終章

最終話:ケリー(出望桐夫)とイリス(天照大神)

 ・・・

 俺たちがこの世界に転生してから大体千年が過ぎた。

 イリスが前に言っていたように、俺も時の流れが「神」と同じになるそうなので、俺たちの姿はあまり変わっていない。

 大陸の方は、今の所特に大きな争いごとはなく平穏だ。

 ただ、一時期少数派に転じた人族がその繁殖力で他種族と同じくらいの比率に戻してきていた。

 あと、イリスから聞いた話だと、俺達と同じような異種族間の婚姻が増えているそうだ。

 まだ数が少ないので、いろいろ差別を受けているようだが、そこはまあ仕方がない事だと思っている。そのうちそう言ったことは少なくなるだろう。


 俺たちが住んでいる島は、住み始めた頃からあまり変わっていない。

 ただ、教会の手によって研究、魔物化されるためにここに連れてこられた各地の野生動物たちは、世代を重ねることによってこの島の環境に適応していった。

 俺達も食糧確保と間引きの為に彼ら野生動物を狩っている。

 これ狩猟はこの島に定住した時からやっていることなのだが、最近ではイリスが「狩るのも手間だから、いっそ家畜化する?」と言っていたが、それはそれで別の手間がかかるので一旦保留にしてもらった。

 なぜイリスがそのような事を言ってきたのかというと、食い扶持が増えたからだ。

 一人や二人ぐらい増えた程度だったら、今のままで十分だったんだが、少しばかり大所帯になってしまったのだ。

 では、具体的にどのくらい増えたかというと...。

 ----------

「御爺様、私達欲しいものがあるんですけど。」

「御爺様」と呼んだ老人におねだりをしているのが、俺とイリスの最初の子供で三つ子の長女の「タキリ」。

「おお、タキリ達か。何が欲しいのじゃ?言ってみなさい。」

「えっとね~。」

「私達『だけ』の島が欲しいのですわ。」

「御爺様」と呼ばれた老人がこの三つ子に尋ねたところ、返事をしたのが次女の「タギツ」と末っ子の「イチキ」。

「何じゃ、そんな事か。じゃあすぐにでも創ってやろうかの。どのあたりがいいんじゃ?」

 娘たちの無茶な要求を簡単に引き受けたこの老人は、実はこの世界の「創造神」だったりする。

 何故俺たちの家に創造神がいるのかというと、俺たち(正確にはイリス天照大神)に会いに来ているうちに、にか居ついてしまったのだ。

 そうすると、一緒に会いに来ていた他の大神たちはどうしたかというと...。


「師匠~。もっと手加減してくださいよぉ~。」

 と、地面に大の字に寝て音を上げているのは長男の「スサノオ」。

 その姿を見下ろしているのは、彼を一端の「神」に鍛え上げようとしている「大神戦女神」。

「何を言っているのだ。お前の母親から『このウスラトンカチはすぐサボろうとするから徹底的にしごいてやってくれ』と頼まれているからな。」

「それに、手加減はしているぞ?これでもいつもの100兆分の1の力で相手しているのだからな。」

「・・・聞きたくなかった~。」

 師匠戦女神の発言に、スサノオは寝そべったまま号泣していた。

 こんな感じで、他の大神たちもうちに居座っている。

 そんな訳だから、この島とその周辺は濃密な神力に満たされているため、地上の知的生命体は勿論上位神ですら容易には近づけない場所になっている。

 因みに、天界で定期的に行われていた大神たちの会議(という名の集まり)は、いつの間にかここで行われるようになり、皆がここに住むようになってからは会議自体が無くなった。

 天界からの通信は出来るようなので、呼ばれたときはイリス同様が天界に戻るため、こちらの世界の身体は人形状態となる。

 この隙を狙ったスサノオが人形状態の師匠に攻撃してきたが、すぐに本体が戻ってきたため、返り討ちに合っていた。

 どうやら天界とこの世界では時間経過が異なることを知らなかったようだ。確かイリスが前に教えていた気がするが、適当に聞いていたんだろうな。


 そういう状況なので、今この家にいる住人は俺達夫婦+子供たち4人に加えて、会議に参加していた大神たち10人の総勢16人となっているのだ。

 当然、今まで住んでいた住居では狭すぎるため、長男スサノオ誕生後に第一次増築、大神たちが居座った時に第二次増築を行った。今では、ちょっとしたお屋敷ぐらいの大きさだ。

 いつも通り増築はイリスが行った。俺も手伝うと言ったら「慣れている者がやった方が時間がかからない」と断られてしまった。実際増築にかかったのは1時間ぐらいだった。

 食事の方も、子供たちは食べ盛り、さらに大神たちの分も含めると今の食料供給量では全く足りないため、狩猟をしたり農地を増やしたりしている。

 大神や子供たちも手伝ってくれているので、そこまで大変ではない。

 尤も、最初から手伝ってくれていた訳ではなくイリスが「働かざるもの食うべからず」と皆の前で宣言したため、こうなっているのだが。

 そんな感じで、今も「この島周辺」は以前と変わらず穏やかに時が進んでいる。


 前世(出望桐夫)の時は、主に人間関係でいろいろな事があって精神が摩耗し、最後は生きる屍のような状態だったが、この世界に転生した後はいつも支えてくれるイリスが傍にいてくれたおかげで充実した生活を送っていられる。

 彼女には本当に感謝しかない。そのためにも、俺はこれからも夫として、また父親として皆に愛されるように努力していくつもりだ。

「・・・旦那様、ここに居たのね。」

 俺がそんな事を思っていると、部屋のドアが開き大きなお腹を抱えたイリスが入ってきた。

 イリスは、今でも子供たちがいないときは今まで通り「旦那様」と呼んでいる。(子供たちの前では「お父さん」と呼ぶ)

「イリス、安静にしていなくて大丈夫なの?」

「今は安定期に入ったから平気よ。むしろ積極的に動いたほうがいいみたいなの。」

「そうか。」

 俺の問いに、イリスは微笑みながらそう答えた。

「どうしたの、また何か考え事?」

 俺の隣に来たイリスが、そう聞いてきた。

「いや、ここも人が増えたな~、と思っていたんだよ。」

 俺がそう答えると、イリスは「あ~。」と少し呆れた顔をした。

「そうよね~、まさかあの連中大神たちが居座るとは思っていなかったからね~。」

 呆れた顔をしているが、何かうれしそうな表情をしているイリス。

「まあ、二人っきりの時もよかったけど、大勢で暮らすのも悪くないかな。」

「そうね。」

「それに、もうすぐ家族が増えるしね♡」

 そう言って、イリスは自分のお腹を愛おしそうにさすった。

「旦那様は、【男の子】と【女の子】、どっちがいい?」

 そんな事をイリスが聞いてきたので、俺は少し考えて、

「どっちでもいいよ。元気に生まれてきてくれれば、それが一番だよ。」

「・・・そうね。」

 そう言って、俺はイリスのお腹を撫でた。


「天照様。」

「・・・どうしたの、改まって。」

「天照様にこの世界に転生してもらい、このような充実した人生を送ってこられたことに大変感謝しています。」

「夫として、また父親としてもまだまだ未熟者ですが、これからもよろしくお願いします。」

 俺はイリスの目を見てそう話し、頭を下げた。

「・・・・・・・・」

 イリス天照大神は、暫く黙っていたが、

「こちらこそ、今までの神生のなかで一番幸せな生活を送ってこられました。私のほうこそ感謝しています。」

「妻として、また母親として私も未熟者なので、一緒に頑張っていきましょうね。」

さん♡」


 ----------


 俺と女神様の異世界夫婦生活


 - 完 -


 ----------

 補足説明:

 世界に一人(一柱)しかいない大神が10神だけというのは少なすぎると思われるでしょうが、あくまでも「一部」で他に無数の大神(世界)が居ます。

 ・・・まあ、という事にしておいてください。(適当)


 お知らせ:

 本編は今回で最後ですが、この後いつもの閑話とおまけの閑話が2話(亜人側と人族側)続きます。

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