第12話:これまでとこれから

「いやー、助かったよ。ありがとう。」

 この集落の長であるホビィが、俺たちに対して頭を下げた。

「気にするな。まあ、やったのはイリスで俺は何もしていないけどな。」

 そう俺が言うと、ホビィは頭を振って否定した。

「何を言っているんだ。同胞の傷を治してくれたじゃないか。」

 ワイヴァーンとの戦闘後、傷ついたハーフリングの人たちを俺とイリスが手分けして治療して回ったのだ。

 以前イリスから「太陽神の加護があるから戦闘力が大幅に上がっている」という事だったので、もしかしたら治癒魔法も出来るのではないかと思ったら出来た。

 ついでに燃えていた家などを「魔法の練習」という名目で水魔法を使い消火して回った。

「私からもお礼を言います。ありがとう、キリーさん、イリスさん。」

 ホビィに続いてペディも頭を下げてお礼を言った。

「良いわよそんなにかしこまらなくても。それで、これからどうするの?」

「これからとは?」

 ホビィが、イリスの質問の意図が分からなかったため聞き返した。

「今回は何とかなったけど、これから先も必ずあいつらはちょっかいを出してくるわよ?それについて『これからどうする』って聞いてるの。」

「う~~~~~ん...。」

 イリスの説明にホビィは考え込んでしまった。

アンタホビィには言っておいたけど、私達が手を貸すのは『今回だけ』。自分たちの問題ぐらい自分たちでなんとかしなさい。」

「・・・・・・・・」

 イリスがそうきっぱり言うと、ハーフリング族は困惑した表情を浮かべた。

「そう言われても、俺たちは戦闘力が皆無なので、逃げるしか手がないが...。」

「かといって、何時までも逃げ続けられるわけがないことは分かっているんだ。」

 ハーフリング族の人たちは、自分たちの置かれている状況について、それぞれの思いを口にしだした。

 そんな姿を見ながら、俺は以前から疑問に思っていたことを聞いてみた。

「あのさ、素朴な疑問なんだけどさ、他の種族と共闘するってことはしないのか?」

 俺がそう聞くと、皆は「?」という顔をした。

「何言っているんだ、異なる種族と一緒に何かするという事はありえないぞ?アンタ達みたいに異種族で「夫婦」なんて、いまだに信じられないくらいなんだからな?」

 ホビィが呆れたような声で、俺の問いに答えた。

 そう言われれば、はじめて彼らと会ったときに、警戒(困惑)しているってイリスが言っていたな。

 ホビィの話によると、彼らハーフリング族は、人族とは「敵対」しているものの、エルフやドワーフと言ったその他の種族に対しては、「不干渉」の立場をとっているようで、どうやら「この世界」ではそれが「常識」らしい。

「成程、そういう事なら、前に助けたエルフたちの事も納得ね。」

 イリスが、俺にしか聞こえない声量でそう呟いた。

 しかし、それでは絶対数に勝る人族に勝てるわけがないな。彼らの話から、ハーフリング族は戦闘が苦手なようだし。

 そんなことを考えていると、イリスがじっとこちらを見ていた。「もしかして、肩入れするの?」と言いたげに。

「心配しなくても、肩入れはしない。いつまでも彼らと同行する訳にはいかないし、するつもりもない。」

 俺がそう言うと、イリスは安心したような表情を見せた。

 エルフの時もそうだったが、俺たち二人はこの世界にとっては「異分子イレギュラー」で、さらにイリスはこの世界の「創造神」と同格の「最上位神天照大神」なので、「この世界」では非常に危険な存在なのだ。

 そのことを、俺もイリスも重々承知しているので、「特定の種族」に肩入れをしないようにしている。

 なので、今回や前回のエルフ達のように「仕方なく」接触しても、必要最低限の関りしか持たないようにしているのだ。

 イリスがよく口にする「自分たちのことは自分たちで解決しなさい」というのも、実はこういった理由で「関われない」ためで、「私(達)に依存するな」という意味もあるのだ。

「これからのことは、皆とよく話し合う事ね。連中もすぐに襲ってはこないと思うけど、それでも悠長に考えている時間はないと思った方がいいわよ。」

 イリスは、ホビィに向かってそう言った。

「・・・分かった。それは皆と考えるが、それとは別に今回助けてくれた礼がしたい。何か欲しいものはあるか?」

 ホビィはそう尋ねてきたので、俺たちは悩むことなくこう言った。

「それじゃあ、アンタ達が持っている『この世界』の『』情報を教えてくれるかしら?特に『キトナムフロボン国』のことをね。」

「さっきの事でわかるように、俺たちはあまりその辺この世界の常識について詳しくないんだ。なので、いろいろ教えてくれると助かる。」

 俺たちの要求にホビィは快く答えてくれた。

 ----------

 流石は「敵情視察」や「偵察」を得意とする種族だけあって、いろいろな情報を知ることができた。特に、「キトナムフロボン国」の詳細な情報は有り難かった。

「それで、2人はこれからどうするんだ?」

 ホビィがそう尋ねてきたので、イリスがこう答えた。

「そうね、アンタ達がこれからどうするかを決めるまでは、ここに居させてもらうわ。」

「そうか、そうしてくれると正直助かる。」

 ホビィ達は、イリスの答えに安堵の表情を浮かべた。

「それじゃあ、私達は家に戻るから、決まったら教えて頂戴。」

 そう言って、俺とイリスは集落の外れに建てた仮設住宅に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る