第24話:大義名分と国境越え
「・・・父上。」
パテラスの言葉に、イオスは息をのんだ。
ピサーラは、ある程度予想していたようで、特に驚いた仕草もせず黙っている。
「・・・やはり、私達のメンバーでしょうか。」
暫くの沈黙の後、ピサーラが重い口を開いた。
「それもあるが、そちらは大したことではない。」
「それでは、何が...?」
堪らず、バジリがパテラスに尋ねた。
「バジリ、控えなさい。」
バジリの分不相応とも取れる行動に、ピサーラが窘め、それに気づいたバジリが「申し訳ありません。」と陳謝しピサーラの後ろに下がった。
「構わん。バジリがそう聞きたくなる気持ちも分からんでもない。」
当のパテラスはそう言って、不問とした。
「さてイオス、俺がそう言った理由は何だと思う?」
と、パテラスに振られたイオスは考えを巡らせた。
「・・・!そうか。」
暫く考えていたイオスは、何かに気付いたような声を出した。
「この事は、領地内の諍いではなく、国、ひいては教会とも事を構えることになる。」
「そのことを領民に納得させるためには、それ相応の理由が必要になる。」
イオスが自分の考えを口にしている間、パテラスは腕を組んで黙って聞いていた。
「この国は教会からの『神託』を絶対視している。たとえどんな内容でも『神託』となれば我々は従わなくてはならない。」
「王女殿下が言われていることは、『神託』に背くことになる。それを民に納得させるための材料が必要となる。」
「・・・つまり、『大義名分』が必要である、と。」
イオスの話を聞いていたピサーラが、口を開いた。
「そうだ。今のお前達にはその『大義名分』がない。あと、その後のビジョンが見えてこない。」
「もし事を構えることになれば、多くの血が流れる。そこまでしても成し遂げなければいけない理由と、事が成った時にどんな利益を受けられるのかが全く分からない。そんな不確定要素満載の状態で、我が領民を危険な目に遭わせるわけにはいかない。」
「「・・・・・・・・」」
「領主」としてのパテラスの言葉に、ピサーラとバジリは黙り込んでしまった。
「父上...。」
イオスが深刻な顔をしてパテラスを見た。
「イオス、お前も肝に銘じておけ。俺たちの双肩には領民の命が乗っていることを。俺たちの考え次第で領民がどのような事になるか、常に考えておくがいい。」
「はい...。」
パテラスの言葉に、イオスは改めて「当主」の責任を感じた。
「まあ、遠路はるばるここまで来たんだ。お前たち全員の滞在は許可しよう。」
さっきまでの重苦しい雰囲気とは変わって、明るい声でピサーラ達の滞在をあっさり許可した。
「ありがとうございます。」
ピサーラは、その言葉を聞いて頭を下げた。
(つまり、その間に「大義名分」を見つけろ、という事でしょうね...。)
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あの
ピサーラから報酬としてもらった【変化の首飾り】のおかげで、堂々と人がいる場所を通過できるのは非常にありがたい。
ふと横を見ると、イリスが何かそわそわした様子で並走している。顔も赤く、息遣いも若干荒い気がする。
あ~、今日はちょっとハードな展開になるかな~。俺も自制が効くといいけどな~。多分押し切られるだろうな~。
そんな事を思いながら、本日の行程を終了したら、予想通り大慌てで仮設住宅を建てたイリスにあっという間に連れ込まれた。
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そして2日後、俺達は再び国境に向けて南に移動していた。
何故2日後だったか?それはここに着いた翌日は身動きできなかったからだ。
以前にも同じような事があったけど、あの時より酷かった。本当に「全く」動けない状態になるとは思ってもいなかったからな。
いやぁ~、それにしても今回の
事後、
そんなこんなで、遂に俺達はこの大陸の南端までやってきた。
途中で相変わらず賊や魔物が襲ってきたが、今回は完全にスルーした。どうやら前日の行為を反省したイリスが「不殺」を決めていたようだ。
ここは、このキトナムフロボン国の国境ではあるが、目の前には
念のため、人目に付かない場所に仮設住宅を建てて、明日の行動について話し合った。
「ようやくここまで来たね。」
「そうね、いろいろ想定外の事があったけど、やっとね。」
俺達は、少しばかりウキウキしていた。漸く誰にも邪魔されない新婚生活を迎えられるからだ。
「それで、これからどうするの?目の前は険しい山が聳え立っているし、その向こうは海になっているみたいだけど。」
俺がイリスに今後の行動を尋ねると、彼女は「う~ん」と少し考えてから、こう答えた。
「とりあえず、明日山の頂上が『目視』出来るか確認しましょう。『目視』さえできればそこへ『瞬間移動』できるから、そこから目的地の小島が『目視』出来たら瞬間移動すればいいし、出来なければ私が『船』を作るわ。」
「もし頂上を『目視』出来なければ、とりあえず目視できる地点まで『瞬間移動』して、それから『山越え』することになるかな。」
「成程、分かった。今回もイリスに頼りきりになるけど、よろしく頼むよ。」
イリスの行動計画を聞いた俺がそう言うと、イリスは正に「女神の微笑み」を見せながら、
「いいよ、そんなこと。それに、旦那様に頼られるのは嬉しいから、これからも遠慮なく頼ってくれてもいいのよ?」
そう言ってくれた。
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次の日、俺達は早速国境越えを始めた。
「・・・う~ん、何とか見えるわね。」
目の前に聳え立つ山の頂を確認するイリス。どうやら山頂は見えるようだ。
「じゃあ、あそこまで移動しましょう。」
そう言ってイリスが俺に抱き着き、瞬間移動した。最近俺達「だけ」で瞬間移動するときは、大抵こんな風にイリスが抱き着いてくる。俺としたら嬉しいからいいけどね。
瞬間移動で山頂に着くと、大陸内部がよく見渡せる。本当に「カルデラ」みたいな地形になっているんだな。
「ほら旦那様、海の向こうを見て。何か『壁』みたいのが見えるでしょ?あれが多分『世界の果て』だと思うの。」
俺が大陸内部を眺めていると、イリスが俺を呼んで海の方を指さしていたので見てみると、確かに「壁」みたいなものが見える。あれがイリスが地上に降りてくるときに見た「世界の果て」か。
「さてと、目的の小島は...っと。」
そう言って、南の方を見つめていたイリスだが、暫くしてため息をついた。
「見えたことは見えたけど、瞬間移動は出来なさそうね。『島かな?』という程度だから、『はっきり』見えたとは言えないわね。」
なるほど。そうすると、目的の島はかなり距離があるという事か。
「仕方ないわね。それじゃあ下に降りて船で行きましょう。」
そう言うと、いつも通りイリスが抱き着いてきて、あっという間に海岸まで降りてきた。
この世界に来て初めての「海」だ。山が海岸線傍まで迫っているので、広い砂浜とかはなく、すぐそばに波打ち際がある。
「それじゃあ、すぐに船を用意するね。」
俺が海をぼーっと眺めていると、イリスがそう言って船を出してきた。
・・・何か、歴史の教科書で見たような船だな。確か「
にしても、デカくないかこの船?こんなデカい船に二人だけ乗るって言うのもなんだか不思議な感じだ。
そんな事を考えながら、俺達は船に乗り込んだ。
「さあ、念願の新婚生活に向けた大航海よ!」
イリスが思いっきり意気込んでそう叫ぶと、船は海岸を離れ一路沖合にある小島に向かって進んでいった。
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