第23話:公爵と王女
俺達は、南にあるシンビオス領に入った。
公爵領に入るまで、何度か賊や魔物の襲撃を受けたが、全てイリスが爆散、または「消滅」させた。
その様子を見ていた馬鹿があろうことか「素手で」魔物に挑みかかり、重傷を負っていたが知ったことではない。
色々文句を垂れていたが、
また、野営の時に俺達とピサーラ(と
そんなことがありながら、欠員を出すことなく無事目的地に到着した。
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「本当に、ここでお別れですか?」
「そう、依頼は達成したから、後はアンタ達でなんとかしなさい。」
ピサーラはまだ護衛を続けてほしそうだったが、イリスがきっぱり断った。
「・・・分かりました。ここまで護衛していただき、ありがとうございました。」
俺やイリスの態度から、これ以上の依頼は無理と感じたピサーラは、頭を下げてお礼を言った。
「それで、これからどちらに向かわれるのですか?」
そう聞かれたので、
「俺達はこれからさらに南に行って、この国を出る予定だ。」
と、これからの予定を話した。
「分かりました。これからの旅路に女神様の加護がありますように。」
そう言って、バジリと共に一礼すると、メンバーの元に戻って行った。
その後、連中は領都に向かって旅立っていった。
その様子を眺めながら、イリスが「ようやく肩の荷が下りた」と苦笑しながらつぶやいていた。
「それじゃあ、俺達も行こうか。」
「そうね、急いでいけば3日ぐらいで国境に着くんじゃないかしら。」
そう言いながら、俺達は再び南に向けて走り出した。
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「よろしかったのですか?」
先頭を歩くピサーラに向かって、バジリはそう問いかけた。
例え公爵家の領内で治安はいいとは言え乱暴狼藉を働く輩は少なからずいる。
少数であればバジリだけでも対処できるが、大勢で来られたらこのメンバー全員を守ることは難しい。
圧倒的な実力差を見せつけられたバジリにとっては、イリス達に引き続き護衛を任せておいて、自分は本来の任務であるピサーラの護衛「のみ」に集中できる。
そうなることを期待していたのだが、そんなに都合よく事が運ぶわけがなかった。
「仕方ありません。あの方たちにも目的があるのです。ここから領都までさほど距離はありませんので、どうにかなるでしょう。」
バジリの問いに、ピサーラは無表情で答えた。
(尤も、断った最大の理由は私達のメンバーにあるのでしょう。)
守られているのがまるで「当たり前」のように振舞い、何か自分たちが気に入らないことがあれば不平不満を口にし、無茶な要求も臆することなくする。
ピサーラからしても目に余る所業であった。
(しかし、あのような者達でも「頭数」として加えておかなければならないのです。私達だけでは相手にもされないでしょうから、今は致し方ないと考えましょう。)
領都に向かって歩くこと半日、バジリの危惧するようなことは幸いながら起こらず、何事もなく無事に領都に着いた。
ピサーラ達はその足で、領主であるシンビオス公爵が住む邸宅に向かった。
邸宅に着き、ピサーラとバジリは客室に案内された。
暫く待っていると、ドアがノックされ一人の若い男性が入ってきた。
「おお、これはピサーラ王女殿下。このような辺境の地にお越しいただき光栄です。」
そう挨拶をしたこの男性が、この領地の主の息子である「イオス=ピキリア=シンビオス次期公爵」である。
現在のこの領地は、実質彼が取り仕切っていると言っても過言ではない。
「こちらこそ突然押しかけて申し訳ありません。イオス殿とは以前王宮で催された晩餐会以来でしょうか。」
ピサーラとバジリは立ち上がり、そう言ってピサーラは
「はい、あの時はいろいろとお気遣いいただきありがとうございました。まもなく父も参りますので、どうぞお掛けになってください。」
「はい。」
その後、二人は世間話をしていると、いきなり扉が開き体格がいい初老の男性が入ってきた。
「おお、ピサーラ、久しぶりだな!元気にしておったか!!」
そう言うと、ズカズカとピサーラに近づいてバンバンと肩を叩いた。
「パ、パテラス叔父様、御無沙汰しております。」
ピサーラが「パテラス叔父様」と呼んだこの厳つい男性が、国王の兄であり現在は息子に政務の大半を任せ、半分隠居状態の「現」シンビオス公爵の「パテラス=メタリフィ=シンビオス」である。
「・・・父上、ピサーラ様が困惑されております。」
その様子を見てイオスは困った顔をして父親である
「わははは、いいではないか!なあ、ピサーラ?」
「は、はあ...。」
息子の苦言を気にすることなく笑い飛ばしたパテラスに、ピサーラは呆れた声を出した。
「パテラス閣下、御無沙汰しております。」
相変わらずピサーラの肩をバンバン叩くパテラスに向かって、ピサーラの後ろにいたバジリが挨拶をした。
すると、パテラスは肩を叩くのを一旦止め、バジリの方を見ながら笑った。
「おお、バジリか。相変わらずピサーラの御守りをしているのか。」
「い、いえ。私は任務でピサーラ様を護衛しているだけで、決して『御守り』などとは...。」
バジリは慌てたようにそう答える。
「ガハハハ、まあ、そういう事にしておいてやろう。」
豪快に笑うパテラスに、ピサーラもバジリもたじたじだった。
挨拶も済み、落ち着いたところで全員席に座って話し始めた(バジリは『親衛隊員』のためピサーラの後ろに立っている)。
「それで、このような辺境の地にどういったご用件でお越しになられたのでしょうか。まさか我々に会いに来た『だけ』とは申されないですよね?」
今までの温和な顔から、真面目な顔になったイオスがピサーラに向かってそう問いかけた。
「はい、その事で公爵様にご相談がありまして、実は...。」
そう言って、ピサーラはここに来た目的を話し始めた。
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「・・・なるほど。」
ピサーラの話を聞いたイオスは、困惑したような表情をした。
パテラスは、目を閉じて腕を組み、黙って聞いていた。
「それで、我々に何を求めていますか?」
イオスの問いに、ピサーラは少し躊躇しながら、こう告げた。
「我ら『反人族至上主義』の後ろ盾になっていただきたいのです。」
・・・しばしの沈黙が場を支配した。
「・・・父上、どう思われますか?」
先ほどから黙って目を閉じているパテラスに尋ねた。
「・・・・・・・・」
彼からの返事はない。依然として腕を組んで黙ったままだ。
「・・・私としては、『条件次第』で受けてもよいのでは、と考えておりますが。」
イオスが自分の考えを言うと、今まで黙っていたパテラスが口を開いた。
「やめた方がいい。」
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