第17話:教団と召喚者
ここはキトナムフロボン国の王都にある「女神教」の総本山である「アルヒギオ宮殿」。
ここは近くにある王宮より豪奢な造りをしており、この国の力関係を物語っていた。
また、ここを中心とした区画はキトナムフロボン国の力が及ばない教団国家「コラテスセア」として教皇を国家元首とした独立した「国」となっていた。
その宮殿にある教皇の執務室で、女神教教皇で「コラテスセア」の元首である「パンパス」が執務を行っていた。
パンパスは見た目16歳ぐらいの少女ではあるものの、前教皇より指名を受けた正式な教皇であり、その手腕は歴代教皇と遜色がないほど有能である。
また、柔軟な思考の持ち主でもあり、それ故に古参の信者や上層部から煙たがられているところもある。
「・・・・・・・・」
パンパスが無言で執務を行っているところに、突然「バン!」と音を立てて乱暴に扉を開ける者がいた。
パンパスは筆を止め、その者を見て話し始めた。
「・・・何か御用ですか、『聖女様』。あと、部屋に入る前にノックしていただきますよう何度も申し上げておりますが。」
そんな抑揚のない言葉に聞く耳を持たないかのごとく、「聖女」と呼ばれた女はズカズカとパンパスの前に歩いてきた。
「うっさい!アタシに指図すんじゃない!!」
そう、ヒステリックに叫んだ。
この一人で
兎に角傲慢で我儘、他人の言う事は一切聞かず、叱責した者にはすぐに暴力をふるう。
外見は清楚な感じがするのだが、これは「聖女」という職業の特徴であって、彼女自身はその真逆に当たる。
聖女はパンパスの傍に来ると、いきなり胸ぐらをつかんだと思うと、「パアンッ」と乾いた音を立ててパンパスの頬を平手打ちした。
「大体、アンタは一々気に入らないのよっ!アンタはアタシより年下なんだから、アタシのいう事をおとなしく聞いてればいいのよっ!!」
パアンッ、パアンッと何度も彼女に平手打ちをした後、床に転がしその腹を蹴った。
「グハッ!」
パンパスが堪らず声をあげたが、その後も容赦なく体を蹴り続ける聖女。
「アタシが居なければ何もできないくせに、偉そうに説教垂れてんじゃないっ!!」
「何より、そのスカした顔がムカつくのよっ!!!」
その時、扉から鎧を身に着けた騎士たちが入ってきた。
「聖女様!教皇猊下に何をされているのですかっ!!」
一人がパンパスと聖女の間に割り込み彼女を庇い、他の者が聖女を取り押さえようとするが暴れて抑えようとした騎士にも暴力をふるう。
そんな混沌としている状況に、一人の男が現れて聖女にこう告げた。
「おい、その辺にしとけ。」
騎士に庇われて何とか顔をあげたパンパスは、その男を見て呟いた。
「『勇者』様...。」
勇者。教団が「異世界召喚術」で召喚した「勇者一行」の一人で、「この世界を救うことができる者」と言われている。
「うるさいっ!イエローモンキーの分際でアタシに指図すんなっ!!」
聖女が今度は勇者に矛先を向けるが、勇者は聖女をひと睨みして、ドスの効いた声で、
「その
というと、それまで暴れていた聖女が「ヒッ!!」と小さな悲鳴を上げて、大人しくなった。
「ふ、ふんっ!今日はこれくらいにしてやるわっ!」
そう言って騎士に掴まれていた腕を乱暴に振り払い、パンパスに唾を吐きかけ、部屋を出て行った。
「勇者様、ありがとうございます。」
パンパスが勇者に礼を言うが、勇者は特に興味がない表情でパンパスを見て、そのまま部屋を出て行った。
パンパスは、騎士たちに支えられながら黙って二人が去っていくのを見ていた。
(・・・神よ、あなたは本当にあのような者たちにこの世界の未来を託そうとしておられるのですか...。)
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「どうされましたか、カルディオ
部屋に入ってきた従者が、この部屋の主である「カルディオ枢機卿」の表情を見て尋ねていた。
「ああ、先ほど聖女様がこちらにいらしていたんですよ。」
「・・・成程、そういう事ですか。」
パンパスの部屋を出た聖女は、ここにやってきて散々愚痴を言った後、自分の部屋に戻って行ったのだ。
「全く、あの聖女様には困ったものです。」
カルディオがそう言ってため息をつく。
「カルディオ様、最近あの女の言動が度を越してきていますが、何時まで甘やかされるおつもりですか?」
従者がカルディオにそう尋ねると、彼は「やれやれ」という素振りをして、
「今はまだこのままでいいですよ。」
と言った。
「勇者達も、最近こちらのいう事を聞かなくなってきております。そろそろ
そう従者がいうと、カルディオは手を組んで顎を乗せ、目を細めながら従者を見た。
「ああ、そちらもまだこのままでいいですよ。」
それを見た従者は「ビクッ」として頭を下げた。
「・・・畏まりました。」
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用事を終えた従者が部屋を出て、一人になったカルディオは外を見ながらつぶやいた。
「所詮は異世界から来た頭の軽いお猿さんたちです。放っておいても問題ないでしょう。」
「『わざわざ』あのような
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