第10話 決闘の約束とネヴィン強化作戦
「げ……」
気まずいなと思っていると、あろうことかその四人組は隣の席に来てしまった。
「よう、ぬいぐるみ運びのおっs――」
性懲りもなく、某パーティーのリーダー・ゴメン……じゃなくてロテンは俺を貶そうとする。
が――向かいの席に誰が座っているかを目にするや、彼は言葉を止めた。
そして、
「おいおっさん、何でお前ごときがノエリナちゃんと一緒にいやがる」
続けて放った言葉には……いつもの上から嘲笑う感じではなく、明確な怒気がこもっていた。
たったそれだけのことでここまでいつもの余裕を失うとは、何とも珍しいものだな。
店内だと無理やり通せんぼとかもできないだろうし、このまま無視して店外に出るのが最適解か。
「『お前ごとき』って何よ⁉ このお方は私の命の恩人なのよ?」
と思ったが……俺が退席の準備をするより先に、ノエリナが怒ってロテンに言い返した。
気持ちはありがたいけど、何もわざわざ面倒ごとに発展させなくても。
あっでも、ノエリナからすればロテンから嫌われるよう仕向ける好機でもあるのだろうか。
そういうことなら俺なんかじゃんじゃん利用しちゃってください。
というわけで、俺はこの口論を一旦静観することにした。
「はあ⁉ こいつが命の恩人? 笑わせんな、兎すら逃しちまうおっさんにどうやったら人命救助ができんだよ!」
「あなたたちだって兎に負けたそうじゃない。ちなみにネヴィンさんは、その『蒼い兎』を瞬殺したわよ」
「黙れ、あれは河童の川流れってやつで……ッ! てか、コイツにあの兎を倒せるはずがあるか! どうせ別の奴を勘違いしてんだろ!」
ロテンもどんどん言い返してきて、口論は徐々に激しさを増してゆく。
河童の川流れって、それあんま自分で自分に使う諺じゃないぞ。
とはいえ流石のロテンも、だんだん店内の視線が自分に集まってきていることを察してか……一旦深呼吸し、自分を落ち着けた。
が、かと思うと、
「まあいい。ノエリナちゃん……とりあえず、そんな男と一緒にいないで、俺と一緒に別の店で飲もうぜ。そしたら今日の無礼は許してやる」
ロテンの奴、よりにもよってノエリナをナンパし始めやがった。
ガチ喧嘩中ですらそれか。
本当に救いようがない奴だな。
「ふざけないでよっ!」
案の定、そんな誘いにノエリナが乗るわけもなく……ノエリナは思いっきりロテンの包帯がグルグル巻きになっているところを蹴り上げた。
「ぎゃうっ⁉」
あまりの痛みに情けない悲鳴をあげるロテン。
しばらくロテンは、そのままうずくまってただピクピクし続けた。
「こ、ここまで酷いことしなくても……」
「何よ、何か文句でもあるの? 当然の報いだと思うけど?」
「あ、えと……」
激しく悶絶するロテンの様子をみて、パーティーメンバーのモルディが応戦しようとしたが、モルディはノエリナの圧で一瞬でシュンとなってしまった。
コイツはあまり気が強くないタイプみたいだな。
などと考えていると……ようやくロテンが痛みをこらえて立ち上がった。
かと思うと、今度は怒りの矛先を俺に戻してきた。
「おいおっさん。元はと言えば全部てめえが悪いんだ。決闘を申し込む!」
「……は?」
どう来るかと思えば……まさかの暴力で解決する方向性を提案され、俺は呆気にとられてしまった。
「てめえ、本当に俺より強えってんなら……実力でそれを証明しやがれ!」
いやいや、なんでそうなる。
確かに冒険者同士でどうしても折り合いがつかない時の最終手段として、ギルド職員の立ち合いのもと決闘をするという制度自体は存在するが、こんなしょうもないところでその手段に出る奴はいないだろ。
流石に辞退一択だな。
と思ったが、ロテンの次の一言で、俺はその考えを改めざるを得なくなった。
「もし本当にてめえが勝てたら、もう二度とノエリナに手を出さねえって誓ってやんよ!」
うーん、そう言われると……ノエリナのためにも勝ってあげないとって思ってしまうな。
ノエリナだって、コイツと無縁で平穏に暮らせるなら、それ以上に望むこともないだろうし。
ただ問題が一つあって……俺の強さって対蒼い魔物限定だから、おそらくコイツとタイマン張ると負けてしまうんだよな。
どうしたものか。
一瞬、俺はそのジレンマに頭を悩ませた。
しかしそこで――俺はふと、一つの勝ち筋を見出した。
それは……蒼い魔物を倒した時の力の流入だ。
決闘当日まで蒼い魔物を倒しまくって、たくさんの力を得れば、コイツに勝てるほど強くなれるチャンスもあるのでは?
この怪我の状態じゃ今日戦うってことはできないだろうし……完治までの猶予があれば、それまでにしっかり力を蓄えることも十分可能なはずだ。
懸念があるとすれば、そうそう都合よく蒼い魔物が見つかるかってところだが……その問題に関しても、既に解決の糸口は見つかっている。
「ノエリナ、一つ頼んでもいいか?」
「な、何でしょう?」
「もしノエリナさえ良ければ、『蒼い魔物』の索敵に協力してほしいんだが……」
そう、解決の糸口とはもちろん、ノエリナの能力による広範囲索敵だ。
もともと魅力的な能力だとは思いつつも、こんな冴えない中年男性に帯同してくれとは言えないなと思っていたが……こうも利害が一致するなら、話は別だろう。
というわけで、俺はそんな風に提案するだけしてみることにした。
すると……ノエリナはすぐに意図を察したようで、即答でこう返事してくれた。
「もちろんです! ネヴィンさんの勝利のためなら、私、何でもします!」
よほどロテンとの絶縁がたっての望みなのだろう。
そう口にするノエリナの目は、期待で輝いていた。
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