第25話:離れ小島と先住者

 イリスが用意してくれた昔の遣唐使が乗るような豪華でデカい船に乗って3日、俺達はようやく目的の小島に着いた。

 早速小島に接岸しようとしたら、イリスから「念のため島の様子を確認しておいた方がいい」と言われたので、ひとまずは島が見える程度に離れた場所に停泊して、俺とイリスが上空に意識を飛ばして確認をした。

「こうやって見てみると、思ったより大きい島だね。」

「そうね。森や川があって、山もあるけど平地は少ないかしら。」

 俺とイリスは俯瞰しながら島の様子を眺めていた。

「で、当然というか生き物がいるのが確認できるね。この位置から見えるという事はそこそこ大型の動物がいるってことだよね。」

「まあ、この自然の状態なら当然かもね。私達はあの子たちの場所に『お邪魔』するわけだから、出来ればに共存していきたいけどね。」

 そう言いながら、イリスは笑った。

 実は、「野生動物」が襲ってきてもイリスは魔物や人間達と違い殺害しなかったのだ。

「あの子たちの縄張りに勝手に入ってきたのは私達だから、余り過激な事はしたくないのよ。」

 と、そんな事を微笑みながら言っていた。

 ただ、(多分俺に)殺意を向けた動物に対しては躊躇せずに爆散させていたが。

 確認が終わったところで、一先ず今日はこの場所で一泊して、上陸するのは明日にすることにした。


 その夜、俺はふと目が覚めるとなんとなく甲板に出てみた。

 この世界は月がないため、夜は星明りだけでほぼ真っ暗に近い。

 その為、夜でも明かりが使える大陸(のキトナムフロボン国)の方角から光が漏れているのがはっきりとわかる。

 それを眺めながら、今日までの事を思い返していた。

 前世で交通事故に遭い、天照様の力でこの世界に転生。キーリオ君の身体(天照様曰く『元々旦那様のために用意した身体』との事)で同じく転生してきた天照様イリスと共にキトナムフロボン国を脱出。

 途中、壊滅したエルフの集落を救ったり、ハーフリング族を敵の襲撃から守ったり、下位神を不法出国させたり、御姫様たちを護衛したりといろいろあった。

 助けたりしたものたちが今どのような事になっているのか、気にはなるがどうすることも出来ない。というかしてはいけないと思う。

 俺達(正確には「天照様が」だが)が「積極的に」関与すれば問題は解決するだろうし、実際解決したものもある。

 だが、それではいけないと俺は考えている。

「当事者の抱える問題は、当事者が解決しないと根本的な『解決』にはならない。」

 俺は前世で余計なお節介(と今では思っている)をしたために、散々な目に遭った。

 目の前の問題は解決したが、根本的な解決にはなっていないからまた別の問題が起こる。

 そして、が問題を解決してくれたことを知った奴らは「またコイツに頼めば解決してくれるだろう」と依存してくる。

 すると、問題が起こっても自分で解決しようとは考えなくなり、他者が解決してくれることがと思うようになる。

 なので、例えいかなる理由で窮地に陥っている者がいても、自分でなんとかしようとせずすぐ他人に頼ろうとした時は、心を鬼にして拒絶する。

「・・・どうしたの旦那様。眠れないの?」

 そんな事を考えていたら、後ろからイリスが声をかけてきた。

「いや、ちょっと目が覚めたんで夜風に当たっていたんだ。」

「じゃあ、私もそうしようかな。」

 そう言って、イリスは俺の隣に並んだ。

「・・・ようやくここまで来たね。」

「そうだね。いろいろあったけどやっとだ。」

 俺達は、暗闇の中に光が漏れ出している大陸を眺めながらそんな他愛もない話をしていた。時折潮風が頬を撫でていくのが心地よい。

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「そろそろ中に入りましょう。明日はいよいよ上陸だからね。」

「そうだね。」

 イリスの言葉に頷きながら、ふと島の様子を見ると。


「・・・光が漏れている。」


 俺の言葉に、イリスが反応して島の方を凝視した。

「・・・本当ね。ちょうど島の真ん中あたりかしら?」

 どうやら、いつの間にか俯瞰して見ていたようだ。流石はイリス天照様

「ねえ、この世界に『光を発する動物』っている?前世の蛍とか。」

「・・・いるかもしれないけど、あんな光量を発する『野生動物』は居ないはずよ?」

 俺が疑問に思ったことをイリスが即答してくれた。

「それに、あれは『自然光』じゃなくて多分『人工の光』。」

「・・・つまり、『そういう事』か。」

「そう、『そういう事』。」

 ・・・やれやれ、面倒な事になったな。

 それにしても、結果的に今日上陸しなくて正解だったな。

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 明くる日、俺達は船を【隠匿魔法】で隠しながら島に近付いていた。

 改めて島を確認してみると、周囲は断崖絶壁で、一見すると接岸する場所がないように見えるのだが、一か所だけ「明らかに人の手が加わった」場所があり、そこから「だけ」接岸できるようになっていた。

「さて、多分『あの国』の人間だろうけど、果たしてどんな連中なのかな?」

 から少し離れた場所に停泊して、俺達は一先ず観察をしていた。

「旦那様、前に言ったこと覚えてる?『野生動物に【意図的】に魔力を加えた【魔物】』のこと。」

 ああ、最初の頃にそんな説明を聞いたな。イリス曰く「生物兵器」とされていること、だったかな。

「それと、『ハーフリング族』を襲った連中の事。」

 それも聞いたな。確か「どうも、『教会』の連中がワイヴァーン空飛ぶトカゲたちを連れて来たっぽい」だったな。

 ・・・なるほど、するとここは「連中」の「研究所」か「生産工房」ということか。

「どちらにしても、連中にはここから『出て行ってもらう』けどね。」

 と、冷めた表情でイリスがそう呟いた。

 どうやら、すんなりとこの島に居を構えることは出来なさそうだな。

 俺達は、ため息をついて島に上陸すべく近付いて行った。

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 主人公たちは知らなかったのですが、この大陸には外海へ続く「抜け道」というものが存在していて、地元の人間はそこを使って外海で漁をしたりしています。

 この世界では、エンジン付きの漁船(キトナムフロボン国限定)があるので、かなり遠方まで漁場があったりします。

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