Ⅵ.半分は恋、半分は夢。
授業終わりのホームルームが終わった。俺がリュックを背負って立ち上がろうとした時、数人のクラスメートたちの話し声が耳に飛び込んできた。
「四宮が告るってよ。」
え?俺は耳を傾けた。嫌な予感がする。
「まじで?いつ?」
「この後告るって。八度が言ってた。」
八度とは、四宮の友達だ。四宮や立椛と同じクラスの男子生徒で、いわゆる取り巻きだ。
「相手誰なの?」
「半田さんだって。」
嫌な予感は的中した。四宮、お前だけには立椛と関わってほしくない。リュックを背負って立ち上がり、立椛のクラスに向かった。
○ ○ ○
「四宮君、どうしたの?」
「あ、あの…。」
四宮悟は深呼吸をして言葉を絞り出した。
「立椛さん、俺と、付き合ってください!」
廊下を歩いていくと、声が聞こえた。四宮悟だ。興奮したような騒ぎ立てる声が聞こえる。俺は教室を覗き込んだ。教室の真ん中で、立椛と四宮が立ち並んでいる。その奥で、八度などの野次馬が数人、集まっている。告白を見物されても恥じないのか。厚顔無恥な奴だ。同時に、何故か焦りが生じた。気が付くと、俺も野次馬どものように立椛の返事を待つだけの存在になっていた。駄目だ。あいつだけには。激しい感情が俺を襲う。これは、嫉妬…か?
「告白してくれたのは嬉しいんだけど、ごめん。」
立椛が答えた。俺はホッと胸をなでおろした。一喜一憂とはこのことを言うのだろう。よかった、まだチャンスは残っている。いや、残っているに決まっているんだ。俺と立椛は運命的な関係に違いない。一度離れ、また再開する。いかにも運命の相手、というような関係じゃないか。俺は自分を鼓舞する。その度に自信がバブルのように膨れ上がっていく。焦燥感が優越感に勝り、両想いを確信した。俺が好きだから、立椛は四宮を断った。そうに違いない。
「ごめんね、私、彼氏いるの。」
え?
野次馬の中、一人時が止まったように感じた。そうか、俺のことを彼氏だと思っているのか。そうだそうだ。あり得ない戯言を妄想して無理矢理冷や汗を止める。
ちょっと待て、聞いてない。あいつ、彼氏がいるのか?もしかして、振る為の嘘を言った…?そうだ、そうに違いないよな。まさか…。
「ごめんね、でも告白してくれてありがとう。」
そう言って立椛は振り返り、ガックリと項垂れる四宮悟を背にしてこちらへ歩いて来た。俺は逃げるようにして物陰に姿を隠そうとした。
「あれ、零じゃん、こんなとこで何してるの?」
「よ、よう…。じゃあな、バイバイ!」
自分の声が震えている。俺はその場から逃げるように離れた。
「え、零?どうしたの…?」
遠くで立椛の声が聞こえたが、振り向く勇気も無く、俺はただただ階段を駆け降りた。
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