、陽菜に技教えてあげて」
「何の?」
「関節技。ギブアップ取れるやつと繋ぎで使えるやつ。STFとか向いてると思うけどどうかな」
「え、私が関節技ですか?」
「いいからいいから。ほら、さっさと着替えておいで」
防御はもういいのかな。ていうか何で今から関節技の練習?
わけがわからないまま小走りで更衣室に向かった。
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