第4話 「蒼い獣」は高く売れた

 それから十五分ほど経った頃。


「ネヴィンさーん! お待たせいたしました!」


 リヒネさんに呼ばれる声がしたので、俺は再びカウンターに向かった。

 行ってみると……リヒネさんは、先程にも増して目を爛々と輝かせていた。


「す、凄いですよネヴィンさん!」


「どうしたんだ?」


「先程の狼ですが……相場の4倍弱のお値段での買い取りが決まりました! 十四万ステラお支払いいたします!」


「……へぁ⁉」


 興奮気味な様子に、何かあったのかと思っていたら……あり得ない報酬を提示され、今度は俺が裏返った変な声を出してしまった。


 な、なんじゃそりゃ。

 普段魔物討伐をほとんどやらないので、ふわっとしか耳にしたことはないはないが……狼の買い取り価格って普通、三万七千ステラほどのはずだぞ。

 サイズや状態で1.2〜1.3倍程度上乗せされるならまだない話ではないが、ここまでの振れ幅は流石に聞いたことがない。


「そんなに貰っちゃっていいのか……。でもまたなんで?」


「一言で言えば、前代未聞なレベルで上質だからですね。鑑定担当によれば、肉も牙も毛皮もどれをとっても超一級品だそうです。特に毛皮については、上級貴族向け商品を展開する商会がこぞって買いたがるだろうとのことで、それが一番金額が跳ね上がる要因となりました」


 理由を聞くと、リヒネさんはそう説明してくれた。


 毛皮……か。

 言われてみれば、かなり毛艶の良い狼ではあった気がする。

 それに戦闘中はそれどころじゃなかったけど、思い返して見ればあの狼の蒼いオーラは見入るほど美しかった記憶があるし。

 まあオーラに関しては、死ぬと同時に消えてしまったけどな。


 ともあれ、結果オーライだ。

 まさかたった一匹の魔物で、ギルドや教会などの職員の初任給にも匹敵する額が稼げてしまうとはな。

 俺の生活水準からすれば、四ヶ月分の生活費くらいにもなる。

 ありがたい話だ。


「こちらになります!」


 そう言ってリヒネさんがトレーに置いた数枚の金貨を、俺は若干手が震えながら財布にしまった。


「またのお越し、お待ちしておりますよ!」


「いや、多分ご期待には沿えないぞ……」


 帰り際、意味ありげにニヤリと笑みを浮かべて手を振るリヒネさん。

 それに対し……俺は畏まりながらそう返して、素材換金所を後にした。


 ◇


 素材換金所を出た俺が次に向かうことにしたのは……オルコスの取引所だ。


 こんな大金を現金のまま持ってたら、俺みたいなダメ人間は金が尽きるまで堕落しきった生活を送るに決まってるからな。

 さっさと運用に回して、「手をつけてはいけない金」という認識にして、存在を忘れ去るに限るのだ。


 一か月分の生活費に相当する三万五千ステラ程度は手元に残してもいいだろうが、残りの十一万五千ステラは今すぐに預けてバイバイしてしまおう。

 一度は諦めかけた資産運用でのリタイアを、今度こそ本気で目指すのだ。


 にしても……今までの人生で手にしたことのある最高のオルコス評価額に、たった一日でトリプルスコアを付ける日が来たなんて、なんか未だに現実感が無いな。

 なんてことを考えていると、俺は自然と顔が緩んでしまった。



 が……少し歩いていると、俺はその緩んだ表情が引き締まらざるを得ない事態に直面することとなってしまった。


「げ……」


 向かい側からやってきたのは――視界に入っただけで気が滅入るほど苦手な、よく見知った四人組だった。

 思わず俺は建物の影に隠れてやり過ごそうとしたが、生憎近くに死角に入れるような場所は無い。


 そうこうしていると、四人組の先頭を歩く男と目が合ってしまい……俺は彼らと関わらないという選択肢を失ってしまった。

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