第4話:嫁と少女
「・・・う~ん、どうしたものか...。」
俺は、今の状況をどのようにすべきかを考えている。
と言うのも、イリスの「空間転移術」で川を渡った先に、「エルフ」と思われる少女がうつぶせに倒れているのを見つけたからだ。
なぜ「エルフ」だと思ったかと言うと、横で様子を見ているイリスと顔の特徴がそっくりだからだ。
見た目は10歳ぐらいで、服は所々破れており、体には細かな切り傷がある。息はしているようなので、死んではいないようだ。
恐らく、何者かに追われて森の中を逃げてきて、この場所で力尽きたんだろう。
横でイリスが無表情で「新婚生活を邪魔する『害虫』...。」と呟いていた。思いっきり本音が駄々洩れしているが、聞かなかったことにする。
ちらりとイリスの方を見ると、俺の視線に気付いた彼女は、俺の顔を見てこう言った。
「この子の処遇は旦那様に任せるわ。私はそれに従うから。」
とは言っているものの、この子を見る彼女の目は明らかに「邪魔者」として見ている。
とにかく、見つけてしまったからには放っておくわけにはいかない。
「なあ、イリスって『鑑定』魔法みたいなのは使える?出来るのであれば、この子に使ってほしいんだけど。」
横にいるイリスにそう聞くと、
「・・・使えるけど、なんで?」
うわぁ~、「何でそんなことをするの?そんなにこの子が気になるの?」って感じだわ~。
「いや、毒とか受けていないかと思ってな。見た目ではわからない異常があると拙いから。」
と言ったが、イリスは「ふぅ~ん」と返事をした。
その返事を受けて、なんとなく察した俺は、
「いやいや、
何か言い訳じみているが、そう言うとイリスは「ぱあっ」と表情を明るくし輝くような笑顔を見せて、
「分かったわ!この位の事、お茶の子さいさいよっ!!」
などと、妙に張り切っていた。
もしかして、天照様って嫉妬深い?いや、新婚ホヤホヤで旦那が他の女に興味を示していたら不機嫌にもなるか。
程なくして、イリスの「鑑定」が終わった。どうやら、毒の類は受けていないようだ。
あと、矢張りこの少女は「エルフ」ということだ。
「それで、この子どうするの?引っ叩いて起こす?」
などと、過激な事を言ってきた。
「いやいや、そこまでしなくてもいいだろう。とりあえず、そこの木陰に寝かせて様子を見よう。」
俺がそう返すと、イリスは若干不満そうな顔をしたが、俺の言に従ってエルフの少女を木陰まで運んでくれた。
しっかし、
川辺に腰を下ろした俺とイリスは、木陰で眠っているエルフの少女を見ていた。
あ、彼女の傷は俺が「お願い」してイリスが治してくれた。
「ところで、彼女の傷の状態から、何かに追われていたように感じたんだけど、どう思う?」
徐に俺がいつも以上にくっついてくるイリスに尋ねると、彼女はエルフの少女を見ながらこう答えた。
「それは私も思っていたの。それで、この付近を探知してみたんだけど、そう言った『魔物』は見つからなかったわ。」
流石は天照様。俺程度が気付くくらいだから、天照様が気付いていても何ら不思議ではない。
さて、先ほど言われたが、「魔物」は...、ということは、それ以外の「何か」に追われていたという事か。「追われていた」のが事実であれば、だが。
そんなことを考えていたら、イリスが俺の顔をじっと見つめていた。気のせいか、顔が上気していて瞳をうるうるさせている。
「どうかしたの?」
俺がそう言うと、イリスが徐に跨ってきた。
「何だか、旦那様にくっついていたら、体が火照ってきちゃった。」
そう言うと、イリスは顔を近づけ、吐息がかかる距離まで接近してきた。
「旦那様...。し『うぅ~...ん』」
イリスがそう言いかけた時、エルフの少女のうめき声が聞こえた。
「イ、イリス。どうやらこの子、気が付いたみたいだよ?」
俺が顔を逸らしてエルフの少女の方を見ると、イリスが「ちっ」と舌打ちした。
「・・・ここは...?」
少女はゆっくり起き上がると、辺りを見回し始めた。
「やあ、気が付いたみたいだね。」
俺は、なるべく刺激しないように優しい口調でエルフの少女に話しかけた。
その声に反応して俺の姿を見た少女は、驚いたような表情をして、
「ヒッ!ニンゲンッ!!」
と叫んで、後ずさりをした。
そんなに驚かなくてもいいのに、とか思っていたら、
「来るなっ!あっちに行けッ!!」
そう叫びながら、手元に落ちていたものを手あたり次第投げてきた。
「ちょ、ちょっと落ち着いて...。」
俺は、投げつけられてくるものを「全て」
しかし、少女は興奮しているようで、
「お前もアイツらの仲間なんだろうっ!!この人殺しっ!!!」
と、俺に向かって叫んだ。
すると、俺の後ろにいたイリスが「はァ?」と言ったかと思ったら、物凄い速さでエルフの少女の目の前に移動すると、
「おいコラ、人の旦那を捕まえて『人殺し』たぁどういうことだぁ?」
と、普段の口調とは正反対の低くドスの利いた声で少女の顔を鷲掴み(
イリスは、鷲掴みにされて手足をジタバタさせている少女を高々と持ち上げると、
「うちの旦那が『親切』で助けてやったと言うのに、何だその言い草はァ?このまま握りつぶしてやろうか、あぁン?」
と、まるで
うわぁ~、天照様がブチ切れていらっしゃるよ~。怖ぇ~。
しっかし、「あの」天照様をブチ切れさせるなんて、このエルフの少女は凄いな~。
・・・ではなくって、止めなくちゃ!!
「天照様っ!!この子は興奮していただけですから、許してやってくださいよっ!!」
俺がそう叫ぶと、イリスは動きを止め、ゆっくりと俺の方を向いた。
うわぁ~、
「ほらっ!俺はどこも怪我していないからっ!その辺で勘弁してやってくれませんかっ!?」
更にそう叫ぶと、イリスはいつものような「天使の笑み」を見せ、鷲掴みにしていた手を「その場で」離した。
エルフの少女は、重力に逆らうことなく「そのまま」地面に落ちて、痙攣していた。
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