第9話:兄と妹

「俺は『ホビィ』。ここの集落の長をしている。横にいるのは妹の『ペディ』だ。」

「・・・よろしく。」

 突然目の前に現れた2人の「子供」に、そう紹介された。

「あら、首長自らお出迎えなんて、嬉しいわね。」

「私は『イリス』、見た通り『ハイエルフ』よ。それで、隣にいるのが夫の『ケリー』。」

「『ケリー』だ。俺も見た通り『人族』だ。よろしく。」

 俺とイリスも、自己紹介をした。

 姿を見せてはくれたが、警戒しているのはひしひしと伝わってくる。まあ、そりゃそうだな。

「気を悪くしないでくれ。俺達『ハーフリング』は幾度も『人族』の襲撃を受けてきたんだ。『敵意がない』と言われて『はいそうですか』とはいかないんだ。」

 俺の考えを察したのか、ホビィがそんなことを言ってきた。

「それはそうだ。俺達だってそんな簡単に信じてもらえるなんて思っていない。まして俺は『人族』だからな。」

 俺がそう答えると、ホビィは少し警戒心を解いてくれたようだ。

「そう言ってもらえると助かる。そういう訳で、今すぐ俺たちの集落に案内することはできないが、一度戻って皆と話してくるので、ここで待っていてくれないか?」

 ホビィがそう聞いてきたので、俺たちはお互いを見て頷いた。

「そうか、助かる。では少し待っていてくれ。」

 そう言って、ハーフリングの兄妹は集落に戻って行った。

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 集落に向かって走っているホビィに、ペディが声を掛けてきた。

「お兄ちゃん、アイツらの事どう思う?」

「少なくとも、嘘はついていないな。」

「アイツらが『夫婦』というのも?」

「ああ、それは間違いないだろうな。俺たちと話しているとき、彼らは『自然』に『手を繋いで』いた。時折お互いを見つめていたしな。あれは多分『新婚』だな。」

 走りながら、ホビィはそう答えた。

「ふぅ~ん。でも、『演技』ってことはないの?」

 そうペディが聞くと、ホビィは苦笑して、

「ないな。もしお前が言う『演技』だったとしたら、彼らは凄い役者だよ。」

「仮にそうだとしたら、俺の見る目がなかったと諦めて、俺が身を挺して住民を逃がす。」

 そう断言した。

 それを聞いたペディは、少し考えて、

「・・・分かった。お兄ちゃんがそこまで言うんだったら、のことを信じる。」

 そう言って笑顔を見せた。

「すまんな。」

 ホビィはそんなペディに礼を言った。

「それにしても、『独り身』のお兄ちゃんが『そんな観察眼』を持っていたなんて、意外~。」

 そう言って、ペディがホビィの方を向いてニヤニヤしていた。

やかましいっ!お前はいつも一言多いんだっ!」

「痛っ!」

 そう言って、ペディの頭をはたいた。


「それにしても、奥さんの方は凄いね。私達の『幻影術』を見破ったんだから。」

「私、『ハイエルフ』って初めて見たんだけど、やっぱり『エルフ』の上位種だけあって凄い能力ちからがあるんだね~。」

「・・・・・・・・」

「・・・お兄ちゃん?」

「・・・ん、ああ、どうした?」

「もうっ!聞いてなかったの!?『ハイエルフ』って凄いね~、って話!」

「あ、ああ。そうだな。」

「?」

(・・・確かに「ハイエルフ」だったら俺たちの「幻影術」位は簡単に見破れるだろう。)

(だが、あの女は俺が知っている「ハイエルフ」とは「何か」違う気がする。)

(・・・何か、こう、「神々しい」というか、そんな感じが...。)

(・・・まあ、多分俺の「思い違い」だろうな。エルフと人族が「夫婦」という事が衝撃的で混乱しているのかもしれない。)

 ----------

 俺たちは、集落に行ったハーフリングの兄妹が戻って来るのを待っていた。

「さて、俺たちのこと、信じてくれるかな?」

 俺がイリスのそう聞くと、彼女は肩をすくめて、

「さあね。どっちにしても、私達は待っているしかないわ。」

 そう言ったかと思ったら、イリスが「ぐいっ」と顔を近づけてきた。

「そ・れ・よ・りっ!さっき言ったことは本気なのっ!?」

 やたらと興奮しているイリスに戸惑いながら、「さっき言った事」を思い出していた。

「え~っと、『そんな簡単に信じてくれるとは思わない』ってこと?」

 そう言うと、イリスはさらに顔を近づけて、

「その前っ!!何であんなこと言ったのっ!!?」

 その前?...あ~、「俺が襲う素振りを見せたら遠慮なく『殺してくれ』」か。

「あれは、『そのくらいの覚悟でいる』という意思表示だよ。本当にそんな事してほしいなんて思って...?」

 そう言っていたら、イリスが抱き着いてきた。結構きつく抱きしめられている。

「・・・たとえそうだとしても、そんなことは言わないで?もし、そんなことになったら、私...。」

 イリスは、そう言って目を潤ませながら吐息が掛かる距離まで近づいてきたと思ったら、

「・・・『何をするか分からないから。』」

 低い声でそう呟くと、能面のような顔無表情になり、瞳から光が消えた。

 やばいやばいやばい、この状態の天照様は非常に拙い!!

「わ、分かった分かった!二度とそんなこと言わないからっ!!」

 俺が慌ててそう言うと、瞳に光が戻り、イリスはいつもの様に「天使の笑み」を見せた。すると、

「じゃあ、約束...。」

 と言って、首に腕を回してキスをしてきた。


 暫くそうしていると、ふと人の気配がしたので、そちらに目を向けると、

「すまない、待たせたn...、おっと、これはすまない。」

 俺たちを見たホビィが気まずそうな声で言ってきた。

 後ろでは、ペディが「ひゃあ~」と悲鳴をあげながら顔を真っ赤にして手で顔を覆っている。手の隙間からしっかりガン見していたけど。

 すると、イリスは俺から唇を離してハーフリングの兄妹に「妖艶な微笑み」を向けながら、

「あら、もう戻ってきたの?ゆっくりしててもよかったのに。」

 とやたら艶っぽい声色で言った。

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「全く、勘弁してくれよな?俺みたいな「独り者」には目の毒だぜ。」

 呆れた声で、ホビィが俺たちを見ながらそう言った。

 ペディの方は、いまだに顔を真っ赤にしてもじもじしている。

「すまんすまん。それで、どうなった?」

 俺は頭を掻きながら、そう聞いた。イリスは俺の腕を組んでニコニコしている。

「おう、話は付けてきたぜ。それじゃあ案内するからついてきてくれ。」

 そう言って、ハーフリングの兄妹に連れられて、彼らの集落に向かった。

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