第16話:信託と聖女
どこか既視感がある光景を見せられた後、ある程度落ち着きを取り戻したニタリにここまでの経緯を聞いてみた。
それによると、先日教会に女神様の「神託」が降りたようで、その内容を聞いた教皇が「不審感」を抱き、ニタリに亜人達...つまりエルフやドワーフたちの所に神託の事を伝えるよう命じたそうだ。
その神託だが、「直接」聞いたのは教皇自身ではなく「聖女」と呼ばれる者で、その「聖女」しか神託を受け取れないらしい。
「で、その『神託』の内容って何?『不審感を抱く』ってところが気になるんだけど。」
イリスがニタリに尋ねると、彼女は困ったような顔をした。
「あ、え~っと、『神託』の内容については知らされていないんです。教皇様からお預かりした封書に書かれているので、例え『大神様』のお願いであってもそれを開封することは出来ないんです。」
うん、「封書」なんだからそりゃそうだな。あと、使いの者にそんな重要な事を教える訳もないわな。
「じゃあ、その『封書』を見せてくれる?心配しなくても封を開けたりはしないわ。見せてくれる『だけ』でいいから。」
イリスがそう言うと、流石に
「・・・えっと、これがそうです。」
そう言ってイリスの前に差し出すと、彼女はその封書をじっと見つめた。
「・・・ふむ、確かにこれは拙いわね。でも、本当にこんなことを言ったのかしら?」
どうやら、イリスは「神託」の内容を理解したようだ。
「どうしたの?何かその『神託』に問題があるの?」
俺がそう聞くと、イリスは俺の方を見てこう答えた。
「そうね、内容自体は『今は』話せないけど、妙に『具体的』すぎるのよね。まあ、この世界ではこんな感じなのかもしれないけど。」
答えた後、イリスは「う~ん」と少し考えたかと思ったら、
「ちょっと気になるから確認してくるわ。少し待っててね。」
と言って、イリスはまた先ほどの「人形」になった。
俺とニタリが顔を見合わせていると、「お待たせ。」とイリスの声がした。
「早っ!!」
俺がついそう叫ぶと、イリスは悪戯っぽい笑みを見せた。
「さて、確認結果の前に
イリスの質問に俺はある違和感を覚えた。期間が具体的なところだ。
「えっと、前回の『神託』は『3か月前』です。昔は滅多に『神託』が降りなかったんですが、最近は3~4か月おきに『神託』が降りるんです。」
それを聞いたイリスは、「ふぅ~ん」と「ある意味」納得した顔をしていた。
「あと一つ、『神託』を受け取る『聖女』ってどんな奴?どのくらいの年齢か、現地人か『召喚者』かとか。」
それを聞いたニタリは不思議そうな顔をしながら答えた。
「今の聖女様は18歳と言われていました。それと、この世界の人ではなく勇者様と一緒に『召喚』された方です。」
・・・成程、イリスの質問の意図が何となく分かってきた。
「神託」の頻度、「聖女」の
そんなことを考えていると視線を感じたので見てみると、イリスが俺の方を見て微笑んでいた。
「ねえニタリ、その『聖女様』って教会内の評判はどうなの?」
俺は確証を得るために、ニタリにこんな質問をした。
すると、ニタリは言いにくそうな表情をしたが、「ここだけの話にしてください。」と前置きして、答えてくれた。
「今の聖女様は、一言で表現すると『我が儘』です。とにかく人のいう事を聞いてくれませんし、教会内の規律を平気で破って好き放題やっています。流石に教皇様も聖女様の行動を
「ただ、表に出る時は非常に清楚な雰囲気を
うわ~、これは予想以上に酷いな。前世の俺の親戚や上司とよく似ていて虫唾が走る。
それを聞きながら、ふと気付いたことがあるのでついでに聞いてみた。
「今この国にある
すると、ニタリは「何故知っているんだ」という表情をして俺を見た。
「え、ええ。以前から
「因みに、勇者様たちが召喚されたのっていつ頃?」
「え~っと、確か...、2年ぐらい前です。」
2年前か...、確かホビィ達からの情報だと、その頃
正に図ったかのような絶妙のタイミングだな。それと、今までの話からその「聖女」は間違いなく「クロ」だな。
「神託」は聖女「しか」受け取れないという事は、その内容を確認する術がないという事。神様に直接聞けるわけないから、いわば「言ったもん勝ち」になるわけだ。
すると、その「お仲間」の勇者たちも「同種」か只の
「さて、それじゃあ行きましょうか。」
俺の質問が終わるのを待っていたかのようなタイミングで、イリスが手をたたいた。
「えっ、ど、どこに行くんですか?」
ニタリが不安そうな顔をしている。
「どこに行くって、『国境線の向こう側』に決まっているじゃない。アンタをこの国から出してあげるのよ。」
イリスはさも当然のように言った。
「
うん、流石
そういう事で、俺とニタリはイリスの手を握って俺たちがこの国に入る前にいた林に「瞬間移動」した。移動後ニタリが驚いていたが、どうやら「下位神」ではそのような事が出来ないみたいだ。
「ほら、驚いていないで早く行きなさい。急いでいるんでしょ?」
「は、はい!ありがとうございました!!」
イリスに言われて、ニタリは俺たちに礼を言ってエルフ族がいる森に走って行った。
----------
ニタリを送って、仮設住宅に戻ってきた俺たちは、イリスからもろもろの情報を聞きながら今後の行動方針を話し合っていた。
イリスの話によると、まず神託はイリスがニタリに聞いた時に話した時期、「8年3か月前」から降ろしていないという事。次に神託の内容については、そのような事を神託として降ろした事実はないとのこと。まあ、この辺は俺の予想通りだったな。
「そもそも、あんな具体的な事を
怒気がこもったその言葉に俺は感謝しつつ、肝心の「神託の内容」を聞いてみた。
「『【エルフ族】並びにその他亜人共を速やかに殲滅をせよ。』よ。」
・・・うん、確かにこれは「普通の思考能力を持っていれば」不審に思うわな。
「だとしたら、その『教皇』って人は(あの国の人間としては)
「まあ、この件『だけ』に関しては、そうね。」
イリスはこの国で有無を言わさず襲われたからな。そう簡単に信用はしないわな。
「さて、じゃあこれからどうするかだけど、ここは国境付近だからこんなに閑散としているけど、ここから南下すると人目に付くことが増えてくると思うんだ。」
「そうね。」
「そこで、ホビィ達がくれた情報に従って、なるべく人がいない所を進んでいこうと思う。」
俺の提案に、イリスは頷いている。
「じゃあ、そういう事で。で、どうする?すぐにでも移動する?」
今の時間は真夜中、前世の午前1時ぐらいだ。
「確かに今は『敵の真っ只中』だから急いでここから離れたい気持ちは分かるけど、夜が明けてからでもいいんじゃない?こんな暗闇の移動は
・・・うむ、確かにその通りだ。イリスの言う通りこの暗闇で無暗に移動すると却って危険だ。
「そうするか。『
「そそ。それじゃあお風呂に入って寝ましょうか。天界と地上を行ったり来たりして何だか(精神的に)疲れちゃった。」
そう言うと、イリスは俺の手を引いて風呂場に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます