第12話 蒼い魔物討伐大作戦──2

 次の場所で見つけた魔物は、初めて遭遇したのと同じ蒼い狼だった。

 蒼い狼は前回同様、軽く一蹴りするだけで倒すことができた。


 その後がしばらくノエリナが「禍々しいオーラ」を見つけるのに難航し……結局追加の収穫は蒼い狼はもう一匹と、蒼い猪が一匹に留まった。


 欲を言えばもう少したくさん倒したいところだったが、まあぼちぼち順調とは言える結果だっただろう。


「そんなにたくさん担いで……重くないですか?」


 帰り道、俺が狼二匹と猪の死体をまとめて担いでいると、ノエリナが心配そうに聞いてくれた。


「重く……はないかな。ただちょっとこの姿勢の維持がしんどいけど」


「すみません。私も一匹くらい運べればよかったんですが……」


「いやいや気にするな」


 力の流入で体力がどんどんついてるおかげもあって、戦利品の重量が理由でしんどいということはないのだが、いかんせん三つものデカくて安定しない形のものを抱えて運んでいるので、バランスを取るのが難しいんだよな。

 今回はそれでもギリギリ運べる量の収穫だからいいのだが……いずれは何かしら亜空間系の収納アイテムを用意したほうがいいかもしれないな。


 などと考えつつ、俺たちは街へ帰還した。

 そしてその足ですぐ、素材換金所へ直行した。


「いらっしゃいまs――わわわわわ!」


 素材換金所の建物に入ると……リヒネさんが以前にも増して驚き、腰を抜かした。


「そ、その大量の死体は……」


「ああ、何とか期待には応えられたみたいだ」


 そんな会話を交わしつつ、俺は近くの荷車に三匹分の死体を降ろした。


「いやいや、期待に応えたとかそんなレベルじゃないですよね。一昨日のことはまぐれみたいに語ってたのに、ちゃっかり倒せるのが当たり前になっちゃってるどころかどえらいペースアップまで……」


 荷車に置かれた魔物に、目が釘付けになるリヒネさん。


「これには二つ理由があってな。一つは、俺が倒せる魔物の特徴を掴んだんだ。だから、一昨日は奇跡だと思ってたことに再現性が出たって感じだな。あともう一つ、ペースアップについては……ノエリナの協力のおかげだ」


「あ、そういえば……衝撃的な光景に目を取られて気づいてなかったです。ノエリナさん、ネヴィンさんに同行されてたんですね!」


「はい! 針金も新調してもらって、索敵範囲が広がりました!」


 さて、あとは査定結果を待つことだな。


「じゃ、後よろしく。朗報を待ってる」

「ええ! それじゃ査定を進めさせていただきますね!」


 俺たちは待合室でしばらく待つこととなった。

 それからだいたい三十分後、俺たちは呼ばれたので再度カウンターに向かった。



「今回の合計は五十万ステラになります!」


 トレーに積まれた金貨を前に、リヒネさんはそう結果を発表した。


「内訳としては、狼が一匹あたり十五万ステラ、猪が二十万ステラですね。今回も素材が凄く良かったため、かなり色をつけさせてもらう結果となりました!」


「あれ……狼、また値上がりした?」


「はい。実は前回の狼の毛皮、商会間の競売で値段が上振れしたんですよね。なので今回はそれも織り込んだ価格となっております!」


「な……なるほど」


 あの狼の毛皮、想定より高く売れたのか。

 流石は上級貴族向けというか、金の流れが段違いだな。


「ありがとう。ノエリナ……今日のところは三十万は針金のグレードアップに使うとして、残り二十万を二人で折半でいいか?」


「いえいえ、私の分の報酬なんていいんですよ! この針金を頂いた恩すら返せてないんですから……」


「そういうわけにはいかないさ。ノエリナの能力がなきゃ一匹も見つけられないどころか、普通の魔物に遭遇して死んでた可能性もあるんだからな。少なくて不満って方向性じゃないならさっきので決まりだ」


 俺は十万ステラ分の金貨をノエリナに渡し、残りを自分の財布にしまった。


「ありがとう。また来る」


「ええ! 明日以降も楽しみになってきました!」


 そしてリヒネさんと挨拶を交わすと、俺たちは素材換金所を後にした。



 ◇



 次の日。

 まず朝一番で昨日の金属製品店に行き、ミスリルの針金に1%のヒヒイロカネを混ぜてもらうと、俺たちはまたマトゥヴァルドの森に赴いた。


 1%ヒヒイロカネ入りの針金の効果は凄まじく、とうとうノエリナの索敵範囲は、森の中心部にいれば森の70%をカバーできるまでに広がった。


 それで探索が効率化された結果……俺たちは蒼い狼や猪を立て続けに見つけて倒したばかりか、新種の蒼い豹にまでエンカウントすることができた。


 だが……そいつとの戦いで一つ、残念なことが起きてしまった。

 蒼い豹自体は今までのと同じくワンパンできたのだが、豹を倒した瞬間、森の他の場所にいた蒼い魔物の反応も消えてしまったのだ。

 おそらく豹はマトゥヴァルドにおける蒼い魔物の主か何かで、それを倒してしまった結果、豹に生み出されていた蒼い魔物もつられて消えてしまったのだろう。


 豹からの力の流入はこれまた一段と凄まじいものだったが、欲を言えば、このことを先に知っていれば他の蒼い魔物を倒してから豹を討伐したかったものだ。


 まあたらればを言ってもしょうがないので、その後は狼、猪、豹の死体を持って素材換金所に帰還。

 換金が済むと、俺たちは別の場所へ蒼い魔物探しに向かってみた。


 他の場所にも蒼い魔物はほとんどおらず、結局新たに遭遇できたのは蒼い兎一匹のみだった。

 せっかくなので、そいつはすぐには倒さず、その素早い動きに対応する訓練に使うことに。

 兎の動きを完全に見切れるようになったところで、俺はそいつを討伐して今日の活動を修了することとした。


 更にその次の日は、今度はまたマトゥヴァルドの森に向かった。

 主が復活してないかのという淡い期待を込めて、また蒼い魔物が見つからなかったとしても、ここの通常の魔物相手に通用するくらい強くなれているかを確かめたかったからだ。


 結果……残念ながら蒼い魔物は復活していなかったが、俺はマトゥヴァルドの在来の魔物は簡単に倒せるくらい強くなっているのを確認できた。

 まあ、これならロテン相手でも通用するくらいにはなっているだろう。

 それにマトゥヴァルドに関して言えば、俺としては残念だが、不審死の要因を完全に根絶できたのは街にとっては朗報なんじゃないかと思う。


 そうこうしていると――再度素材換金所に寄った時、俺はギルド本館の方へ呼び出され、「ロテンの怪我がほとんど治り、明日の決闘の実行を希望している」との話を耳にした。


 いよいよ……明日か。

 ちょうど準備はできるだけのことをやったので、タイミングとしては悪くない。


「じゃ、明日はボコボコにやっちゃってくださいね! アイツなら何してもいいんで!」


 ノエリナは既に俺の勝利を確信してる様子だ。

 これは明日――何が何でも勝たなくちゃな。

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