第0話:転生と女神

 ※ この物語はフィクションです。作中に日本神話に登場する神と「同姓同名」の「神」が登場しますが、日本神話の神とは無関係ですので、その事をご留意頂きますようお願いします。

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「・・・・・・・・」

 おもむろに目を開けると周りが真っ白で何もないところにいた。

「どこだ、ここ...?」

 そう言って、辺りを見渡した。

「俺、どうしたんだ...?」

 はっきりしない意識の中、これまでのことを思い返していた。

「・・・ああ、そうか。俺、車にはねられて死んだんだ...。」

 帰宅の途中で暴走車にねられてしまったのだ、多分。

「・・・でも、もう、あんなつらい思いをしなくて済むと思えば、かえって良かったのかもしれないな。」

 早くに両親を亡くした俺は、親族間をたらい回しにされた。

 何とか高校を卒業した後、就職して一人暮らしを始めた。

 ただ、就職した先は超絶ブラック会社で、薄給でこき使われ、ミスは全て部下の仕業、成果はすべて自分たちの手柄というクズの典型のような上司や経営者達だった。

 それでも、他に就職先がなかった俺は、我慢して働き続けた。

 まあ、その結果がこれである。

 そんなことを思い出して、俺は静かに目を閉じた。

「という事は、ここは『死後の世界』なのか...?」

 思い返せばクソみたいな人生だったが、ようやく楽になれるな。

 そんなことを思っていたら、近くで人らしき気配がしたので、目を開いて気配がした方を見ると、そこには、容姿端麗な女性が立っていた。

 と思ったら、その女性は突然ジャンピング土下座をしてきた。

「申し訳ありませんでしたぁーーーーーっ!!」

「・・・はい?」

 余りの出来事に、間抜けな声が出てしまった。

「部下の手違いにより、あなたには大変なご迷惑をおかけしてしまいましたぁー!!」

 彼女は、土下座したまま震えていた。

「・・・えーっと、どういうことですか?」

 俺がそう聞くと、彼女が頭をあげて意外そうな顔をした。

「・・・あれ、部下から説明を受けていませんでしたか?」

「いえ、俺は今気が付いたところなので、何も聞いていません。」

 そう俺が答えると、その女性は「チッ」と舌打ちした...様に聞こえた。

「それでは、今から説明させていただいてもよろしいですか?」

 と聞いてきたので、俺は頷いた。

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 彼女の話では、俺は本来死ぬべき時ではなかったらしい。彼女の部下のミスによって、本来死ぬべき「誰か」と入れ替わって俺が死んでしまったそうだ。

「本当に、何とお詫びをすればよいか...。」

 彼女は項垂うなだれてしまった。

「いや、話を聞いていると貴女がやったことじゃないから、そこまで気に病む必要はないと思いますけど...?」

「いえ!部下の不始末は上司の責任です!!」

 そうはっきりと言った。なんだ、いい上司じゃないか。俺がいた会社とは正反対だな。

「そうすると、俺は生き返るんですか?」

 そう言うと、彼女は申し訳なさそうな顔をして首を横に振った。

「残念ながら、あなたの身体は車との衝突の勢いで『体を強く打った』状態になっていて、『元の体』に戻るのは不可能なのです...。」

 あー、そういう事ね。確かにそれだと、元の身体に戻るのは無理だな。

「なので、お詫びと言ってはなんですが、私の知り合いが管理している世界に『転生』していただこうと思っています。」

 そんなことを彼女が言ってきた。

「転生」?同僚にライトノベルが好きな奴がいて、それに「転生」という言葉が出てきていたな。確か、「現世で死んだ人間が、別の世界で生き返る」だったかな?

 もし、そうだとすると、その「別の世界」で「同じ人生を送れ」と言っているのか?

「いえ、お気遣いは大変ありがたいのですが、俺はこのまま成仏したいのです。」

 そう思った俺は、彼女の提案を丁重に断った。

 もう生きるのに疲れた。早く楽になりたい。俺がそう言うと、彼女は一瞬悲しそうな顔をした。

「そうですか...。とはいえ、断られるとは思っていませんでしたから、すでに『転生』の手続きをしてしまいました...。」

 意外とせっかちな人だな。

「しかし、本人が納得していない状態で無理やり『転生』させることは、神の規律に違反してしまいますね...。」

 彼女はうんうん唸りながら考えている。少し「悪いことをしたかな」とか思ったが、ここは自分の意思を通そう。

 暫く考えていた彼女が、「そうだ」と呟いたと思ったら、

「それでは、何か欲しいものを『何でも』一つだけ叶えましょう。」

 そんなことを言ってきた。

「いや、そんなの要らないから...。」と言いかけたが、彼女が折角妥協案を出してくれたので、俺も意固地にならずにその提案を受け入れようと思った。

「分かりました。・・・と言っても、急にそんなことを言われてもなぁ~。」

 と、いろいろ考えていたら、あることを思いついた。

「本当に、『何でも』いいんですか?」

「はい、それであなたが納得して『転生』していただけるのであれば、『何でも』構いません。」

「それじゃあ...。」

 そう言って、俺は目の前にいる「彼女」を指さした。

「俺は、『貴女』が欲しい。」

 ・・・・・・・・

 暫く、時が止まったかのような静寂に包まれた。

「ええええええええぇーーーっ!??」

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「それでは、『転生』を始めます。」

「はい。・・・それにしても、良かったんですか?我ながら無茶苦茶な要求をしたんですけど...。」

 まさか、了承されるとは思っていなかった。無茶な要求をして、諦めてくれればいいな~、とか考えていたんだけどな。

「構いません。一度口にしたことを反故にするなど、少なくとも私の『矜持きょうじ』が許しませんから。」

「(それに、これは願ったり叶ったりですからね♪)」

「ん、何か言いましたか?」

「いえ、何でもありません。心の準備はよろしいですか?」

「どうぞ。」

「念のためにもう一度説明しておきますが、あなたは「魔物」と呼ばれる生物が存在する「剣と魔法」の世界に転生することになります。」

「文明はあなたがいた世界でいう『中世の西洋』と言う感じです。」

「わかりました。ところで、貴女は一緒に『転生』しないのですか?」

「私は、こちらの手続きをもろもろ済ませた後、あなたが転生する世界に行きますので、安心してください。」

「そうですか。」

「では、お会いしましょう。」

 俺の身体が眩しく輝きだす。

「そういえば、あなたのお名前を聞いていませんでしたね...。」

 大事な事を聞いていなかったことに気付いた俺が質問したが、その答えを彼女から聞く前に意識を手放した。

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「私は、『アマテラス』。」

「あなたがいた『日之本』では、『太陽神天照大神』とも呼ばれています。」

「それでは、またお会いしましょうね、出望桐夫(でもうきりお)さん...。」

 そう言って、彼女アマテラスは微笑んだ。

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