第3章 狩り中の失踪
第19話
次の日、セリナとリカンナは若様とフォーリの狩りに付いて行った。芝刈りや薪を手に入れるため山林にはよく入るし、春には山菜、秋にはきのこを取りに行くので、山歩きには慣れていた。だが、それ以上にフォーリと若様の山慣れは想像以上だった。野宿をしたことがあるというのは、嘘ではないだろう。しかも、ただの野宿ではなさそうだ。
そして、それに付いていく兵士達にも、内心で感心した。都から来た兵士なので、勝手に山歩きなんかは苦手だろうと思っていたのだ。
それでか、とセリナは納得した。しばらく前から、二人一組で若様の食事担当の役割で村娘達が付いていくことになっていたが、最初はみんな張り切って大喜びで行くのに、帰ってきたら二度と生きたくないとばかりに、疲れ切った顔で口を
セリナとリカンナが背負い籠に入れて背負っている荷物は、若様とフォーリの分だ。兵士達は自分で自分の物は持っているので、運ぶ必要はない。フォーリなんかは自分で持てば良いじゃないの、とセリナは心の中で文句を言った。
山をあちこち歩いているものの、今日の収穫はない。なければ一昨日のを食べるしかないのだが、フォーリの予想だと明日から明後日あたり、天気が崩れるらしいので、できれば今日、手に入れておきたいらしい。
お昼ご飯を食べ、セリナとリカンナの荷物は減ったが、フォーリは
「このまま何も捕ることができなければ、罠をしかけます。」
フォーリは若様に説明している。
「うん、分かった。夕方になる前に戻らないといけないし、罠を仕掛ける時間を考えると、狩りが出来る時間はそう残っていないね。」
若様は飲み込みが早かった。
「そういうことです。ぐずぐずしていられません。」
フォーリが立ち上がり、若様もパンなどをくるんでいた布を畳んで立ち上がった。
「ありがとう。二人とも重いのに運んでくれて。」
若様はセリナに布を返しながら、困ったように微笑んでフォーリの元に歩いて行く。それを見送ってから、ようやくセリナは息を吐いた。昨日のことを思い出し、緊張しすぎて何も答えられなかった。せっかく声をかけてくれたのに。何てもったいないとをしたんだろう、とセリナは地団駄を踏みたくなった。
その間に兵士達が歩き出している。その一番最後をリカンナに促されてセリナも歩き出した。
「若様って、顔も性格も悪くないのに、可哀想な方だね。」
リカンナが小声でぽつりと言う。
「うん、そうだね。」
「あんな顔されたら、うっとりしちゃう。恥ずかしくて、いつも顔をちゃんと見れないよ。」
リカンナがため息をつきながら言うと、セリナも同調した。
「うん。可愛いわよね。思わず頬ずりしたくなっちゃう。」
「さすがにそれはまずいでしょー。でも、良かった。あんたが普通に女で。」
「……もう、何よー、それ。」
ここは山の中で、さらに兵士達が落ち葉を踏む音などで会話は聞こえないから、二人は久しぶりにそんな話で盛り上がった。
「いたぞ、追え…!」
突然、兵士達の声が響いた。獲物がいたらしい。普通なら犬を放すが、残念なことに若様は犬を飼うことを許されていないので、持っていない。自力で獲物を捕らえなくてはならないのだ。
急いで後を追っていくと、兵士達が数人、山の斜面を駆け上がって行くのが見えた。落ち葉が積もって滑ってもおかしくない所を、
やがて、歓声が上がり無事に獲物を捕らえたようだ。鹿を射たらしい。
「良かったね。これで、若様のお食事も数日間、心配ないね。」
食べきれない分は兵士達の食料に回ったり、
それはさておき、セリナとリカンナは自分達もほっとした。先日、あんな深刻なやり取りを見せられてしまえば、この仮は身分の高い方々の単なる余興などとは、全くの別物だと認識せざるを得ない。そう、生死に関わる重要な問題だ。
「…若様? 若様、どちらにいらっしゃいますか?」
フォーリの声が響き渡った。みんな鹿を狩ってほっとしていた直後のことだ。
「若様、若様……!」
親衛隊の兵士達に緊張が走る。セリナとリカンナも顔を見合わせ、急いで近くに走り寄った。狩りの間は、邪魔にならないようにつかず離れずの距離を保っていたのだ。
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