第46話

 親衛隊の働きぶりに、当初ジリナはおどろいてばかりだった。母のジリナがびっくりしていたので、そういった雑用は親衛隊がする仕事ではないのだとセリナも含めた村娘達は実感した。

 しかし、若様がフォーリを寝かせたいのは、心配しているからだけなのかな、と少し思う。セリナと二人になりたいからという理由だったら、気分がもっと盛り上がるが、森の子族と同じ扱いのセリナなので、たぶん、それはないだろう。

 もしかしたら、若様も常にフォーリと一緒なのは、少々気疲れする時があるのかもしれない。それに、普通の少年だったら反抗期のはずだ。村の少年達は親の言うことを聞かずに遊んだりして、こっぴどく叱られたりしているのを、しょっちゅう目にする。食いっぱぐれたら大変なので最低限の仕事はしているが、仕事を放りがちなのである。

 ただ、若様の場合はどうなのだろうと少し心配していた。若様も四六時中フォーリがいるのは少し面倒なのかもしれない。そう思えば少しおかしかったし、普通の少年らしさもあって良かったとも思う。

「それでは、また明日。失礼します。」

 挨拶をして厨房ちゅうぼうを出た。実際の所、今日はセリナが早く帰る日だったので、今が挨拶できる最後の機会だった。

 村娘達が使う控え室に向かい、周りを確認してから自分の荷物を出した。巾着袋の中に入っている物を確認し、戸棚の奥底に隠している本物の中身と取り替えて偽の中身を隠すと立ち上がった。こうでもしておかないと、シルネやエルナに何をされるか分からない。

 屋敷にいる間、セリナはなんとか平静を保った。リカンナの前でも普通でいるように心がける。明日、若様とお出かけすると言ったら、リカンナはないにしても他の村娘達から、どれだけやっかみを買うか分からない。そういう話に限って誰かに聞かれたりするのだ。

 それでも、何か機嫌が良さそうだと指摘され、今日は何も失敗しなかったからだと取り繕った。

 皿を割った日の夜は最悪だった。ジリナにみんなの前でこっぴどく叱られた後、単独で呼び出された。暗い裏庭で、もう一度状況の説明をさせられた。実は傷をつけてしまったと言うと、ジリナはため息をついて言ったのだ。

 フォーリに助けられた、と。最初に傷をつけてしまったため、わざとセリナを驚かせて皿を割るように仕向けたのだろうと言ったのだ。

「まあ、あのフォーリ殿にしても、あんたが皿を投げるとは思わなかっただろうけどね。」

 暗かったのでよく分からなかったが、あの時ジリナは苦笑いしていた。それを聞いたセリナは余計に落ち込んでしまったのだった。

 そういう事情を知っているので、セリナの言い訳にリカンナは納得したらしかった。最近、リカンナに対しても隠し事が多くなってきているが、仕方ない。

 リカンナにだけは、若様とお出かけすると本当は言いたい。でも、本当にあのフォーリが黙って寝ているのか、疑問ではある。そう、それが疑問なのだ。黙って寝ているだろうか? それを考えると、お出かけ自体がなくなる可能性もあるし、フォーリと一緒かもしれない。それなら、いつものことである。

 だから、リカンナに言ってもぬか喜びさせるだけかもしれないので、黙っていることにしようとセリナは、自分を納得させた。

 リカンナには二人の仲に進展があったら伝えるように言われているが、それに、これは本当に進展なのか分からなかった。ひそひそ話をしてくれるようにまでなった、と考えれば進展かもしれない。

 そんなことを考えながら歩いているうちに、家に着いてしまったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る