第85話

「そうさね。あんたが、この質問に答えてくれたら全ての質問に答えようかね。悪くないだろ?」

「質問?」

 ジリナの提案にフォーリが身構える。

「まあまあ、そう恐い顔をしなさんな。」

 言いながらフォーリの顔を見上げる。ジリナには勝算があった。本当のことを言ったらみんな怖がるだろう。

 相手を見ているだけで、なんとなく相手の過去や家族など必要なことがらが見えてくるのだ。たとえ本物そっくりに変装していたとしてもジリナは見抜くことができた。だから、ジリナには勝算がある。反応があるはずだと勘が告げている。ただ、そうはいっても確証まではない。

 だから、フォーリの反応を見て確かめようと思っている。相手はニピ族だ。表情を出さないように訓練されている。その相手から反応を引き出さなくてはならない。

 方法は一つだ。先手必勝。フォーリに何も考える余裕を与えないことだ。

「あんた、ウィームを知ってるかい?」

 思いがけない名前を聞いたように、フォーリが一瞬、考え込んだ。次の瞬間、辺りが真っ暗になってジリナは胸ぐらをつかまれ、背中を壁に押しつけられていた。当たりだ、とジリナは確信した。

「どこで、その名を聞いた?」

「王宮だよ。さっき言っただろ。王宮で働いてたって。」

 手を放せと言っても無駄なので抵抗せずにさっさと話す。

「言っただろう。質問に答えたら全てを話すと。まあ、いいさ。その反応からして知り合いというより、兄弟なんだろ? お兄さんかい?」

 ジリナの指摘にフォーリが息を呑んだのが分かった。ニピ族だって人間だ。無情にあるじのみを助けるように思われているが、親兄弟の情がないわけではない。むしろ、普通の人達より情が深いとジリナは分析していた。自ら主人と決めたら、命がけで赤の他人を守ることができるのだから。

 フォーリの手に少しだけ力が加わったが、結局、力を緩めてジリナを解放した。

「わたしはウィームを知っている。顔立ちや雰囲気が似ていたから、もしやと思ったのさ。」

「それでは、仕えていたのはまさか……。」

 ジリナの言葉を聞いて、さすがのフォーリの声も微かに震えていた。

「先の王妃様さ。ウィームはあんたのお兄さんだろ? 先の国王様の護衛だっただろう。」

「……王宮に勤めていたのは間違いなさそうだな。」

 フォーリは自分自身を落ち着かせるように、ため息をついた。

「指摘通り、ウィームは私の兄だ。」

「おや、答えてくれるとは以外だったよ。」

 ニピ族は秘密主義だ。主を守るためにもそうする。だから、フォーリが答えたことはジリナにとって本当に意外だった。

「そういう約束だ。」

 思わずジリナは笑った。どうやら、若様に仕えているのは真面目な者達ばかりらしい。親衛隊の隊長といい、フォーリといい真面目な青年達である。

 しかし、暗くて分からないがフォーリは笑われてムッとしているようだ。

「いや、失礼。義理堅いというか、あんた、真面目な男だね。わたしはね、知っちゃ行けないことを知って、王宮を辞したんだ。そして、都にいたら危ないと思って田舎を探して移り住んだ。ちょうどベブフフ家で働き口があってね。だから、今から話すことも全て本当は墓場まで持っていくつもりだったよ。」

 ニピ族の情報網は侮れない。知られたくないことをつつかれるのだったら、自分から話しておいた方が無難だ。話したくないことは隠しておける。おおよそ話して主に関係ないと分かれば、それ以上は追求してこない。


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