第18話:「過ぎた文明」と逃亡者

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「・・・という感じね。」

「うわぁ~。」

 イリスの報告を聞いて、俺はドン引きしてしまった。

 何となく「そうかな~」とかは思っていたけど、予想以上に酷かったな、あの「聖女」。

 俺たちはまだ国境近くの小さな森の中に建てた仮設住宅にいた。勿論周りから建物が見えないように景色と同化させている。

 時間は大体午前6時ぐらい。ちょうど日が昇ってきたころだ。

 俺たちは昨夜をして、ついさっき目を覚ましたところだ。

 暫くベッドでまったりしていたのだが、イリスが思い出したように昨日のことを話し始めた。

「そうそう、昨日天界に行ってた時に、面白いものを見たのよ。」

 と言ってきたので、話を聞いてみると。

 イリスが神託の内容を確認しに天界に行った時、教会の総本山で騒ぎが起きていたので見てみると、少女が癇癪かんしゃくを起した女に殴られていたらしい。

 傍耳を立てていると、どうやら殴られているのは「教皇」という人物で、殴っているのが「聖女」ということだ。

 そこに兵士が割って入り、一緒に入ってきた「勇者」が収めたらしい。

「あの『教皇』の娘は災難だったけど、あのクズ女聖女戯言神託に右往左往させられる程度なら、あの連中もたかが知れているわね。」

「そうだね。」

「それにしても、他人が言ったことに振りまわされるなんて、主体性がない奴隷なのかしら?」

「仕方ないよ。『教団』って言うのはそういうものだろうし、誰だって責任を取りたくないんだから。」

「まあ、別にあの教団がどうなろうと俺達には関係ないから、別にどうでもいいけどね。」

「向こうからちょっかいを掛けてこない限り、何もすることはないから。」

「そうね。」

 そんなことを言いながら、ベッドの中でしっぽりしていた。

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 昼頃になって、漸く俺たちは外に出て周りを確認していた。

「う~ん、これから進むとなると、ちょっと距離がありすぎるかな~。」

「そうね、結構人家があるみたいだから、明るいうちに移動するのは避けたいわね。」

「それじゃあ、夜になるまで待つとするか。周りに何か近づいてるとかある?」

「・・・今の所はないわね。一応警戒はしておくけど、もしもの時の為に仮設住宅は見えないようにしておくわ。」

「分かった。それじゃあ一旦待機だね。」

 そう言って、俺たちは仮設住宅に戻り、先ほど確認したことを踏まえてどう移動するかを相談した。

「人家があるところは、気付かれる恐れがあるから素早く通り抜ける事は出来ないね。」

「すると、次の目的地はこの辺かしら...。でもこの辺りって身を隠せる場所がないのよね...。」

「ねえイリス、空を飛んでいくってことは出来ないの?」

「できるけど、魔力を使うから感付かれる恐れがあるわ。」

「そっか~。」

 そんな感じで、いろいろ検討をして移動ルートと目的地を決めた。

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 夜になり、俺たちは行動を開始した。

 イリスが仮設住宅を片付けて、周りの様子を確認すると、俺たちは一気に走り出した。

 所々人家の近くを通ることがあるので、その時はイリスが隠匿魔術を使って気配を消して、出来るだけ足音が出ないように歩きながら通り過ぎた。

 そうして移動すること数時間、俺たちは東の山脈の麓に来ていた。

 ここは、この辺りを治めている辺境伯の領地の境界付近で、周りに人家は全くない場所なので、人目に付かない場所を探して仮設住宅を建てた。

「流石に遠回りさせられるな~。」

「仕方ないわよ。最短距離をで行ってもいいけど、絶対面倒な事になるから今後の事を考えると止めた方がいいわね。」

「そうだね、出来るだけ障害を避けるためだからね。」

 そう簡単にいかないことは分かっていたが、実際来ると予想以上に動きにくい。

 それに、この国は近代化されているため、夜でも明るい場所があるためどうしても迂回する必要があったりする。

「文明の利器は自分たちが使う分には便利だけど、相手に使われると面倒だよね。」

 そう言いながら、自分たちは現代設備が整った仮設住宅にいるけどね。

「そうね。この世界は元々中世並みの文化位なんだけど、異世界からの召喚者たちからもたらされた知識で一足飛びで近代化しているのよ。」

「本来なら手順を踏んで発展しなければいけない所を省略しているから、この世界にしてみたら今のこの国は異常なの。」

「このまま異世界の知識を享受し続けたら、いつか『揺り戻し』がくるわよ。まあ、そんなことは考えていないだろうし、考えようともしないでしょうね。」

 イリスは難しい顔をしてそんな事を言った。俺もそうだが、一度便利なものを知ったら、元に戻ることはできない。そして、もっともっと良いもの、便利なものを求めるんだ。これは「人間」のさがなのかもしれない。

「まあ、私達には関係ないから、この国がどうなろうと知ったことではないけど。」

「そうだね。他の種族からしたら迷惑極まりないけどね。」

 そう言って、お互いの顔を見て笑った。

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 その後、これからの進路について話し合った後、特にすることがなかったのでいつも通りイチャイチャしていたところに、外から話声が聞こえてきた。

「おい、こんなところに家があるぞ。」

「なんだか、見たことがない感じの家ね。誰が住んでいるのかしら?」

「そんなことはどうでもいいから、休ませてもらおうぜ。」

 ・・・どうやら、この辺りに迷い込んだ人間の様だ。声と気配から男女3人で、それなりの戦闘経験を積んでいそうな感じがする。

「しまった、敵中なのに家を見えなくするのを忘れちゃった。」

 イリスが自分の失敗を悔やんでいた。確かにここは人目に付かない場所だが、森や林みたいに視界を遮るものがあまりないから、見つかりやすいともいえる。

「見つかったものは仕方がないよ。とりあえず俺が対応するから、イリスは隠れておいてくれるかな?ここに『エルフ』がいるとバレると何されるか分からないから。」

「・・・分かった。気を付けてね。」

 俺の提案に、イリスは承諾してくれた。

 暫くして、外から男性の声がした。

「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

 俺はイリスに目配せをして、玄関を開け外に出た。

「・・・はい、どちら様でしょうか。」

 俺の姿を見た連中は、ほっとした顔をした。恐らく同じ「人族」だったからだろう。

 改めて連中を見てみると、やはり男性2名に女性1名の3人。武装しているが装備に統一感が無いから「軍隊」ではなさそうだ。かなり疲弊しているように見える。

「すみませんが、ここはあなたの家ですか?」

 連中のリーダーらしき男がそう聞いていたので、俺は「はい。」と答えた。

「突然で申し訳ありませんが、暫くこちらで休ませていただけませんか?我々はで追われていまして、何とかここまで逃げてきたのです。」

 そう言って、男は頭を下げた。続いて女も頭を下げたが、一人だけ不機嫌そうな感じで頭を下げなかった男。

(イリス、この連中の『鑑定』って出来る?)

(この位置では出来ないわ。『鑑定』は対象を『直接見ない』といけないから。)

 俺は、連中に聞こえないようにイリスに「鑑定」を頼んだが、どうやら無理らしい。

 かといって、イリスをここに呼ぶのは危険だ。特に頭を下げなかった男。こいつからは「横柄」な態度が見て取れる。

(ただ、旦那様の『眼』を通して診ることはできるわ。)

 そんなことができるのか。流石は天照様最上位神

(連中に気付かれることはない?)

(そうね、魔力感度が鋭い者は気付くかもしれないけど、私の存在に気付いていないみたいだから、多分大丈夫よ。)

(分かった。それじゃあお願い。)

(了解。今の連中の状態だと『詳細鑑定』してもバレないと思うから、それにするわね。)

 イリスがそう言うと、俺の頭に中に前にいる連中の「詳細な情報」が入ってきた。


(へぇ~、この人がペディが言っていた『人族至上主義に反対する』連中なんだ~。)

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