第27話:静と動

「・・・平和だね~。」

「・・・平和よね~。」

 この島に新居を構えて一週間、俺達は新しく取り付けたベランダのソファーに腰かけて、外の様子を眺めていた。

 俺たちが今言ったように、現在この場所はすこぶる平和だ。

 この島全体にはイリスが強力な結界を張っているため、何人も侵入してこれないし、この島にいる野生動物たちは先日のイリスが発した「圧」に屈して近づこうとしない。

 家の周りには、自分たちが食べていける分の家庭菜園を作った。水場が近くにあるので、水には困らない。

 新居を建てる時に気が付いたのだが、この場所は丁度島の中央に位置しており、何とかという研究所の周りは森に覆われている。

 外へ通じる道を失くしたことにより、この場所は外からは完全に見えなくなっていた。俺達だけの生活だったら、この方がいいと思う。特に外へ出かける用事もないからな。

 イリスと外を眺めながら、俺は今までの出来事を再び思い返していた。

 前世で交通事故に遭って死んでしまった後、初めて横にいるイリスこと天照様と出会った。

 天照様の提案でこの世界に転生して、18年間は今俺の中で眠っている「キーリオ・ディーモー」君として生活していたらしい(イリス談)。

 その後、天照様がこの世界に「イリス・ソルティオス」として転生してきて、彼女によって覚醒した俺は天界での約束通り夫婦になった。

 この島に来るまでに、エルフたちを助けたり、ハーフリング達を守ったり、イリスと同じ「神」に会ったり、王女の護衛をしたりした。

 まあ、この事は全てイリスがやったことで、俺は横にいただけなんだけどな。

 そんな事を思い出していると、視線を感じたのでそちらを見ると、イリスが俺の顔をじっと見ていた。

「どうしたの旦那様?」

「ああ、イリスと出会ってから今までの事を思い出していたんだよ。」

「ふぅ~ん。」

 イリスの問いにそう答えると、彼女は微笑みながらそう言って、しな垂れかかってきた。

「・・・やっと、ね。」

「・・・うん、やっと、だね。」

 俺たちがこの世界に来た目的。それは誰にも邪魔されることなく二人でつつましく暮らしていくことだ。

 それが今ようやく叶ったんだ。後はこの生活を維持していくことに力を注いでいこうと思う。

 こちらとしては、争いごとは出来れば避けたい。だが、相手教会がちょっかいを出してくるのであれば、こちらも今の生活を守るために抵抗する。降りかかる火の粉は払わなければならないのだ。これはイリスも同じ考え、いや、俺よりその気持ちは強いかもしれない。

 なので、相手が「余計なちょっかい」をしないことを願っている。

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 ケリーとイリス夫妻が安住の地を手に入れていたころ、ハーフリング族のホビィとペディ兄妹は、避難先の地に近い他種族の元を廻っていた。

「・・・ふぅ、何とか纏まったな。」

「そうだね。毎度のことだけど、やっぱり今までやってきていないことをやるって大変だね。」

「まあ、話せばわかってくれたし、少しずつではあるけれど『目的』に向かって進んでいるな。」

「ケリーさんには感謝しないとね。」

「そうだな。あの頃はそんなこと考えもしなかったからな。」

 彼らは、ケリーが何気なく発した言葉に従って、「人族以外」の他種族と交渉をしていた。

 最初は相手も困惑していたりいぶかしんでいたが、ホビィの説得により耳を傾けるようになり、最終的には協力することで合意していた。

(しかし、こんなにうまく行くとは思ってもいなかったな。確かにケリーが言っていたようにそれぞれの種族には「得手」「不得手」があるから、そこをみんなで補いながら共闘するというのは理にかなっている。)

 彼ら【ハーフリング】族は戦闘は不得手だが、情報収集能力は秀でている。今しがた協力を取り付けた【巨人】族はその真逆の特性を持っている。

(あとは、「共通の敵」がいるというのも大きいな。)

 彼らは人族(というよりキトナムフロボン国の人間)から迫害されており、多かれ少なかれ嫌悪感を抱いている。

 特に人的被害を受けている種族は、敵対心が強いのだ。

「さあ、次に行くぞ。あまり時間が無いからな。」

「なんで?」

人族の国キトナムフロボン国に潜入している諜報員から、『神託が降りたらしく、近いうちに大規模な亜人殲滅作戦を開始するらしい』との情報が入ったからな。」

「嘘でしょ?!...と思ったけど、アイツらならやりそうね。」

 ホビィの情報にペディは驚いたが、すぐに納得した。

「その討伐作戦に例の『勇者一行』が加わるようなんだが、どうやら別任務をしているようでそちらが手間取っているらしいから、準備も含めて早くても30日ぐらいはかかるみたいだな。」

「そっか。としても、そんなに時間はないね。」

「ああ。ただ、これから交渉に行くエルフとドワーフが加われば、それなりに抵抗は出来ると思う。」

「そうだね。ドワーフは兎も角、エルフはイリスさんが居たからすんなりいくんじゃない?」

「・・・だといいがな。」

「?」

 ホビィは、ペディが言った自分たちの窮地を救ってくれたハイエルフの「イリス」の事を思い出していた。

(・・・多分あの人は「ハイエルフ」じゃない。外見は確かに「ハイエルフ」だが、能力が他のハイエルフとは圧倒的に違う。多分何らかの理由で「擬態」でもしているんじゃないだろうか。)

(何者かは分からないが、とりあえず俺たちの「敵」ではないことは明らかだ。ただ、ケリーもそうだが「我関せず」の考えがあるみたいだから、積極的に味方に付いてくれることは無いだろう。)

(だから、ペディが言うように「イリスさんがいるからエルフとの交渉がすんなりいく」とは思えないが、エルフも人間から執拗しつように迫害されているから、その点からすれば共闘は難しくないかもしれないな。)

 ホビィはそう考えながら、ペディと共に一路エルフの住む森に向かっていた。

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