第7話:個と群

 ここは襲撃されたエルフの集落から少し離れた平原。

 そこに、小さな「砦」のようなものが建っていた。


「いやー、昨日の『遊び』は楽しかったな~。」

 無精髭を生やした男が、手に持っている短刀をくるくる回しながら言った。

「だな。あの恐怖に陥った顔を見ながらなぶり殺すのは、いつやっても堪らねぇな。」

 筋骨隆々の男が、長剣の手入れをしながら典型的な「悪人」のような顔で笑っていた。

 そう言った連中が、この砦に20人ほどいて、昨日の出来事について話していた。

 砦と言っても、昔軍が使っていて役目が終わったので放置されていた所をならず者たちが根城として使っていて、砦の機能ははぼなくなっていた。

「しかし、戦利品は碌な物がなかったな。」

「仕方ねえよ。『亜人』のちっぽけな集落だからな。」

「まあいいや、久しぶりに『狩り』を楽しめたからな。」

 連中はそんなことを言って笑っていた。

 この連中は、ならず者だが騎士崩れや傭兵、素行の悪さで爵位剥奪された元貴族などがおり、そこそこの実力者が集まっていた。

「しっかし、ババアとガキしか女がいなかったな。ったく、折角甚振いたぶりながら殺してやろうと思っていたのにな~。」

「『ヒトモドキ』に欲情するなんて、お前も物好きだよな~。ま、俺も他人の事を言えた義理じゃねえけどな。」

 そんなことを言って笑っていた時、連中の一人が視界の端に人影を見つけた。

「おい、誰かこっちに歩いてきているぞ?」

 ならず者たちから緊張が走った。

「もしかして、『軍』の連中か?」

 ならず者たちのリーダーらしき者が、人影を見つけた奴に問いかけた。

 最近、この国「キトナムフロボン」では、国内の秩序安定のために、各地に部隊を派遣して、秩序を乱すならず者たちを「排除」しているのだ。

「・・・いや、数が少ない。連中とは違うようだ。」

 目を細めて確認していた男が、そう言うと、別の男が安心したような顔をして、こう言った。

「何だ、流れ者が俺たちの噂を聞いて仲間になりに来たのか?」

 実は、このならず者の集団は、居場所を転々としながらいろいろな所で「亜人狩り」をしていることが「その手の連中」の中では知られている。

 そのため、「そういう事をしたい」輩が仲間になるため時々尋ねてくることがあるのだ。

「どうだ、どんな奴か分かるか?」

「・・・『二人組』だな。男と女の組み合わせだ。」

 望遠鏡を覗いていた男が、近づいてくるものを確認していた。

「ほう、女か。そりゃあいい。」

「・・・ったく、お前は相変わらず節操がないな。程々にしておけよ?」

「わかっているさ、へっへっ。」

 横にいる奴に呆れながらそう言った。

「・・・ん、ちょっと待て。」

「どうした?」

「男の方は俺たちと同じ人族だが、女の方は...、『エルフ』?」

「なんだと?どういうことだ、人族とエルフが一緒に来るなんてありえんぞ!?」

 近づいてくる人物を確認していた男の報告を聞いて、連中の一人が声をあげた。

「まあ待て。男の方がエルフを捕まえてこちらに来ているのかもしれんぞ?」

 ならず者のリーダーがそう言うと、確認している男はエルフの様子を見た。

「・・・いや、そんな様子はない。」

「何?どういうことだ...。」

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「連中、俺たちに気が付いていると思う?」

「多分ね。気が付いていなければそれはそれで好都合よ。」

 俺たちは、エルフの集落を襲った「元凶」がいるであろう砦に向かっていた。

 俺が「夜まで待たなくてもいいんですか?」と天照様イリスに聞くと、「いいんじゃない?どちらにしても、結果は一緒だから、さっさと片付けましょう。」とのことだ。

 さて、連中はどう動くかな?

『止まれ、そこの二人組!ここに何の用だ!?』

 砦の方から、連中の声が聞こえてきた。

「まだ距離があるのに俺たちを確認できたか...、『望遠鏡』でも持っているのかな?」

「『銃』を持っているなら、『望遠鏡』位は持っているでしょうね。」

「それと、ここまで声が聞こえてくるという事は、『拡声器』を使っているのかな?」

「・・・多分、風魔術に声を乗せているみたいね。魔力を感じるから。」

 俺とイリスは、今の現象をそんな感じで分析していた。

「で、どうする?連中の警告通り止まって?」

「ふふっ、旦那様は面白いことを言うのね。まあ、連中のいう事なんて『当然』無視するけどね。」

「だよね~。」

 俺たちは笑いながら連中の警告を無視して歩き続ける。

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「頭!奴等無視して歩いてきてますぜ!」

 望遠鏡で主人公たちの様子を見ていた男が「かしら」と呼ばれるならず者のリーダーに向かってそう叫んだ。

「俺たちの警告を無視するたァいい度胸だ。おい、ちょっと脅かしてやれ。」

「へい。」

 頭がそう指示すると、一人の男が「マスケット銃」を持ってきた。

は当てるなよ?」

「わかってますって。」

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 ダァーーーン

「連中、撃ってきたわね。」

「恐らく『威嚇いかく射撃』だろうね。しかし、結構距離が離れているのに撃ってくるってことは、連中高性能の銃を持っているってことかな?」

「どうかしら?次に撃ってきたら分かるかもしれないわね。」

「次は『狙って』くる?」

「多分ね。」

 連中のいる砦からここまで前世の距離で約500mくらい離れている。もし俺が予想している「拳銃」だと、最大射程は200mぐらいだからここまで届かないはずだ。

 何でそんなことを知っているのかというと、高校の時に行った修学旅行(海外)で、射撃体験をしたのをきっかけにちょこっと調べたことがあったからだ。

 ダァーーーン

 再び銃声が鳴ったが、何も起こらない。

「届いていないわね。」

「だね。普通、飛び道具を使う時は『射程距離』を確認するんだけど、これはしていないね。」

「多分、今までこんな離れた標的を撃ったことがないんでしょうね。」

「バカだね。」

「バカね。」

 俺たちは、そんな感想を言ってさらに歩き続ける。

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「てめえっ、ちゃんと狙って撃ちやがれっ!!」

 頭が射撃手に向かって怒鳴った。

「ちゃんと狙ってますよ!だけど当たらねぇんです!!」

「ちっ、俺に貸してみろっ!!」

 頭が射撃手から銃を奪い取ると、主人公たちに向かって撃った。

 ダァーーーン

 ・・・・・・・・

「くそっ!何で当たらねえんだっ!!」

 狙って撃っても主人公たちに当たらないため、頭は癇癪かんしゃくを起こしていた。

「頭っ!今ので火薬と弾が無くなっちまった!!」

「くそっ!仕方ねぇ、弓を使うぞ!もってこい!!」

 弾切れで銃が使えなくなったので、元来の長距離攻撃手段の弓を使おうとしたが、

「頭っ!弓はこの前『どうせ使わねぇから捨てちまえ』って言われたので、全部捨てちまいましたっ!!」

「ちくしょう!おい、『火薬玉』を持ってこい!」

「し、しかし頭、ここからじゃあ奴らに届きませんぜ!?」

「お前に言われなくったって、んな事ァ分かってらあ!奴らが近づいてきたら投げつけてやれっ!!」

「「「へいっ!!」」」

 主人公たちが予想していた通り、ならず者たちはマスケット銃の「射程距離」を確認していなかったのだ。

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「撃ってこなくなったわね。」

「多分、『弾切れ』じゃないかな?昨日の襲撃と今ので弾か火薬が尽きたんだろうね。」

「そういう事か。でも、『弓矢』で攻撃してこないのが分からないんだけど、何でかしら?」

「これも推測だけど、『銃』の性能を過信て、弓を破棄してしまったんじゃないかな?」

「あー、成程ね~。どうやらあの連中って、行き当たりばったりで今までやってきたんでしょうね。」

「俺もそう思う。」

 俺たちは、何事もなかったように(実際なかった)砦に向けて歩いて行く。

「ところで、どうしますか?」

「何が?」

「いえ、このまま歩いて行ったら、爆弾を投げられると思うんですよ。」

「そうね。」

「爆弾の威力にもよりますが、天照様は兎も角俺が食らったらダm『今すぐするわ。』」

 俺が言い終わる前に、イリスが決断した。

「でも、『処分する』っていっても、どうするんですか?遺体や血痕が残ったら面倒なことになりませんか?」

 そう聞くと、イリスは俺の方を向いていつもの「天使の笑み」を見せた。

「大丈夫よ。痕跡なんか残さない『やり方』をするから。」

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「お頭、あいつら立ち止まりましたぜ。」

「ちっ、こっちの作戦を読みやがったな。」

「どうします、頭。討って出ますか?」

 頭は少し考えて、観察している男に聞いた。

「おい、あいつらはどんな武器を持っている?」

 すると、観察している男は意外な事を言った。

「・・・いえ、何も持っていません!」

 それを聞いた頭は、ニヤリと笑った。

「ほう、俺達に対して『丸腰』たァ、随分と舐められたもんだ。」

 頭は、そう言うと手下たちを見回して、こう叫んだ。

「行くぞお前ら!舐め腐ったアイツらに、とっておきの地獄を味合わせてやるんだっ!!」

「「「おうっ!!」」」

 全員が頭のげきに応えて、砦から飛び出して主人公たちに向かって行...こうとしたら、なぜか全員地面に倒れてしまった。

「な、何だっ!どうしたんだっ!?」

 頭が起き上がろうとした...が、何故か足に力が入らない。

 慌てて自分の足元を見ると、何と自分の足が「消えて」いたのだ。

 自分の身に何が起こっているのか理解できないでいると、

「な、何だ!?何で俺の足が!??」

「どういうことだよっ!?何で足が無くなっているんだよぉっ!!!」

 と手下たちの叫び声が聞こえたので見てみると、自分と同じように足が無くなっていた。

 ふと外を見ると、エルフの女が腕を突き出しているのが見えた、ような気がした。

「くそっ、あのエルフの仕業かっ!?」

 そう叫んだ時、体に異変が起こっていることに気が付いた。

 頭が自分の身体を見た時、我が目を疑った。

 なんと、自分の身体が徐々に「消えて」いるのだ。

 周りを見ると、同じように体が消えて行っており、やがてすべて消えてしまった。

「ちくしょう、何をしやがったn」

 そして、頭が最後まで言い切る前に、すべて消えてしまった。

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「分解?」

「そう、『分解』。」

 俺たちはならず者たちが砦の中に入っていた。

「私の身体は、ここに転生するときに私が『造った』の。今回はその『逆』をしただけ。」

「あー、成程。『体の組織を分子レベルに』したわけですね。」

「そそ。流石は旦那様。その通りよ。」

「確かに、それだと『痕跡』は残りませんね。」

「そういうこと。」

 そんなことを話しながら、砦の中を調べていた。

「旦那様、あったわよ。」

 どうやらイリスが目的のものを見つけたようだ。

「どれどれ...、これは『マスケット銃』かな?」

「ますけっとじゅう?」

 俺の言葉を聞いたイリスが首を「コテン」と傾げた。やべぇ、俺の嫁天照様可愛い。

「うん、銃の中でも初期の頃のものだね。『火縄銃』の大きいものと言った方が分かりやすいかな?確か『有効射程距離』は50mぐらいだったと思う。」

「あと、この丸い玉は『火薬玉』だね。これも初期の爆弾で、導火線に火をつけて投げるんだ。」

「ふーん。という事は、旦那様が危惧していた物より性能が低いわけね。」

「そうだね、それじゃあ、これも『処分』してくれる?」

「わかったわ。」

 イリスがそれらに向かって手を翳すと、綺麗さっぱり消えてなくなった。

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「それで、この『砦』はどうするの?消しちゃう?」

「そうだね。消しちゃおうか。あ、ただ全部消すと怪しまれるかもしれないから、『朽ち果てた』風にしたほうがいいかもね。」

「分かったわ。それじゃあ、土台部分をちょっとだけ残しておくわね。」

「うん、よろしく。」

 こうして、後願の憂いを断った俺たちは、エルフたちが向かった方向とはに歩き出した。

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