第10話:大食と小食

 俺たちは、ハーフリングの兄妹に案内されて、彼らの集落に入った。

 ざっと見まわしてみると、大体20人ぐらいいるな。全員「子供」の姿をしているけど。

 集落の中を案内されていると、こちらをチラチラ見てくる。前にイリスが言っていたように、「警戒心」というより「物珍しい」感じだな。

「やっぱり、私達が『夫婦』という事が物珍しいみたいね。」

 俺が考えていたことをイリスが口に出して言った。

「そうだな。二人のことをみんなに話した時、全員半信半疑だったからな。」

 イリスの話を受けて、前を歩いていたホビィがそう言った。

「しかし、思っていたより人族に対しての嫌悪感がないな。」

 俺がそんな感想を言うと、後ろについてきているペディがその理由を説明してくれた。

「うん、私達は人族が『いつ』『どこから』『どのくらいの人数が』『どんな武装で来るのか』を事前に調べているから、直接被害に遭ったことはないの。だからかな?」

 ほう、流石は「斥候」が得意な種族だけある。何事に於いても、「情報」は大事だからな。彼らはそのおかげで難を逃れているわけか。

「とはいえ、俺たちが出来るのは『避難』することだから、根本的な解決にはなっていないんだ。」

 ペディの説明にホビィが補足した。

 俺とイリスは、困った顔をしてお互いを見合った。

(う~ん、ここも程度の違いはあるけれど、エルフの集落と同じ状況だね。)

(そうね。かといってこちらから手を差し伸べることはしないし、しちゃいけないと思うわ。)

 そんな風に、俺たちは兄妹に聞こえないように小声で話した。

「ところで、襲撃してくるのは『人族』だけか?『魔物』とかは襲ってこないのか?」

 俺がそう聞くと、ホビィは「うーん」と少し考えて、こう答えた。

「『今の場所』ではほぼ無いな。この辺りはなにもない『荒野』だから、そもそも生息していないみたいだ。」

「今の場所」...、ということは、魔物の襲撃自体は経験しているわけか。

「『魔物』って、『魔力を持った野生動物』だから、『魔力』が集まっているところに多いのよ。」

「だから、『魔力』が集まりやすい『森』とか『湖』に多く生息しているの。」

 俺がそんなことを思っていると、イリスが魔物の特徴を教えてくれた。

「流石は『ハイエルフ』、良く知っているな。」

 イリスの説明に、ホビィが感心していた。

 そんなことを話しているうちに、俺たちはとある建物に着いた。

「さあ、入ってくれ。ここは俺たち兄弟の家集会所だ。」

 ホビィにそう促されて、俺たちは彼らの家に入った。

 中に入ると、広さが20畳ぐらいある大広間の真ん中に大きなテーブルがあり、その上にテーブルから零れんばかりに盛られている料理が置いてあった。

「・・・え~っと、さっき『集会所』と言っていたけど、何か集まりがあるんじゃないのか?」

 俺がそういうと、横にいたペディが衝撃の発言をした。

「ううん、ないよ?これは、私達の『昼食』。」

「「はい?」」

 俺とイリスが見事にハモって素っ頓狂な声をあげると、いつの間にか席についていたホビィが不思議そうな顔をして俺たちを見た。

「そうだ。まあ、座ってくれ。急な事だったから、『これくらい』しか用意できなかった。」

「「?」」

 またもや俺たちの声がハモった。

「何だ、足りないのか?すまないな、今ある料理はこれだけなんだ。足りない分は『間食』の時に用意するから、我慢してくれないか?」

 そんなことをホビィが言ってきた。

「いやいや、その逆だ。俺たちはこんな量は食べきれないぞ?この10分の1でも多いくらいだ。」

 俺がそう言うと、ハーフリングの兄妹は驚いた顔をした。

「えっ、『ニンゲン』ってそんなに食べないの?それで良く動けるね?!」

 ・・・成程、前にイリスが言っていた「健啖家」というのは事実らしい。

「まあ、『ニンゲン』のケリーは兎も角、『ハイエルフ』のイリスはこれくらい余裕だろう?」

 今度はホビィが衝撃発言をした。

「何言ってるの。私だってこんな量食べきれないわよ?」

 そうイリスが反論したら、ホビィはさらなる衝撃発言をした。

「そうなのか?エルフは俺たちに匹敵するくらい良く食べると聞いているが、『ハイエルフ』は違うのか?」

「「え?!」」

 俺たちは、思わず間抜けな声を出してしまった。

 そういえば、前に助けたコティエルフの少女も結構な量を食べていたな。あまりの食べっぷりに俺たちがドン引きした位だ。

「あのね、他のエルフたちは兎も角、私は『小食』なの。夫も同じ感じだから、だと思って気にしないでくれるかしら?」

「ふ~ん、そうなのか。まあ、そういうことなら仕方ないな。」

「それよりお兄ちゃん、早く食べようよ。私お腹すいちゃって倒れそうなの。」

「分かった分かった。それじゃあ食べるとしようか。アンタ達も好きにやってくれ。」

「そうか、それじゃあご相伴に与るごしょうばんにあずかるとしよう。」

「そうね。」

 そうして、俺たちはハーフリング兄弟が用意してくれた料理を食べることとなった。

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「・・・・・・・・」

「話としては聞いていたけど、実際目の当たりにすると、信じられないわね...。」

 そう呟いたイリスは、俺と一緒に目の前にある「空」のテーブルを見ていた。

 いや、「健啖家」とは聞いていたけれど、いくら何でも酷いでしょう(悪意はない)。あの量を、食べるのか?

「ふぅ。さて、アンタ達はここに何をしに来たんだ?」

 俺たちが唖然としているところに、食事を終えたホビィが質問してきた。

「はっ。余りのことにここに来た意図を忘れていたわ。」

 我に返ったイリスが、ここに来た意図(情報収集)を説明した。

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「なるほどね~、それで、この近くに『エルフ』や『ドワーフ』が住んでいるわけね。」

 俺たちの要請にホビィが集落の者たちを集めて、彼らの話を聞いたイリスが、そんな感想を言った。

 話によると、エルフやドワーフたちは、元々この地に住んではおらず、あちこちにいたらしいのだが、人族の国が統一された後に迫害を受けて、ドワーフは山に、エルフは森に追いやられた格好になったらしい。

 ただ、山にはもともと住んでいた有翼ハーピー族、森には魔物がいて、少なからずいざこざが起こっているそうだ。

「ありがとう、いろいろ分かったわ。流石は『斥候』が得意な種族だけあるわね。」

 イリスが集まってくれたハーフリング族に礼を言った。

「なに、このくらい大したことはないから気にするな。ところで、今日はどうするんだ?泊まっていくなら宿を手配するが?」

 そうホビィが提案してくれた。気が付くと、日はかなり傾いており、もう少ししたら夜になる時間になっていた。

「そうだな、今からここをっても夜になるから、泊まらせてもらおうか。」

 そう俺が言うと、ホビィが宿の手配をしようとしたのだが、イリスが断った。

「大丈夫よ。どこか集落の外れの空き地があれば、そこに泊まるから。」

 それを聞いたホビィが「いや、だがな...。」と言いかけた時、彼の横にいたペディが肘で小突きながら小声で何か言っていた。

「・・・なるほど、そいつはうっかりしていた。分かった。じゃあ案内するからついてきてくれ。」

 そう言って、ハーフリングの兄妹は俺たちを集落の外れに案内してくれた。


「でも大丈夫?この辺りは一面の荒野だから、夜は結構寒いよ?」

 集落の外れに着くと、ペディがそんなことを聞いてきたが、イリスが「何も問題ない」という感じで答えた。

「平気よ。私達には『仮設住宅』があるから。」

「「『仮設住宅』?」」

 ハーフリングの兄妹が口を揃えてそう言っていると、いつもの様にイリスが目の前の空き地に「仮設住宅」を建てた。

「「へ?」」

 突然現れた高床住宅を見て、ハーフリングの兄妹が素っ頓狂な声を上げる中、イリスは俺の手を引いて、

「それじゃあ、私達はこれで。お休み~♪」

 と言いながら、仮設住宅に入った。

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「・・・『ハイエルフ』って、こんなことも出来るんだ...。」

 突然現れた家に呆けるホビィの隣で、ペディがそう呟いた。




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