第18話:討ち入り
12月14日未明、大石内蔵助たちは前原伊助が営む米屋に集合していた。各自、武器や武具を身に付け、稽古を欠かさずに行う者もいた
「堀部、弥兵衛殿はまだ来ないか?」
「申し訳ございません、ほりが義父上に伝えるとの事ですが・・・・」
「仕方のない御仁じゃ。」
「それよりも小平太が抜けたのは痛いですな。」
「あぁ、来ないのであれば是非もなし。」
吉田忠左衛門のいう通り、毛利小平太が突然になって逐電した事を知ったのである。吉良家に出入りし内部の情報だけではなく吉良上野介と吉良左兵衛の顔を知る唯一の人物なだけに大石は残念がっていた。例の忍びが寄越した吉良家の絵図面もあるが不安は尽きなかった。だがここまで来た以上、後戻りは出来ないと覚悟した大石は皆を集めたのである
「各々方。これより亡き殿の鬱憤を晴らすべく討ち入りを行う。狙いは吉良上野介及び吉良左兵衛の首でござる。しかし両名にばかり目がついていては仕損じる可能性があるため老若男女を問わず撫で斬りにする覚悟で望んで貰いたい。」
撫で斬りと聞いた息子の主税だけではなく同志たちは緊張が走った。普段の大石から出ない非情な言葉に断固たる決意を感じ取ったのである
「では我等の決意の証として金打を行う。」
金長とは刀の刃や鍔(つば)を相手のそれと打ち合わせである。主税と同志たちはそれぞれ刀を鞘から少し抜いた
「各々方、この大石に命をくれ。」
大石がそう宣言すると主税と同志たちは「カチン」と打ち鳴らした
「いざ出陣。」
「「「「「おう。」」」」」
「あいや、しばらく。」
「義父上!」
出陣しようとした瞬間、ギリギリで堀部弥兵衛が到着した。弥兵衛は慌てた様子であったが鎖帷子、手甲、脛当等を装備していた
「御老体、ギリギリで御座ったな。」
「御家老、御一同、遅くなって申し訳ない。」
「義父上、本当にヒヤヒヤしましたぞ。」
「馬鹿者、お前がさっさと起こさなかったから遅刻してしまったのだぞ!」
「起こしましたよ!それでも起きなかったではございませぬか!」
「何じゃと!」
「弥兵衛殿、安兵衛、喧嘩している場合ではない。これから吉良家に討ち入りをするのだ。喧嘩は後にせよ。」
「「は、はぁ~。」」
「「「「「はははははは。」」」」」
安兵衛と弥兵衛の親子喧嘩に周囲から笑いが溢れ、不思議と緊張感が解けた瞬間であった。弥兵衛は大石に向かってこう宣言した
「この弥兵衛、老骨に鞭打って亡き殿へ最後の御奉公仕る。」
弥兵衛はそう言うとカチンと金長をした。大石は弥兵衛の到着を確認した後、改めて同志たちに檄を飛ばした
「では皆の者、出陣致す。」
「「「「「おう。」」」」」
大石内蔵助を先頭に続々と同志たちが続々と吉良邸の立ち止まった。そして吉良邸では大石内蔵助率いる表門隊と大石主税率いる裏門隊に分かれ、表門隊は途中で入手した梯子で吉良邸に侵入を開始した
「原殿、気を付けてくださいませ。」
「心配な・・・・あああ!」
原惣右衛門は屋根から滑って、そのまま落下し足を捻挫したのである
「原殿、大丈夫ですか。」
「だ、大事ない。」
もう1人、屋根から滑ったのは者がいた。神崎与五郎である。その際に右腕を骨折したのである
「大丈夫か、神崎。」
「うぅ、大事ない。」
「御老体も気を付けられよ。」
「あぁ。」
堀部弥兵衛は大高源吾の助力を得て、屋根から降りる事に成功した。表門隊は全員、屋根から降りた
「片岡。」
「ははっ。」
片岡源五右衛門は口上書を入れた文箱を竹竿にくくりつけ、玄関の前に立てた。大石は長屋の方へ采配を向けると表門隊は長屋に向かった後からあるものを取り出した。それは鎹(かすがい)とトンカチである。鎹をつかって戸を塞いだ。トントンと音がして起きた吉良家の足軽たちは何事かと近付き戸を開けようとしたが開かずにいた
「ん、何の音だ?」
「おい、開かないぞ。」
「どうした?」
すると神崎与五郎たちは弓を構え、矢を放った。障子から矢が飛んできて何人かは吉良方は負傷した。突然、矢が飛んできた事に驚く吉良方に神崎たちは大声を出した
「神崎隊、50人続け! 」
「「「「「おお!」」」」」
すると矢の雨が飛んできた事で長屋にいた吉良方はパニック状態であり、とてもじゃないが反撃できる状態ではなかった。長屋には100名程の足軽がいたが武器を持っていないため反撃に出る事が出来なかったのである。その隙に残りの表門隊は突入し真っ先に武器庫を占領し槍や弓等を破壊に成功したのである。武器庫を破壊した後、襖を開けるとそこには3人の酔っ払った吉良家家臣がいた。吉良家家臣は「どうした」と酔いが醒めておらず、ぼおっとしていると・・・・
「キエエエエエ!」
槍を持った赤穂浪士のよってその場で突き殺された。残りの2人は突然の事に仰天しているとそこへ残りの赤穂浪士たちが突入した。2人は武器を持っておらず逃げ惑う事しかできなかったが追い付かれ、その場で斬り殺されたのである。台所役の1人が磯貝十郎左衛門に捕まると「蝋燭を出せ」と命じた。台所役は大人しく火のついた蝋燭を立てさせ、屋敷内を明るくしてみせたのである。一方、裏門隊は掛矢(かけや)【両手で持って振るう大型の木槌】で門を打ち破り吉良邸に侵入した
「よし、やれ!」
吉田忠左衛門が命じると裏門隊は一斉に「火事だ」と騒ぎ始めた
「火事だと!」
「どこだ!」
火事と聞いた吉良の家臣たちを混乱させた。騒ぎを聞き付けて吉良上野介も「何事か」と知らせると側付きの初老の茶坊主、松竹が慌てた様子で知らせてきた
「大殿、火事にございます!」
「火事・・・・松竹、火事はどこで起こったのだ?」
「まだはっきりした事は分かりませぬ。」
「う、うむ。このような時に・・・・」
火事に慌てる吉良家家臣を余所に小林平八郎、清水一学、山吉新八郎等は慌てずに着替えをしていた。裏門隊は隊列を整え、前列には弓隊が戦闘態勢に入っていた。吉良家家臣たちが裏門近くにまで近付くと裏門隊が待ち構えていた事に気付いた
「な、何奴!」
「放て!」
忠左衛門も合図に弓隊は一斉に発車した。矢の雨は吉良家家臣たちに命中し重傷、もしくは死亡した
「主税殿。」
「よし、掛かれ!」
主税が采配を振るうと堀部安兵衛を先頭に突入した。本来、屋外に配置であった不破数右衛門は持ち場を離れ、一緒に突撃したのである。赤穂浪士の討ち入りだと知った小林平八郎は直ぐ様、主君の下へと辿り着いた
「おぉ、平八郎。火事はどこだ!」
「火事ではございません、赤穂浪士の討ち入りにございます!」
赤穂浪士の討ち入りと聞いた吉良上野介は呆気に取られたが「ふははは」と笑った後、平八郎に命じた
「直ぐ様、長屋にいる足軽たちを起こせ。主だった者は武器を反撃せよ!」
「ははっ!」
一方、長吉新八郎は赤穂浪士の襲撃を知り直ぐ様、吉良左兵衛を逃がすために左兵衛の寝室へと向かった
「殿!」
新八郎が駆け付けた時には既に左兵衛はいなくなっており、完全に入れ違いになったのである
「入れ違いだったか!」
吉良家家臣たちは突然の奇襲によって大半の者は逃げ惑うばかりで物の役にも立たなかった。武芸に心得のある者は反撃したが一向二裏【3人1組で1人の敵を取り囲む戦法】の山鹿流兵法と堀部安兵衛や不破数右衛門等の武勇に優れた勇士もいたので吉良家家臣は討たれる一方であった。吉良上野介の命を受けた家臣が何とか武器庫に到着したが既に制圧されており、偶然出くわした赤穂浪士によって討たれたのである。屋敷中が騒々しくなったのを確認すると大石の合図で原惣右衛門が声高々に名乗りをあげた
「我等は播州赤穂浅野家の家来でござる。本日は亡き殿の鬱憤を晴らさんがため、ここに推参致した!」
原惣右衛門の名乗りによって正式に仇討ちが始まったのである
【架空の人物】
・松竹「吉良上野介に仕える茶坊主」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます