第20話:失態
茅野和助と大高源吾は吉良上野介の寝間に到着したが、上野介は既に逃げ出していた
「くそ、逃したか!」
茅野和助が上野介の布団の中に手を入れ、まだ温かい事を確認した
「まだ温もりがある、そんな遠くには行っておらん!」
「隠し部屋があるはずだ!」
茅野と大高は部屋中を探し続ける途中、茅野は漆塗りの箱を開けるとそこには当時では高級菓子であったカステラが入っていた
「何だ、これは?」
「ん、ああ、確か南蛮の菓子のカステイラとかいうものだ。」
それを見た茅野は小腹が空いたのかカステラを貪り始めた
「おい、何やってるんだ!」
「大高、お前も食え、美味いぞ。」
「うっ・・・・頂こう。」
茅野と大高は滅多に食えない南蛮菓子を貪り食った。殺伐とした雰囲気の中で甘い南蛮菓子の風味に2人の心はスッキリした気分であった
「さて気を取り直して探すぞ。」
「そうだな・・・・その前に。」
茅野は硯を持ち出しそこに水を注ぎ擦り始めた。擦り終わった後、和紙を拾いこう記入した
「(茅野和助及び大高源吾は吉良様の寝室に突入したが肝心の吉良様は既に逃亡・・・・と。)」
記入し終わった後、柱に先程、書いた和紙をくっつけた後、留め具で固定した
「よし、これで我等が吉良上野介の寝室を制圧した証になるな。」
「あぁ、いずれ町奉行の監査が入る。隠居と当主が敵前逃亡、それに吉良家の警備の甘さが世間に知れ渡るな。」
「そうだな。世に出れば吉良家も無事ではすまい。」
一方、山吉新八郎と戦っていた近松勘六等は予想外の強さに苦戦していた。近松は新八郎と激しく斬り合っている途中で石に躓き、そこを逃さず新八郎が蹴とばし、極寒の寒さの中で池にドボンと叩き落された
「あああああ!」
近松は泉水に落ちたときに左股に深手を負い、危ない状態のところを颯爽と現れた不破数右衛門に救出された。近松は同志たちに救出された後、不破は新八郎と対峙した
「赤穂浪人、不破数右衛門!」
「吉良家近習、山吉新八郎!」
互いに名乗りを上げた後、両者は激突した。互いに避けあい、斬り合っているとそこへ早水藤左衛門が放った矢が右肩に直撃し新八郎は「うう」と顔を歪めた。不破が「手を出すな」と早水を叱責したがその隙に奥田貞右衛門【奥田孫大夫の娘婿、近松勘六の異母弟」に新八郎に斬り付けられ、そのまま倒れた
「何故、邪魔をする!」
「不破殿、我等は吉良上野介を見つける方が先にござる。こやつに関わっている場合ではござらん!」
「くっ!」
吉良上野介の首を取るという目的を忘れていた不破は貞右衛門の正論に閉口した。不破は倒れている新八郎を見た後、他の同志と共に吉良上野介の探索に向かった。不破たちがいなくなったのを確認した新八郎は起き上がり、主君の命を果たそうとした
「殿を・・・・左兵衛様を助けねば・・・・」
吉良左兵衛が吉良家を脱出している事を知らない新八郎が負傷しつつ探しているとそこへ奥田孫大夫と勝田新左エ門にばったり出くわした
「くっ!」
「勝田、気をつけろ!」
「はい!」
孫大夫と勝田は新八郎と対峙した。しかし新八郎は先程負った怪我と戦いの疲労で思うように戦えず孫大夫に顔を、勝田に背中を斬られ、新八郎はその場で倒れ再び気絶した
「行くぞ!」
「はい!」
「逃げた?」
「はい、皆で行方を捜しておりますが誰も上野介様の顔を知りませんので怪しい者は切り捨てております。」
寺坂吉右衛門の知らせにより吉良上野介は寝室から脱出したと知った大石は「しまった」と内心、焦りだした。吉良左兵衛は塀を乗り越えて逃亡し、吉良上野介まで逃がしたら折角の苦労が水の泡になってしまう。その知らせを聞いた原惣右衛門と間瀬久太夫は不安を吐露し始めた
「弱りましたな。吉良左兵衛が逃亡した次に上野介が行方知れずとは・・・・」
「我等は上野介様の顔を知らぬ。万が一の場合は覚悟をせねばなりませぬな。」
「絵図面を広げよ。」
「ははっ!」
吉良邸の絵図面を広げ、制圧した箇所や隠し部屋を印をつけた。吉良邸内では表門隊と裏門隊が合流し吉良上野介の探索を開始した。特に隠し部屋は徹底的に探索をした。隠し部屋の中に吉良上野介か、もしくは敵が潜んでいる可能性があり慎重に当たらねばならなかった。そんな中、大石主税と矢頭右衛門七等の若武者が自ら志願して隠し部屋に入る等、同志たちの士気を上げる貢献をしたのである。そんな中、吉良上野介は恐怖に震えていた。無数の家臣の屍を見た上野介は恐怖に足がすくみ動けずにいたが小林平八郎を激励し続けた。
「大殿、もう少しで目的の長屋に到着します。」
「平八郎・・・・ワシは恐ろしい・・・・ワシもいずれこの者たちと同じ末路を・・・・」
「大殿。」
「御家老。」
「一学か。」
「ここから先に赤穂の浪人たちがおります。」
「そうか。」
そこへ偵察に行っていた清水一学が知らせてきた。行く先に堀部安兵衛等の赤穂浪士たちがウロウロしていたのである。それを聞いた小林平八郎は突然、吉良上野介が身に着けていた羽織を取り上げた
「拝借致します。」
「へ、平八郎。」
「某が囮になりまする。松竹、着いてまいれ。」
「はい!」
平八郎と松竹は先に堀部たちの前に現れた。平八郎は顔を羽織で隠し、松竹は脇差を抜き威嚇し平八郎と共に逃亡した。堀部たちは「吉良様だ」と叫び、後を追いかけた
「さあ大殿、参りましょう。」
「「さあ。」」
「あ、ああ。」
囮となった平八郎と松竹は一目散に逃げ続け、堀部たちは全速力で後を追った。行き止まりに差し掛かったところで堀部たちに追い付かれた
「吉良上野介様、御覚悟召されよ。」
すると平八郎が羽織りを脱ぎ、刀を抜いた。吉良ではないと悟った堀部たちは一杯食わされたと歯痒い思いをしつつ平八郎と対峙した
「松竹、参るぞ。」
「はい!」
平八郎と松竹は堀部たちと刃を交えた。松竹は茶坊主であるが脇差しを一心不乱に振り回し赤穂浪士たちを近付かせなかったが背後を赤穂浪士に斬られ、その場で倒れた。平八郎は堀部たちと互角の戦いを見せたが多勢に無勢、その場でなます切りにされた
「な、南無阿弥陀仏。」
「お、大殿。」
平八郎と松竹はその場で討ち死にした。堀部たちは吉良上野介を探索すべくその場を去ったのであった
「いたか?」
「いや、いないぞ。」
間十次郎たちは台所の炭小屋の探索をしていたが吉良上野介がいなかったためその場を後にした。十次郎が炭小屋の戸を閉めようとした瞬間・・・・
「開けておけ。」
「あ、はい。」
十次郎は炭小屋の戸を開けたままその場を去った。この行為が後の運命の鍵となる事は十次郎は知らずにいたのである
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます