三章
第14話:入る者と出る者
ハーフリング族のホビィ達が別の場所に避難した翌日、誰もいなくなった集落から出て俺たちは南に向かっていた。
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「「・・・・・・・・」」
なるほど。
「どう、出来たでしょう?」
「そうだね。それにしても、こんな風に見えるんだ。あの世界一高いタワーの頂上から見た感じだね。」
俺は、そう言って今見た光景を思い出していた。
いつも通りイリスに今から向かう場所を俯瞰してもらおうとした時、「私の加護があるから、旦那様も出来るはずよ?一緒に見てみない?」と言ってきたので、「コツ」を教わってイリスと一緒に意識を上空に飛ばして、この先の場所を俯瞰していたのだ。
「で、ホビィ達の情報通り、東の山脈の麓には、多くの街があるね。やはり辺境の地は警備が厳重だな。」
「西も同じ感じね。それから中央に見えたのはあの国の首都みたいね。かなり大きな都市で、その周りもたくさん町があるようね。」
俺とイリスは、自分たちが見た情報を共有していた。
「確か、あの国は王族より教団の方が力があるって話だったな。」
「そうね、首都の傍に大きな塔?みたいなのが見えたから、多分あれがその『教団』の本拠地なんでしょうね。」
イリスの話によると、先日ハーフリングの集落を襲った「ワイヴァーン」は、どうも教団の連中が連れてきたらしい。まあ、前世でもあったが大きくなり過ぎた団体は、いろいろキナ臭いことをやっているもんだ。
あと、国境は見張りの兵士が巡回している。当たり前と言えばそうだ。
「さて、それじゃあこれからどうするかだけど、馬鹿正直に正面から行ったら俺は兎も角、イリスは捕まるか下手をしたら殺しに来るだろうから、夜陰に乗じて入るとしますか。」
「そうね、明るいうちは目の届かないところに待機していて、夜になったら一気に行きましょう。」
そういう事で、俺たちは国境近くの林に潜んで、夜になるのを待った。
まあ、皆さんも予想しているだろうが、俺とイリスがただ待っている訳もなく、林の中の人目がつかない場所に仮設住宅を建てて、夜になるまでイチャイチャしていた。新婚だから仕方ないね。
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さて、心地よい疲れがある中、夜中になったので仮設住宅を片付けて国境に向かって歩いていた。
ほぼ真っ暗の中、巡回の兵士が持っている松明の明かりが国境線に沿って動いていた。
「この辺りは、流石に照明はついていないね。」
「そうね、あるとしても使うのは侵入者がいるのを見つけた時だと思うわ。」
夜になって俺たちは周りの様子を俯瞰して見た。
暗闇の中、遠くの方に明かりが見えた。恐らく王都周辺は「照明」があるのだろう。
闇夜を照らす魔法はあるらしいが、あんな大規模な範囲を照らすことはできないらしいし、魔力も持たないとのことだ。
「でも、堂々と「不法入国」するなんてなぁ。しかも、俺たちがあえて避けてきた国にわざわざ入りに行くなんて、笑えない冗談だよ。」
俺の身体は「一応」この国の人間だから、普通に入国できるのかもしれないが、今身元がバレるのは拙い。ましてや隣には連中の討伐対象である「エルフ」がいるし。
「仕方ないわよ。私だって問題が起こるのが分かっているところに自ら入っていくなんて愚かな行為だと思っているけど、目的の為には多少の障害は越えないといけないからね。」
俺たちは、そんなことを言いながら警備兵が居なくなるのを待ち、無事(?)に国境を超えた。
「うまくいったね。」
「そうね、これだけ国境線が長いと、どうしても警備が薄くなる場所が出てくるから、そこをうまく突いた結果かしら。」
国境線を超えた先にあった岩陰に隠れて、俺たちは声を潜めてそんなことを言った。
「さて、これからどうするかだけど...。」
そう言って辺りを見回すと、何もない荒野が広がっていた。
「とりあえず南下しましょう。闇に乗じて進めば、どこかに身を隠せる場所があるかもしれないわ。」
「そうだね。」
これからの行動を決めて、いざ動こうとした時、俺たちが通ってきた国境線の方から警備兵の声が聞こえた。
「おい貴様、どこに行く気だっ!!」
見つかったと思った俺たちは、咄嗟に声が聞こえた方と反対側に隠れ、息を殺して様子を窺った。
「わ、私は『女神教』の巫女です。教皇様に言われてこの先の亜人達の元に行くのです。」
声色からすると、少女かな?「女神教」の「巫女」って言っていたような...。
俺がそんなことを考えながら、ふと横のイリスを見ると、目を瞑っている。どうやら、意識を上空に飛ばして様子を見ているようだ。
「教会からそんなことは聞いていない。何れにしても、身元を確認しなければここを通すわけにはいかない!」
どうやら、何人か警備兵が集まってきているようだ。拙いことになってきた。下手すると俺たちの存在がバレる恐れがある。
どうするか、と思っていると、観察していたイリスが驚くべきことを口走った。
「あの子を助けるわよ。」
俺は一瞬自分の耳を疑ったが、
「分かった、俺はどうすればいい?」
俺がそう答えると、イリスは俺の方を見て微笑んだ。
「私があの警備兵達の『時間』を止めるから、その間にあの子を連れてきてくれる?」
彼女は、岩陰からその子がいる方向を指さした。
岩陰からその方向を覗き見て、大体の距離を把握した。200mぐらいだな。
「時間は?」
俺の質問に、イリスはあの子がいる方を見ながら、
「あまり長く止めていると怪しまれるから、大体1分ぐらいね。」
ふむ、前世の俺だったら全力で走っても間に合わないだろうが、今は「太陽神の加護」を受けているので、何とかなるだろう。
「大丈夫だ、イリスの準備が出来たら何時でも行ける。」
そう言っている間にも、次々と警備兵が集まってきている。流石に囲まれると救出しづらくなる。
「・・・お願い!」
イリスが言った瞬間、俺は岩陰から飛び出して一直線に少女の元に駆けた。
彼女は、周りの兵たちが「突然」動かなくなったことに驚き、きょろきょろしている。
俺は彼女の元に駆けて行き、有無を言わさず抱きかかえて
「え、ちょっ、な、なに?!あなたは一体...?」
彼女は俺にいきなり抱えられて困惑しているが、時間がないので無視してイリスがいる岩陰まで走った。
「おかえり、それじゃあさっさとこの場を離れるわよ。」
そう言って、俺たちは全力でその場を離れた。遠くで警備兵たちが騒いでいたが、この暗闇では追ってはこれないだろう、と願いながらひたすら走った。
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どのくらい走っただろう、俺たちは小さな森にたどり着いた。
イリスは追手が来ていないことと周りに魔物などがいないことを確認したのち、いつも通り仮設住宅を建てて少女を連れて入った。
「あ、あの~、貴方たちはいったい...?」
多少落ち着いた「教会の巫女」は、恐る恐る聞いてきた。
「私はイリス。見た通り『エルフ』よ。そして彼が私の夫で『人間』の『ケリー』。」
イリスが簡単に自己紹介をすると、彼女は慌てて自己紹介を始めた。
「わ、私は『女神教』の巫女で、『ニタリ』と言います。」
そう言われて改めて見てみると、確かに神官服みたいなものを着ている。年の頃は10歳前後くらいだろうか、前に助けたエルフの「コティ」と同じくらいに見える。
「あ、あの...。」
ニタリが何か言いそうになると、イリスがそれを遮った。
「アンタの事は後で詳しく聞くわ。それより少し横になりなさい。目の下に隈が出来ているわ。」
「え、でも...。」
「良いからさっさと寝なさい。アンタをどうにかしようとなんか思っていないから。」
そう言って、イリスがニタリの額に指をあてると、彼女は崩れるように倒れこんだ。
俺が彼女を抱えてベッドに寝かせて、様子を見ると安らかな寝息を立てている。
俺が観察していると、イリスが傍に寄ってきて、こう呟いた。
「全く、何があったか知らないけど、無茶するんじゃないわよ。」
イリスは腰に手を当てて、「やれやれ」という表情をしている。
「ところで、何でこの子を助けたの?どこかで見かけたとか。」
俺がそう聞くと、イリスは俺の方を見てから再びニタリの方を向いた。
「この子は『私と同じ』なのよ。」
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