第19話:真と偽
俺がイリスの力を借りて鑑定した結果だが、まずは例の横柄な態度の男から。
名前:バジリ=キ=フルーラ
状態:疲労(大)
キトナムフロボン国王族親衛隊。王族に対する忠誠は絶対で、特に第3王女に対する忠誠は他の親衛隊員とは比較にならない程に高い。
粗暴な口ぶりだが、情に厚く、恩義を受けた者には恩義で返す主義。
剣術、魔術共に高い技能を持っており、親衛隊の中では上位3人の中に入る。
現在は、第3王女の護衛のため、身分を偽って冒険者として活動している。冒険者ランクは最上級(Aランク)。
・・・ふ~ん、なるほど。この態度は「主」の対応からか。
忠誠心が高いために、主が訳の分からない男に頭を下げたのが不満だったのだろう。
まあ、その気持ちは分からなくもないな。
という事は、こっちの女性は...。
名前:ピサーラ=トリプ=リン=バーシリオ
状態:疲労(大)
キトナムフロボン国の第3王女。慈悲深い性格で、国民からの人気も高い。
「生きとし生けるものは平等であるべき」という考えを持っているため、「人族至上主義」の教義に反感を抱いている。
魔術の才があり、その実力は国内でも上位クラスに当たる。特に「治癒魔術」は聖女に匹敵するとも言われている。
現在は「
仲間たちの提案で身分を隠して冒険者登録をしている。冒険者ランクは初級(Eランク)。
・・・うん、やっぱりそうか。何となくこの人からは気品と言うか上層教育を受けてきたんだろうな~、という感じがしたからな。
にしても、
んで、最後はやたらと紳士的なリーダーらしき男だが...。
・・・・・・・・
やっぱりね。そんな感じはしてたんだよな~。
「あの、どうかされましたか?」
俺がそんな事を考えていると、その男が俺に声を掛けてきた。
「ああ、すみません。少し考え事をしていました。」
「そうですか。」
俺の返答に、男は抑揚のない声で返事をした。
「それで、先ほどのお願いなのですが、何とかできませんか?我々も疲労が限界に近づいていて、このままでは捕まってしまいます。」
その男はそう言って、再度頭を下げてきた。確かにそこの2人は疲労困憊のようなので、休ませてやりたいとは思うのだが、家に入れるとなると話は変わってくる。
「そうですね。確かに皆さんお疲れのご様子なので、その様にしたいのは山々なのですが、うちには妻がいますので彼女と相談してから決めたいと考えております。」
俺がそう言うと、3人は驚いた顔をした。てっきり俺一人が住んでいるのだろうと思っていたのだろう。
「なので、お疲れのところ申し訳ありませんが、もう少しお待ちいただいてもよろしいですか?」
そう言って俺は、扉を閉めた。親衛隊の男が何か言おうとしていたが無視した。
「・・・旦那様の『眼』から見ていたんだけど、中々面白い構成ね。」
イリスの元に戻ってきた俺に、彼女はそう言ってきた。
「そうだね。王女と親衛隊の男は意外だったけど、あの男は予想通りだったよ。」
俺は前世であの手の人間には仕事でもプライベートでも、いやというほど会ってきた。こちらではうまく騙せているようだが、経験値が高い俺の目は
イリスは俺の考えていることを察したのか、少し悲しそうな顔をしたがすぐ元に戻して今後の事を聞いてきた。
「それで、どうするの?幾ら事情があるとしても、あんな連中を家に入れるなんて嫌よ。」
イリスはあからさまに不快感を示したが、それに関しては俺も同じ気持ちだ。
「それは考えていないけど、流石にこのまま放っておくわけにはいかないかな。別に連中が追っ手に捕まろうが知ったことではないけど、目の前で
「それで、イリスにもう一つ仮設住宅を建ててほしいんだけど、出来るかな?場所は任せるよ。」
俺がそう言うと、イリスは「やれやれ」という表情をしたが、快く了承してくれた。
「じゃあ、あの連中に会わせるから俺が呼んだら来てくれる?あの二人の前だから『そんなこと』はしないと思うけど、念のため用心はしておいて。」
「分かったわ。いったいどんな反応をするのか楽しみね。」
俺の言葉に、イリスは意地悪そうな笑みを見せた。
「お待たせしました。」
俺は玄関の扉を開け、再度3人の前に立った。
「妻と相談しまして、矢張り見も知らずの方を家に入れるのは
そう言うと、3人はがっくりと
「ただ、流石にお疲れのようなので、この近くに『別の家』を建てますので、そちらでお休みください。」
「「い、家を建てる?」」
王女と親衛隊の男は、驚いたような声をあげた。まあ、普通に考えれば驚くわな。
「はい。実はこの家は妻が『今日』建てたものなんです。だから、皆さん安心してください。」
「それは有り難い。ぜひ奥様にお礼を言いたいのですが、お会いすることはできますか?」
リーダーらしき男がそう言ってきたので、俺は笑顔でこう言った。
「勿論、今からここに呼びます。」
そして、俺がイリスを呼ぶと、彼女は姿を現した。
「「「え、エルフっ!??」」」
3人は驚愕の声をあげた。ただ、一人だけ手が「ピクッ」と動いたのを俺は見逃さなかった。
「こんにちは。私が妻の『イリス』です。」
驚いている3人に向かって、イリスは笑顔で自己紹介をした。
「まさか、伴侶がエルフとは...。」
王女がイリスを見ながらそんな事を呟いた。別に侮辱した言い方ではなく、単に驚いているだけのようだった。
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それぞれの自己紹介が終わり、イリスは早速近くの平地に「仮設住宅」を建てた。
その光景に3人は唖然としていた。多分こんな魔法を見たことないんだろうな。
「それでは、こちらの家でお休みください。自由に使っていただいて構いません。では、私達はこれで失礼します。」
俺は呆然としている3人にそう言って、イリスと共に仮設住宅に戻った。
「さて、連中はこれからどうするかな?」
俺はニヤニヤしながらイリスと話していた。
「そうね~、とりあえず『やるなら』今夜あたりかしら?それにしても、旦那様も大概よね。あの連中の驚いた顔は傑作だったわ。」
イリスも先ほどの様子を思い出してクスクス笑っていた。
「それじゃあ、『やりやすい』様に準備しなくちゃいけないね。」
「クスクス、そうね。」
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そして日が落ち、辺りが暗闇に包まれた。
・・・カチャッ。
寝静まった家に、扉が静かに開けられる音がした。
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