第40話
「終わった?英語終わってる?ちょっと見せてよー」
「ダメだって自分でやりなよ」
伸ばしてくるあかねの手から英語のプリントを遠ざける。まったく。油断も隙も無い。
「さっき数学教えてあげたじゃん。ケチ陽菜。あたしのも見せてあげなーい」
「いいよー。自分でやるから」
「終わりそう?」
「いや、ちょっときついけど。でも間に合わせる」
夏休みも残すところあと2日。
今日はあかねが家に来て一緒に宿題をやっている。私は部活の練習に、あかねはゲームに打ち込み過ぎたせいで、このままでは宿題が終わらないと焦り始めたのがつい一昨日のことだ。
「さらりんは?」
「咲来は一人で勉強したいんだって」
「ふーん。とか言いながらさっ、ほんとはカレと勉強してるんじゃない!?」
そう言えば咲来の成績は全然知らない。でも宿題が進んでいないことだけはわかる。
日中は私と一緒に部活だし、夜は絶対にゲームをしている。朝が苦手な咲来が部活前に勉強しているのは考えられない。それに学校に着いた時の咲来はまだちょっと眠そうだし。
「そこまで余裕ないと思うよ。部活忙しかったし」
私も練習が終わって家に帰ってからと思っていたけど、部活・帰宅・夕食・お風呂の流れに乗れば向かう先は勉強机ではなくベッドだ。それくらい毎日ヘトヘトだった。今までは課題はコツコツ進めるタイプだったのに。だからこんな夏休み終盤まで宿題が残っていたことはない。だからホントに焦る。
「あー!宿題多い!」
「陽菜が溜め込むからでしょー」
「さっき人のプリント写そうとした人が急にまともなこと言わないでよ」
やりたくないと駄々をこねるのもやめて、あかねはプリントを自分で進めていた。あかねの手は止まることなくどんどん回答を埋めている。成績優秀者め。写さなくてもすぐ終わりそうじゃんか。
「大学の練習、きつい?」
あかねがプリントから目を離さず、手を動かしたまま聞いてくる。
「うん。超きつい。2人でやってるとどうしても甘えが出ちゃうからさ。大学は先輩が見てくれるし、部員のレベルも高くて」
「さらりんも前会った時ちょっと身体しっかりした感じしたもんね。ぱっと見は華奢に見えるけど」
「この夏は筋トレも頑張ったからね」
「陽菜は?強くなった?」
自分は強くなったと思っているけど、どうだろうか。
この2か月はかなり練習した。技の練習、相手の技に対処する練習、フィジカルトレーニングもした。練習中、これ苦手だと思うところも多くあった。それだけ弱点克服ができているはずだ。大学生とのスパーリングでは地区大会みたいにさくっと倒せることはなくて、半分以上は劣勢になる。
「そりゃもう。誰が相手でもかかってこいって感じ」
私、強くなったのかな。不安な気持ちを飲み込んで明るく応えた。この夏できることはやった。胸を張って答えられるくらいのことはしてきたはずだ。きっと大丈夫だ。
「早く試合したい」
どれくらい強くなったのか、自分が習得したものがどれくらい通用するのか、早く実践で試したい。
あかねはそっかと言っただけでプリントから目を離さなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます