第21話
「……どうしよう。このまま日が暮れちゃったら。それに、崖から落ちていたら大怪我をしているかもしれない。」
日が陰ってきた山の中で、心配になってきたセリナは思わず言った。本当に見つかって欲しかった。セリナよりも可愛い顔で、セリナにべっぴんさんで綺麗だと言ってくれた人だ。それだけではない。本当はとても優しくて、人が死ぬことに心を痛めている。そんな人がどうして、命を狙われて殺されなくてはいけないのか。
フォーリが一生懸命、命がけで若様を守ろうとする気持ちはセリナもよく分かる。
「…ねえ、あんた。聞いてる?」
リカンナの呼びかけに、セリナはやっと振り返った。
「もう、聞いてなかったでしょ。」
「…ごめん。」
若様のことが不安で、考え事に集中してしまっていた。
「ほら、崖って言ってたでしょ。崖だったら確かにあるけど、道に迷ったどころじゃないよ。大幅に道から逸れちゃう。若様はおそらく道に迷わないと思う。歩き方がしっかりしてた。それに、あんなにみんなに守られてるのに、どうやって迷うのよ。」
「そうよね。あんたの言うとおりよ。」
セリナは不安を隠しながら頷いた。
「見た目よりも鍛えてるようだったし、だから、あたしが言いたいのは、もし、崖下に転落してたら、間違いなく事故じゃないってことだよ。誰かに――」
「しーっ!」
セリナは急いでリカンナの言葉を遮った。
「誰かに聞かれたらどうするの…!」
つまり、この状況なら、誰か味方だと思っている人が犯人の可能性が出て来るのだ。焦ってリカンナの発言を遮ったセリナだったが、リカンナの言葉が正しいかもしれないことは分かっていた。
「でも、あんたの言うとおりだね。行ってみよう。念のため行ってみて、いなければそれはそれでいいんだし。わたし達も安心できる。」
「うん。そうしよう。早くしないと日が暮れちゃう。」
二人は深刻な顔で頷き合うと、急な斜面がそのまま崖に続いている場所に向かった。普段は近づかない。足を滑らせたら危険なので側を通るだけだ。
セリナとリカンナは、だんだん暗くなり始めた山道を急いだ。山の日は落ちるのが早い。村ならまだ日はかなり高いが、山では下りる準備を始めないといけない時間だ。
ようやく崖にやってくると、二人は辺りをおそるおそる眺め回した。誰かが通った痕跡や、落ち葉がなくなって腐葉土が剥き出しになっていないか確認する。
必死に眺め回して、二人は息を吐いた。
「大丈夫……みたいね。」
リカンナが確認するように言った。
「待って。」
危ないので早く切り上げて行こうとするリカンナを、セリナは引き止めた。心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。直感だ。
「あそこ。あそこはまだ見てない。」
セリナは一番奥を指さした。
「でも、あそこは危ないよ。落ち葉が深く積もって滑りやすいし、もう、斜面になってるから。」
一番危険だと言われている所で、かなり昔に着られた大木の向こうだ。本当に大木だったので、切り株もかなり大きく人の背丈以上ある。大きすぎて他のことに加工すらできず、放置されているものだ。今では危ないところの目印に使われている。
「ここに籠は置いていくから。あんたはここにいて。何かあったら助けを呼んでね。」
セリナは自分が見に行くつもりで背負い籠を下ろし、体勢を低くしてそろそろと足下に注意しながら近寄った。切り株に捕まり、道からは見えない少し下の方を見た時だった。
「!」
「セリナ、大丈夫?」
「た、大変! 滑った後が!」
セリナはよく見ようと一歩動いた瞬間、切り株の捕まっていた出っ張りが、白蟻に食われて腐っていて壊れ、体の均衡を崩して尻餅をつき、そのまま斜面を滑落した。無我夢中で手を伸ばし、何かに捕まった。
木の枝だ。ありがたいことに人の太腿くらいの太さがある。だが、その太さが災いした。斜面を滑落し、勢いのついたていたセリナはぶら下がった途端、勢いをころすことができず、手が滑って下に落ちた。
ズザーッと音がした後、足が何かに当たって止まった。何が何だが分からなかった。しばらく呆然としてしまう。セリナは非常に運が良かった。落ち葉溜まりに落ちて少し滑落した後、大岩に足の裏で地面につく形で止まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます