第11話:ハーフリングと教会

 <ペディ視点>

 明くる日、私は集落の外れに「建っている」人族とハイエルフの夫婦がいる家に向かっていた。

「それにしても、『ハイエルフ』って凄いんだな~。あんな立派な『家』をあっという間に建てちゃうんだから。」

 そんなことを呟きながら、私は昨日のことを思い出していた。

 人族の「ケリー」さんの奥さんでハイエルフの「イリス」さん。あの人には驚かされてばっかりだ。

 私は「ハイエルフ」の実物を初めてみたけど、流石はエルフの上位種だけあって凄い能力ちからを持っている。

 以前ハイエルフを見たことがある兄は、「いや、俺の知っている『ハイエルフ』にあんな能力ちからはない。」と言っていたけど、実際目の前でやられたんだから、兄が知っているのは「ほんの一部」じゃないのかな、と思っている。

 ・・・それにしても、あの人たち、「新婚さん」なんだから仕方ないと頭の中では理解しているけど、あんな四六時中イチャイチャされたら独身組は堪ったもんじゃないわ。

 何、あの「他人を寄せ付けない自分たちの世界に浸っている激甘カップル」は!特にイリスさん!!あの人のケリーさんに対する愛情は凄いを通り越して「異常」。時折見せる「うちの旦那に良からぬ思いを寄せたら、どうなるか分かっているわよね?」と言わんばかりの有無を言わせぬ迫力!!あまりの迫力に、私ちょっと粗相をしてしまった。多分あの人イリスさんケリー旦那さんに何かあったらまず間違いなく「爆発」するわね。下手したらこの大陸が一瞬で焦土化するかもしれない。

 そんなことを考えていたら、その人たちがいる家に着いた。

「おはようございまーす。ケリーさん、イリスさん。」

 私がそう挨拶して扉をノックしたら、少し間を空けて扉が開いた。

「あら、おはよう。」

 そう言って出迎えてくれたイリスさんだが、物凄い恰好をしていた。

 なんと、ローブを羽織った「だけ」の姿で現れたのだ。

 やたら肌がつやつやしていて、気怠けだるい雰囲気を出している。同性の私から見ても凄く艶っぽいので、思わず赤面して下を向いてしまった。もしここに兄がいたら、間違いなく鼻血を出してぶっ倒れていただろう。それ位「独身者」には刺激が強すぎる。

「やあ、おはよう、ペディ。」

 私がもじもじしていると、ケリーさんの声が聞こえたので、顔をあげると。

 ・・・何だか疲れ切った顔をしたケリーさんが立っていた。彼もイリスさんと同じくローブを羽織っただけの姿で。

「あ、あの~、何だか随分疲れた顔をしてますけど、何かあったんですか?」

 私がそう聞くと、イリスさんがこれまた艶っぽい表情をして、

「あら、『何かあった』なんて、そんな野暮なことはき・か・な・い・の♡」

 などと言ってきた。その横でケリーさんが照れた表情で「あはは...。」と苦笑していたので、それですべてを察してしまった私は顔がゆだってしまうくらい赤くなった。

 そんな私の様子を見ていたイリスさんが、

「あらあら、貴女には少し『刺激』が強かったかしら?」

 と、ニヤニヤしながら言っていた(と思う)。

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 同じころ、ハーフリング族の集落がある場所からかなり離れた場所にある小高い丘の上。ここにを覗いている修道服を着た女性と、同じ格好をした若い男性の「人族」がいた。

「・・・あれが『ハーフリング族』の集落ですか。」

「はい。奴らは我々が『粛清』しようとすると忽然こつぜんと姿を消してしまうのです。」

「恐らく、我々の動向をいち早く察知して『逃走』しているのでしょう。」

「全く、『亜人』の分際で我々の『慈悲じひ』を無碍むげにするなど、許されるものではありません。」

 の人族らしく、「人族至上主義」の思考で凝り固まっており、「自分たちがすべて正しい」と本気で信じているのだ。

「まあ、それをさせないために『あれ』を持ってきたのですけれど...。」

 そう言うと、修道服を着た女性は双眼鏡から目を離して上を向いた。

 そこには、高速で飛行する「魔物」が複数匹、ハーフリング族の集落に向かっていた。

「正直言って、あのようなを使うことは納得できないのですが...。」

 を見ていた女性が、眉間にしわを寄せてそう呟いた。

「しかし『アルケビス大司教』様、この件については『カルディオ枢機卿すうききょう』の御意志であらせられますので、そのような事をおっしゃられては...。」

「アルケビス大司教」と呼ばれた女性の言葉に、若い修道士がそう話すと、彼女アルケビスはその修道士に目を向けて、

「・・・あなたは私に意見ができるほど、のですね。」

 と、冷淡な声で言い放った。

「っ!も、申し訳ございませんっ!!」

 若い修道士は、自分の越権行為に気付き、慌てて膝をつき陳謝した。

「・・・まあ、あなたの『処分』については後にしましょう。」

 アルケビスはそう言うと、再び双眼鏡で集落の方を見た。

(全く、上層部の方々は分かっていませんね。)

(神の名のもとに、自ら『粛清』するのがよいのではないですか。)

 集落を見ながら、彼女は聖職者とは思えぬ醜悪な笑みをした。

 ----------

「大変だっ!魔物が襲ってきた!!」

 俺たちがホビィの家で相変わらずの膨大な量の朝食をあの兄弟ホビィとペディが食べ切ったときに、突然ハーフリングの若者が飛び込んできた。

「何っ!魔物の襲撃だとっ!?」

「何で今まで気が付かなかったのっ!?」

 ホビィとペディが立ち上がって、声を荒げて若者に問いただした。

「す、すまない!俺たちが気が付いた時には既にを通過していたんだ!」

「っ!すまない、つい声を荒げてしまった。それで、『上空』を通過したと言っていたが、何だったかわかるか?」

 若者の言葉に、ホビィは我に返り謝罪した。

「かなり速い速度で飛び去ったので、詳しいことは分からないが、恐らく...。」

「恐らく?」

 ペディが聞くと、若者は神妙な顔で、こう答えた。

「・・・『ワイヴァーン』。」

「「!!!」」

 若者が発した言葉に、ホビィ兄妹は驚愕した。

「拙いっ!『ワイヴァーン』ならすぐここにたどり着く!!急いで皆を避難させろっ!!!」

 ホビィがこれまでにない焦った声でそう叫んだ時、外から爆発音が聞こえてきた。

「きゃあああああぁぁぁっ!!」

「うわあああああぁぁぁっ!!」

 地響きが起こり、建物が大きく揺れた。

 そんな中、ホビィとペディが外に出ると、集落のあちこちで火災が起こっており、人々が倒れていた。

「くっ!!」

 ホビィが上空を見ると、十数体のワイヴァーンが旋回していた。

「そんな...。」

 上空のワイヴァーンを見たペディが、絶望したような声を発した。

 その頃俺たちは、彼らに遅れて外に出てから、周りの様子を見ていた。

「イリス、上空を飛んでいるのが『ワイヴァーン』?」

「そう、『翼竜』とも言われている魔物で、『ドラゴン』の一種よ。」

「全身を固いうろこに覆われて、弓矢程度では傷すらつかないし、ドラゴンの一種だけあって口から炎も吐くの。」

 俺の問いに、イリスが答えてくれた。

「・・・で、どうするの、旦那様?」

 今度はイリスから俺に問いかけてきた。手を貸すかどうかという事だろう。

 俺は、上空のワイヴァーンたちを見ながら、こう答えた。

「・・・彼らの『覚悟』次第だね。最初から俺たちに頼るようなら心苦しいけど『手を貸さない』。」

 そう答えると、イリスはにっこりと微笑んで、

「旦那様ならそう言うと思ったわ。」

 そう言うと、彼女は上空を見て言葉を続けた。

「多分、今の彼らではアイツらワイヴァーンは倒せない。今彼らが出来るのは『逃げる』ことだけ。さて、あの首領ホビィはどうするのか...!?」

 そんなことを言っていたイリスが、急に振り向いて、何もない荒野を凝視しだした。

「どうしたの?」

 俺がそう聞くと、イリスは能面のような顔になって、こう呟いた。

「・・・成程ねぇ~。本っ当に、ろくなことをしないわね。」

 うわぁ~、天照様怒ってらっしゃるぅ~。てことは、視線の先に「元凶」があるという事か。

 その時、ホビィが覚悟を決めたような声でペディに言い放った。

「ペディ!俺がおとりになって奴らを引き付ける!その隙にお前は皆を連れて逃げろっ!!」

「っ!そんなっ!!お兄ちゃんっ!!!」

 その声に、ペディは驚愕した。

「今の俺達ではアイツらワイヴァーンには対処できない。だとしたら残された方法は一つだけだ。」

「心配するな。俺だってただでられるつもりはない。何とか隙を見て逃げ出すさ。」

 そう言って、ペディを落ち着かせようとした。

(まあ、そんなことは無理ってことは百も承知だけどな。)

「わ、分かった。お兄ちゃんも無理しないで!」

 そう言って行動に移そうとした時、上空にいたワイヴァーンの一匹がホビィ達に向かって炎を吐いてきた。

「しまった!せめてペディだけでも...っ!!」

 ホビィはそう言って、ペディに覆い被さった。

 ・・・

「・・・あれ、何ともない?」

 ペディがそう言って目を開くと、そこにはイリスが立ち塞がり、炎を防いでいた。

 イリスはペディに覆い被さったままのホビィに向かって、笑顔を見せた。

アンタホビィの覚悟、見せてもらったわ。手を貸してあげる。」

 そう言って上空のワイヴァーンたちを睨むと、連中は叫び声をあげる間もなく一匹残らず「爆散」した。

「・・・・・・・・」

 その光景を見たハーフリング族たちは、皆声を失っていた。

 ----------

「なっ...!!?」

 双眼鏡で様子を見ていたアルケビスが、驚愕の声をあげた。

「どうかなさいましたか、大司教様!?」

 若い修道士がアルケビスの異変に気付き、声を掛けると、アルケビスは信じられないような声で呟いた。

「まさか、一瞬でワイヴァーンたちが全滅するなんて...。」

「何と...?!!」

 アルケビスの呟きに、修道士が信じられないような声を出した。

「・・・まあいいでしょう。このことを早く本部に伝えなければいけません。行きますよ。・・・きゃっ!?」

 アルケビスがそう言って踵を返そうとしたら、「何故か」転倒した。

「いたた...、こんなことでつまづくとは、私が少なからず動揺しているということでしょうか...っ?!!」

 そんなことを言いながら、ふと足元を見ると、何と自分の足が無くなっていたのだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 修道士の悲鳴を聞いたアルケビスが振り返ると、なんと「消えていく」修道士の姿があった。

「な、何故私がこのような事に...。」

 徐々に消えていく自分の身体を見て、そう呟いたのを最後に、アルケビスと修道士は「消滅」した。


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