第5話 上級冒険者と「蒼い兎」
「やーい、雑魚のおっさん!」
四人組の先頭の男は俺に気づくなり……いつもの調子で意地汚い笑みを浮かべながら俺に罵声を浴びせてきた。
この四人組は、「オミクロン」という名のBランク冒険者パーティー。
メンバーは全員二十代前半、若手ながらスピード昇格でBランクまで上がった新進気鋭の冒険者として注目を浴びているが……性格面は、お察しの通りのクズ集団だ。
こいつらは基本自分より年上なのにランクが下の冒険者を馬鹿にしていて、しかもそれを露骨に態度に出してくる。
特に四十代にもなって未だEランクの俺に対しては、これでもかというくらい悪辣な態度を取ってきた。
周囲より少し優秀な者なら、この手の若気の至りは割とありがちなものではあるだろうが……にしてもこいつらのソレは、あまりにも度が過ぎている。
今は実力を証明し続けている分、表立って彼らのことを悪く言うものはほぼいないが……俺以外にも、彼らとなるべく関わりたくないと思う中高年冒険者は数多くいるようだ。
「おい、シカトすんなよ『兎逃し』」
俺は聞こえなかったフリをして通り過ぎようとしたが……彼らはわざわざ俺の行く手を阻むためだけに横一列に広がる。
そして元々先頭にいた男……パーティーのリーダー・ロテンが、再度俺を罵ってきた。
「はいはい、こんにちは」
こういうのは、相手にしないのが一番だ。
俺が怒りでもしたら、それこそ奴らの思うつぼだからな。
というわけで、俺はただ単に挨拶を返すだけに留めた。
まあこいつらの場合、スルーしたからと言って見逃してくれるかと言えばそんなこともないのだが。
「見てたぜ、お前がなんか狼の死体みてえなのを運んでるとこ」
「お前が狼なんて倒せるわけねえよなあ、兎にすらまともに勝てねえのに」
「どうせなんかあれだろ、せめて自分が大物を狩ったフリでもしたくて、狼のぬいぐるみを作って担いでたとかだろ?」
「何よそれ、ちょっと惨めすぎないかしら?」
ロテンに続き、パーティーメンバーのモルディ、イニュマ、テイーサも、思い思いに好き勝手言い出した。
あの死体担いでるとこ、途中で見られてたのか。
俺が倒したと信じないのはまあいいとして……いくら何でもその解釈は酷すぎないか。
確かに俺は雑魚かもしれないが、それでも決して虚栄心で意味もない行動をするような人間ではないぞ。
流石にムッとしてだいぶ言い返したくなったが、それでも俺はグッとこらえた。
「どうでもいいから、早く通してくれ」
「ハハハ、良いぜ! 今夜もぬいぐるみ作り頑張らねえといけねえもんなあ!」
「明日は何運ぶんだ? 熊か? 鬼か?」
「面白いショーを楽しみにしてるわよ〜」
道の邪魔をやめるようお願いすると、彼らは更に畳み掛けてきたが、無反応を貫く俺に飽きてきたのか、ようやく彼らは道を開けてくれた。
「じゃあなおっさん!」
「「「バイバーイ」」」
「……」
やれやれ、せっかくいい気分だったのにとんでもない嵐に遭ってしまったものだ。
十一万五千ステラをオルコスに預けるつもりだったが、積み立て額を五千ステラ減らして、気分を治すために酒でも買って帰るとするか。
◇◇◇[side:オミクロン]◇◇◇
次の日の朝。
ロテンたち一行はこの日、少し大がかりな魔物討伐を計画しており……やっと日が昇ったかというくらいの時間にはギルド前に集合し、そのまますぐ街を出発していた。
今日の彼らの行き先はマホラン山という、街から半日弱歩く距離にある山。
その山には、ギガントオーガという強力な山の主がいるという噂があった。
「今から凱旋が楽しみだぜ。なあ、ロテン?」
「ったりめえよ。なんてったって、俺たちは今日
彼らが気にしている「記録」とは……ギガントオーガの最年少討伐記録のこと。
年齢の割に優秀であることを誇りに思っている彼らは、現在26歳が最年少となっているその記録を二十代前半のうちに更新することに、強いこだわりを持っていた。
和気藹々と話しながら、意気揚々と歩みを進める「オミクロン」のメンバーたち。
山奥の大ボスを目指す彼らにとって、道中の魔物など片手間に切り捨てるだけの存在に過ぎないため……彼らはこうして、さもピクニックかのようなテンションで歩き続けているのだ。
そんな彼らの前に……数分後、一匹の魔物が姿を現した。
「おい見ろよ、兎だぜ!」
「あのおっさんが追いかけ回すのにちょうど良さそうだな」
「それな!」
彼らの目の前に出現したのは、小ぶりサイズの兎型の魔物。
初心者冒険者でも倒せそうなその見た目に、彼らは全く警戒しないどころか、その場にいないネヴィンを馬鹿にしだす始末だった。
だが――彼らには一つ、大誤算があった。
「にしても、綺麗な見た目の兎だな」
「そうね。あんなに蒼く光る兎なんて見たことないわ」
「突然変異か何かかな?」
「ま、だとしても、俺たちの敵じゃねーけどな!」
そう。その兎は……ネヴィンが先日倒した狼と同じく、蒼いオーラを放っていたのだ。
だがその異変に気づいても尚、彼らは「だとしても兎は兎だ」とばかりに高を括っていた。
「じゃ、サクッとヤっちまいますわ」
リーダーのロテンはそう言って剣を構える。
が――次の瞬間、ロテンは地獄を見ることとなった。
「がはっ……!」
突如全員の前から兎が姿を消したかと思うと、次の瞬間には兎がロテンの土手っ腹に体当たりしていたのだ。
運動エネルギーは、スピードの二乗に比例して大きくなる。
体重こそ軽い兎だったが……そのタックルのスピードはあまりにも凄まじく、強烈な衝撃を受けたロテンは、呻き声をあげながら十メートルほど吹き飛ばされてしまった。
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