序章

プロローグ:現世と決別

 ・・・コツ、コツ、コツ...。

「・・・・・・・・」

 ここは、真夜中の大通り。その脇にある歩道を、疲れ切った姿をした青年が一人とぼとぼと歩いていた。

 彼は、とある商社の営業をやっているのだが、仕事は早朝から深夜まであり、休日は月に一回有るかどうかの超激務である。

 彼の勤めている会社は、薄給でこき使い、残業代はなしの、所謂ブラック企業と呼ばれるところだ。この会社は、部下に仕事を振るが自分たちは何もしない、上手く案件が取れた時は自分たちの手柄、ミスをしたときは部下の所為にするという、クズの典型のような上司たちばかりで、経営者一族は、社員の事を只の「道具」としか考えていないようで、自分たちの富と名誉のため「だけ」に会社の資金を湯水のように使っていた。

 なぜそのような会社で働き続けているのかというと、「高卒で何の技能もないお前を雇ってくれるところなんか、うち以外にない」と事あるごとに上司に言われていた洗脳されていたためだ。

 彼は高校に上がる前に両親を「事故」で失くしており、その後親戚に引き取られたが、扱いに困ったのか親戚間をたらい回しにされてきた。

 高校を何とか卒業させてもらったあと、彼は現在の会社に就職し、親戚たちから「独立」という名の体の良い「追い出し」をされて、一人暮らしを始めた。ただ、その会社が超絶ブラック企業だったのは後に分かったことだが、それに気が付いた時には既に転職するなどという考えを持てなくなるくらい気力を削がれていたのだ。

「・・・・・・・・」

 彼の歩く姿に、生気はない。超激務が入社時から続いていたため、疲れ切って「生きる屍」のようになっていたのだ。


 歩行者信号が青になったので、彼が大通りの横断歩道を渡っていた時、横から光が差したので振り向くと、そこには高速で迫ってくる車が目に入った。


 ドンッ


 その音とともに、彼の身体は木の葉のように舞い上がり、道路に叩きつけられた。

 撥ねた車は、スピードを落とすことなく走り去っていった。

 道路に叩きつけられた彼は、薄れゆく意識の中、僅かに微笑んだ後意識を手放した。


 こうして、彼「出望桐夫(でもうきりお)」は、35年の短い生涯を終えた。


 ----------


「・・・あっ、しまった。間違えちゃった(汗)。」

「・・・ど、どうしよう。流石に黙っているわけにはいかないよね...。」

「・・・・・・・・」

「と、とりあえず『彼』の魂をに連れて行ってから、報告しようかな...。」

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