第81話
どうりで、いつも淡々としているとしているジリナが、感情を
「……あの、シルネとエルナは打ち首ですか?」
村長は声を振り絞って尋ねた。勝手に震えてしまう。
「……そうですね。このままでは。」
しばらくの沈黙の後、シークが答えた。
最初は分かっていなかったのだが、近くの街のヒーズに行った時、国王軍で下働きをしている甥に親衛隊の隊長はどれくらい偉いのか聞いたら「叔父さんより上だよ。ずっと上さ。」とはっきり言われた。続けて「だから、村長だと威張らないでよ、田舎もんの世間知らずだと言ってるようなもんだから。」ときっちり釘を刺された。
さらに「セルゲス公の護衛の親衛隊長は、有名な十剣術のヴァドサ家だって。まかり間違っても怒らせないでよ。ヴァドサ家は真面目なことで有名で、その上、国王軍の入隊率が高い。規律違反でもしたら即刻首を
だから、シルネに馬鹿なことをしないよう、注意しておけと言われていたのだが、まさか、商人に
その怒らせてはいけない若造を怒らせる状況になっている。
「あの……その、隊長殿、む、娘達の命だけはどうか――。」
「若様を殺す計画に加担しておきながら、命だけは助けろと命乞いするのか?」
村長がシークに頼み込もうとした時、扉が開いてフォーリが入ってきた。すこぶる機嫌が悪く、全身から殺気がみなぎっている。
「しかも、若様のことを聞くこともせずに、自分の娘の命乞いを始めるとは。」
順番を間違えたことを悟った村長は、床に這いつくばるようにして平伏した。
「――も、申し訳ございません! その、わ、若様の具合はいかがなのでしょうか?」
フォーリはそんな村長を冷たく見下ろした。
「今さら聞くのか。どっちみち若様は害された。我々ニピ族について、少しは聞いているだろう?」
「へ? な、何を――。」
「主を害した者を決して許さない。」
地から響くような低い声を聞いて、村長は恐怖で震えた。シルネとエルナもガタガタと音がしそうなほど震えている。
村長の前にフォーリが足音もなく立った。ふっと射した影に釣られて村長が顔を上げると、ちょうどフォーリが帯から鉄扇を抜いた所だった。
「これが何か分かるか?」
「…へ、ぇ?」
村長は恐怖のあまり、まともに声を出せないでいる。
「我々の武器である鉄扇だ。よく見ておけ。今からお前の娘が死ぬ所を。」
「!」
フォーリが隣のシルネに向きを変える。
「あ、どうか! どうか、お願いします、どうか、命だけはお助けください!」
村長はフォーリが本気だと察し、慌ててフォーリの足下に這い寄り、彼の靴に額をこすりつけるようにして娘の命乞いを始めた。
「邪魔だ。どけ。」
「お願いします! わしを代わりに殺してください! わしが死にますから、どうか、娘の命だけは、お助けください!」
「誤解しているな。我々は無関係の人間の命は取らない。たとえ、親であっても罪を犯していない人間の命は取らない。」
「……そんな。」
はっきりしたフォーリの態度を見つめ、村長は呆然とした。すっとシルネの前に立ち、鉄扇を振り上げる。
「お助けください! どうして何も言わないで見ているんですか! 助けてください!」
村長が黙って成り行きを見ているシークを思い出して叫んだ。しかも、頼んでいる割には偉そうである。
「ヴァドサに頼んでも無駄だ。親衛隊長は護衛する王族を害そうとした者を、
シークが何か言う前に、フォーリが
「…残念ですが、そういうことです。フォーリであれば血を流さなくて済みます。」
仕方なさそうに答えるシーク。だが、それはシルネをどうやっても助けられないということでもあった。村長は絶望して今度はジリナを見上げた。だが、ジリナでもどうにもできない。
「覚悟しろ。お前の浅はかさを恨むのだな。」
フォーリがシルネに言うと、シルネはガタガタ震えながら、とうとう粗相して漏らした。
「……あ。」
さすがに恥ずかしさもあったのか、唇をかみしめながらうつむく。
「すぐにすむ。」
そうフォーリが言って、鉄扇を振り下ろそうとした時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます